第0話 ひとくいマンイーター 11

 とにかく黙って椅子に座ってじっと前を向いているだけの長い長い午前中の授業がようやく終わって、やっとお昼ごはんの時間である。なにしろ朝ごはんもトーストを一切れを食べただけなのに、それすらもゲロにしてトイレに流してしまったので、午前中はずっとお腹になにも入っていない状態だったのだ。お腹の空いている退屈な授業のなんと長いことよ。永遠かと思ったわマジで。

 はーやれやれと、成り行きで自分で作ることになってしまったお弁当を鞄から出して包みを解こうとしたところでビシバシ視線を感じて顔を上げたら、ブスの女がひとり、こちらをジーっと見ている。

 なんだ?なんか用か?つか、なんなのその距離感。お?やんのか?あ?んー?

 目を逸らしたら負けルールかと思って、こっちもこっちでブスをガン見し返していたのだが、すぐ後ろで机をゴトゴト動かす音がするから振り返ってみたら、同じようなブスが三人、机を動かしてくっつけているところだった。L字型になっていて、明らかにあともうひとつ机をくっつけて四角にする体。

 ブスを見る。ブス三人を見る。ブスを見る。把握する。

 なるほど?わたしの机を使いたいわけね?いつもは沢城恵がどこかに行くから、この机を使っているんだけれど、今日はなんでか沢城恵が自分の席でお弁当を食べようとしているから困っていたわけね。うん、分かった分かった。

 言えよ。

 そうならそうとそう言えよ。口ついてねーのかテメーはなにガン見してんだコラ言葉がなくても目と目で通じ合うほどの仲なのかオォン?と、視線にメッセージを乗せて伝えようかと一瞬思ったんだけれど、そうだそうだそういえば面倒ごとは避けないといけないんだったと思いなおして、お弁当の包みを持って黙って席を立つ。でもやっぱ腹立つからメッセージを込めてブスをガン見しながら教室を出る。

 さて、どうしたものか。

 廊下の窓から中庭を見下ろしてみるけれど、リア充限定サロンみたいになっているしベンチも全部埋まってるしで、とりあえず呪いの言葉を呟いて中庭も却下。かわいい小さなお弁当の包みとすっからかんの胃袋を抱えて校内をプラプラ歩く。階段を上がってみたら、屋上に出れたので覗いてみる。こっちはぼっち飯限定サロンって住み分けらしい。ポツポツとところどころにぼっち飯が点在している。うーん、それはそれでなんか負けた気になるけど、まあ仕方ないか。

適度な距離感で点在しているぼっち飯とぼっち飯の中間くらいのところで、フェンスの裾の微妙な出っ張りに腰掛ける。膝にお弁当箱を載せて、包みを解く。なにはともあれ、ようやくお昼ごはんだーと思ったら、またなんか視線を感じるからバッと顔を上げる。

 今度はブスじゃなかった。うん、わりと綺麗めの顔。でも、あんまり印象に残らなそうな、平均的な顔。デフォルトキャラクターって感じだ。

 デフォルトキャラは屋上の扉を出たところで、こっちを見て首を傾げていたけれど、わたしと目が合うとスッと目を逸らしてどこかに歩いて行こうとする。ん?でも、あれ?なんか見覚えがあるぞ?えっと、なんだっけ。

 「ねえ」

 わたしはつい、そう声を掛けてしまう。デフォキャラがピクンと反応して、こちらを振り返る。見つめ合う。

 「あ」

 「あ」

 お互いに、同時に声を出す。

 「ひょっとして、魔法少女?」

 デフォキャラは、自信のなさそうな声でそう言った。

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