第0話 ひとくいマンイーター 6

 <ストリームワンの物理ボディの回収の目途は経っていません。新規ボディの建造を申請してみますが、承認が下りるまでいましばらくかかるでしょう。申し訳ありませんが、当面はその緊急徴用した物理ボディでなんとかしてください>

 「了解。わたしの拠点への回収は?」

 <自我同一性の検査が完全に終了するまでは本部に物理的に帰還していただくことはできません。それまでは、その物理ボディを使って自力で生存していて頂くことになります>

 「つまり、この人間のふりして普通に生活していろってことね」

 <その理解で結構です>

 くそったれ。わたしは小さく毒づいて通話を切った。

 沢城恵。16歳の女子高生。まあいいだろう。どうせ当面の仮の宿だ。とにかく疲れていたわたしは休息を取るべく沢城恵の自宅の情報を記憶から読み取る。現在地から電車で一駅の距離。まだ電車も動いている時間だし、スマホケースには定期券も入っている。とはいえ。

 「乗るのか、電車に。この格好で?」

 わたしはもう一度、いまの自分のファッションを見下ろす。魔法少女コスチューム。

 やれやれ、と溜め息をつく。

 そうするしかなさそうだった。この程度のことで無駄にエナジーを消費すべきではない。もっとも妥当な移動手段はどう考えてもそれだった。一瞬、顔を両手で覆ったわたしだったが、諦めて駅の方角を目指すことにする。

 「あれ、大丈夫だったの?」

 と、唐突に声をかけられて、わたしは咄嗟に身構えた。振り返ると、制服を着た女子高生が立っていた。髪はショートカット。肌は透けるように青白い。

 「えっと、大丈夫って?」

 わたしはまだ混乱していたが、反射的に記憶を走査して、こういった場合に沢城恵がとりそうなリアクションをエミュレートすることで、ほぼ自動的に対応していた。

 「なんか、ビルの上から落ちたように見えたんだけど。普通に生きてるから」

 「ああ……」

 見られていたらしい。どうする、誤魔化すか。認識操作を仕掛けるか。と、わたしが悩んでいる間に、また身体が勝手にリアクションを返していた。

 「魔法少女だからね」

 言ったわたしが驚いているのに、言われた女子高生のほうは特に驚く風もなく。

 「へえ、そうなんだ。言われてみれば、たしかにソレっぽいね。ファッションとか」

 と、あっさりと納得している。

 「学校のみんなにはナイショだよ☆」

 沢城恵の身体がウインクしながらそう言った。

 そう。沢城恵の記憶の中にも、その女子高生の着ている制服の情報があった。

 これはどうやら、魔法少女がその秘密を同じ学校の生徒に目撃されてしまった、というベタベタでありがちなシチェーションのようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

Androidでは正しく
設定できないことがあります。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

新規ユーザー登録無料