第0話 ひとくいマンイーター 12

 「飲み物いらないの?」

 「いる。普通に忘れてきたの。ぶっちゃけしんどい」

 「お茶飲む?」

 「あ、もらっていい?」

 フェンス裾のでっぱりに、デフォキャラとふたりで並んで座ってお弁当を広げる。お弁当だけ持って教室を出てきてしまったわたしに、デフォキャラがペットボトルのお茶を分けてくれる。ありがたい。

 「うえっ。なにこのお茶、痛んでない?」

 独特の臭みと風味が喉にスゥーッと効いてこれは、ありがたくない。

 「プーアル茶だよ。そういうもんだよ。たぶんだけど」

 「そうなの?なんかカビ臭いんだけど」

 「えー、カビかなぁ?鉄っぽくておいしくない?」

 身体にもいいんだよーたぶんだけど、とか曖昧なことを言いながらデフォキャラはプーアル茶をごくごく飲んでいる。まあ、飲んでいるんだからきっと大丈夫なんだろう。

 「かわいいお弁当だね。なんか、カラフル」

 「そう?成り行きで作ることになっちゃっただけだから、すごい適当だけど」

 「あ、自分で作ってるんだ。わたしもなんだよ」

 うち、お母さんが家事やらないタイプでさー、とかなんとか。

 わたしのお弁当は冷蔵庫にあるものを適当に詰めてきただけなので、チンしただけの冷凍ブロッコリーとか、切り目を入れただけのウインナーとか、あとプチトマトとか、だいぶいい加減な感じだけれども、デフォキャラのお弁当は自分で煮付けたっぽい切干し大根とかひじきとか、手作りであろう小ぶりでかわいらしいハンバーグなんかでレベルが高い。豆腐かおからでかさ増ししているらしく、ハンバーグは白っぽい。ごはんだって五穀米だし。高タンパク低脂質の超健康メニューである。

 「根本的な質問で恐縮なんだけど」

 「うん?」

 「魔法少女ってなにをするの?」

 「あー」

 魔法少女だからね、というのはビルから転落しても余裕で無事に着地できてしまうところをデフォ子に目撃された際に、なんか知らないけど自然と口からついて出てしまった出まかせであって、たぶん沢城恵の定番の設定なのだろうけれども、残念ながらわたしは別に魔法少女ではないので魔法少女がなにをする職業なのかは知らない。でもまあ、デフォ子のほうは魔法少女だからで納得してくれているみたいだから、そのまま押し通した方がいいだろうなという感じがある。

 「世界のバグを修復する仕事……かなあ」

 「バグ?」

 「世界の敵、と言ってもいいけれど。そのまま放置しておくと、世界そのものの存続を脅かしかねない存在。そういうのを未然に消したり牽制したり、無力化して確保したり、そんな感じ」

 「へー、全然知らないけど、なんかそういう悪いやつが居るんだね」

 「悪い、というのともまた違うんだけど」

 と、わたしは魔法少女設定を誤魔化すために、プログラムのエージェントの仕事について話す。たぶん、一応このへんは守秘義務てきななにかがアレなんだけど、かなり抽象的な話しかしていないから、これぐらいなら大丈夫であろう。

 「たとえば、赤潮ってあるじゃない?あれは太陽光を遮断しちゃったりして、海洋の生態系を破壊してしまったりするんだけれど、でもじゃあ、赤潮を引き起こしているプランクトンは悪かっていうと、そういうわけでもないじゃない?」

 「……うん?」

 デフォ子は自分から話を振ってきたくせにあまり興味がないのか、あっという間に虚ろな顔になってしまったけれども、わたしもわたしでわりと一度話を始めるともういいやってなかなかならない傾向があって、そのまま話を続ける。

 「プランクトンのほうは別に、俺たちでモリモリ増殖して太陽光を遮断して海の生態系を徹底的に破壊してやるぜヒャッハーって思って増えてるわけじゃなくて、単に自分たちの本分を全うしているだけなんだよね。そこに悪意や害意があるわけではない。でも、やっぱり現象として見ると、それは世界の敵ではあるわけ」

 「ふーん、なんかよく分かんないけど」

 と、デフォ子は白いハンバーグをパクリ。もぐもぐ。

 「赤潮の場合は原因は人間のせいなんだから、悪いのは人間なんじゃない?プランクトンじゃなくて」

 「誰のせいか、というのも別に問題ではないのよ」

 わたしはピッと、お箸の先をデフォ子のほうに向ける。デフォ子がおもちゃを目の前に出された猫のように、その先端をじっと見つめる。わたしが話をしながらお箸をタクトのように振ると、デフォ子の視線もその先端を追う。

 「もちろん、根本の根本的な原因を追究してそれを排除するっていうのも大事なんだけど、現にいま赤潮が発生しているっていう状況で人間のほうをどうにかしても仕方がないじゃない?それよりなにより、まず優先されるのは世界の存続のほうだから。たとえ。ソレ自体にはなんの落ち度もなかったとしても、世界の敵となってしまった以上は排除するしかないってわけ」

 「ふーん、そういうものかー」

 「だから、正義とか悪とか、良い悪いという話ではなくて、やっぱりバグの修正というのが一番近いかな」

 わたしは次第に、デフォ子に説明するというよりも、まるで自分自身に言い聞かせるような感じで喋っている自分に気付く。誰になにを言い訳したいのか分からないけれど、なんだか言い訳じみたことを言っている。デフォ子のほうはそんなわたしの話をちゃんと聞いているんだか聞き流しているんだか、曖昧な表情で曖昧な空模様を眺めながら「なんか、耳の痛い話だなぁ」と呟いた。

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