第0話 ひとくいマンイーター 5

 <ストリーム部隊各員、状況を報告せよ>

 <こちらストリームツー、スタンバイ>

 <ストリームスリー、スタンバイ>

 <ストリームフォーからセブン、スタンバイ>

 <ストリームエイト、スタンバイ>

 「ストリームワン、スタンバイ」

 <戦闘配備完了を確認、3カウントで突入開始だ。3、2……>

 最後の1を頭の中でカウントして一気に扉を蹴破る。

 ストリームフォーからセブンは連携して正面から突入する陽動部隊。残りのストリームツー、ストリームスリー、ストリームエイト、そして、わたしストリームワンのいずれかが一気に本丸まで駆け抜け頭を取る。この、いずれかが、というのが肝要なポイントだ。誰でもが誰でもと自由にポジションをスイッチし、臨機応変に波状攻撃をかける柔軟性と、圧倒的な速力を旨とするのがプログラム最強の我らストリーム部隊である。

 同時にナンバーツーのヴォルテクス部隊も大外から大火力で圧をかけていっているはずだ。ヴォルテクス部隊はストリーム部隊とは対照的に、リーダーのヴォルテクスワンを中心としたトップダウン型の統制で一点突破を旨とする部隊である。なんというか、まあ、いけ好かない連中だ。

 <ストリームフォー!エンゲイジ!>

 無線を通じて銃撃戦の音が聞こえてくる。陽動部隊が早くも派手に交戦を開始したようだ。狭い通路をひた走るわたしのほうはまだ誰とも遭遇していない。

 先の見通せない曲がり角をノンストップで駆け抜ける。通路の先にケイオスランジャーズの戦闘員をふたり視認。銃を構えてはいるが、まだ砲身はわたしを捉えてはいない。コンマ秒以下で銃口を向け立て続けに引き金を引く。弾の行く先はもう見ない。時間の無駄だ。そのまま駆け抜ける。通信の暇もなく絶命したはずだ。わたしの位置はまだもうしばらくは知れないだろう。今のうちになるべく奥まで一気に攻め込む。

 <こちらストリームスリー、コントロールルームを制圧。ロックを解除した。このままここを維持する>

 「了解」

 上出来だ。全速力で走り続けるわたしの前方の扉が次々と開いていく。未だに一度も減速していない。このままのペースでいけば間もなく最深部に到達するだろう。そこで頭を取れば今回のミッションはほとんど終了。あとは消化試合のようなものだ。

 身体を大きくバンクさせ全速力のまま直角に曲がる。また出会いがしらに戦闘員。即座に銃口を向け、撃つ。撃とうと思う前に身体がオートマチックに対応している。敵はまだ、わたしの存在すら捕捉していないはずだ。

 再び速度を落とすことなく角を曲がる。と同時にわたしの首をなにかが刈り取った。

 「う゛っ」

 首を支点に180度回転。反射的に認識を拡張。ブーストされスローモーションになった上下逆さの視界の中に、わたしはそいつの後ろ姿を視認した。

 空中で身をよじり反転して着地。

 ウェーブのかかった、長い赤毛。そして年甲斐もない派手なファッション。今時エナメルのブルゾンとか着るか普通?

 「イフリーテス!!」

 名を呼ぶ。

 イフリーテス。炎の魔女。プログラムと敵対する最大規模の危険団体、ユニオンの首魁。世界最強の、鬼だ。

 そいつがすれ違いざまにウエスタンラリアットでわたしの首を刈りにきたのだった。

 イフリーテスが振り返る。片足に体重を預け、腕を組み、リラックスした表情。

 「あら、こんなところで奇遇ね。ストリームワン」

 「なんでお前がここに!?」

 「んー?いわゆる、アルバイト?」

 ケイオスランジャーズとイフリーテスのユニオンは別に恒常的な協力関係にはないはずである。それが、プログラムの強襲の日にたまたま用心棒を依頼されているなんてことは考えづらい。つまり。

 「襲撃を予め把握していた?」

 「正解。10ptあげましょう。まずは背中を警戒しなさいって、この世界じゃ常識でしょう?」

 瞬時にいけ好かない巨乳馬鹿の顔が思い浮かぶ。ヴォルテクスワンか。よっぽどわたしのことを引きずりおろしたいらしいが、それにしたってユニオンにプログラムの動向を流すなど愚の骨頂ではないか。冷静な判断力を失っている。

 「こちらストリームワン!イフリーテスとエンゲイジ!」

 <イフリーテスだって?>

 <応援に向かうか?>

 「必要ない。こいつはわたしがここで食い止める。ストリームツーとストリームエイトはそのまま進んで」

 <ウィルコ>

 「あなた相手にこのおもちゃじゃあ心もとないわね」

 わたしは手に持っていた銃をパッと虚空に消し、代わりに厳めしい装飾の長剣を顕現させる。オブジェクト001。地上最強の聖剣エクスカリバー。プログラム最強エージェントの証だ。

 「これで、今度こそ決着をつけてやるわ」

 「あらあら、決着なら、あなたの負けってことでとっくの昔に何度も何度もついてると思うんだけれど。負けを認められない人ってイヤあね」

 わたしはエクスカリバーを構え跳躍した。

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