第19話 別れる覚悟でございます


 私がボスゴブリンを倒したところを見ていた村人さん達は、喜んだ。



「お、おい、みろ!アイリスちゃんが勝ったみたいだぞ!」

「え? 本当に?」

「スゲェ……トゥーンゴーレムってFランクだよな?」

「最近のゴーレムは格上にも勝つんかぁ……スゲェベな……」



 戻ってきた私のところに、3人と2匹が駆け寄ってきた。



「アイリスちゃん……うぅ…よかっよぉ…勝てて…」

【すいません、ロモン様。ご心配おかけしました】



 私は膝をかがめて抱きついてくる少女を受け止め、抱きしめ返す。



「でも…本当にあんなのに勝っちゃうだなんて……」

【リンネ様も私がの取り逃がしたゴブリンの殲滅、ご苦労様でした】

「うん……アイリスちゃんが来る前より……ぼく……すごく強くなってた…! ありがとう」



 リンネちゃんも私の背中を抱きしめる。



【スゴインダゾ! オドロイタンダゾ! ヨクアンナノニカテタンダゾ!】

【エエ…ホントウニ…スゴイワ】

【お二人にも、ご迷惑をおかけしました】

【ソウダゾ! ボクモ、ゴブリンタオシタンダゾ! エッヘン!】



 私はニ匹に、顔だけで対応しておいた。

 いまは両腕が塞がってるからなね。

 そして私はウォルクおじいさんの顔をじっとみつめる。

 彼は私にのみ、念を送ってきた。



【……ついに、進化するんだな?】

【はい、ですがその前に色々と準備しなくてはいけません。そして、お願いしたいことが2つほどあるのですが……】

【あぁ、なんじゃ?】

【ではあのボスゴブリンの棍棒を回収して、後で私に渡してください。それともう一つは_____】

【うむ、わかった……】



 私とおじいさんでしんみりとした話をしている中、村人達は口々にロモンちゃんとリンネちゃんのことを褒め称える。



「リンネちゃん、ものすごく剣捌きが上手くなってたぜ!」

「ロモンちゃん、回復魔法使えるようになったのかい? すごいねぇ…」

「いんやぁ、この2人の成長が楽しみだんべ!」

「「えへへ、どうも」」


 

 そうこう話をしているうちに、村人という野次馬達は一人、また一人と安心したように、帰っていった。

 皆が皆、なにか村長宅に差し入れするとお礼を言いつつ公言しながら……。


 そうして、村人が全員いなくなった頃、私達3人と3匹も家に戻る。



「ふぅ……疲れた!」

「そうだねー、でも一番頑張ったのはアイリスちゃんだよ!」

「そうだね! 何と言っても村が無被害で済んだのもアイリスちゃんのおかげだもんね!」

【それは、リンネ様とロモン様、それとケル様とガーナ様が頑張ったおかげでは?】

「それでもアイリスちゃんは一人で一気に半分減らしてたじゃん! すごいよ、やっぱり」



 ロモンちゃんが私の頭を優しくなでてくれる。


 ………この人達と一緒に居られるのは今日で最後かもしれない、そう思うと無い目から涙が出てきそう…。


 ……今夜、私は進化することに決めた。

 魔王になるか、極至になるか…。


 私がもし魔王になったら、すぐさま殺してもらようにウォルクおじいさんに頼んである。


 だったら進化しなきゃいいじゃないと、私も最初はそう思った。

 だけど、満月の晩になったら、いやでも魔物は進化しなきゃいけないらしい。

 しかもその満月は……明日なのだ。


 明日、強制的に進化する。

 ならば今日の夜に、みんなに見守られながら散るか、生き残るかの賭けをした方がいいんだ。


 そうだ、これで最後かもしれない。

 二人にお願いごとをしてみよう。



【ロモン様、リンネ様、一つお願いがあるのですが……】

「なになに? どうしたの?」

「できることなら言って?」



 二人はニッコリとした顔で私を見る。



【ありがとうございます……その、今日はお二人一緒に私をお風呂に入れて欲しいなと…】

「いいよ! 今日がんばったもんね!」

「アイリスちゃんからの初めてのお願いだもの、もちろん入れてあげるよ」

【ありがとうございます、では今すぐ】

「え? ん、いいけど」



 今すぐという言葉に疑問を抱かれたみたいだけど、快く引き受けてくれた。

 

 これで美少女二人の美しい裸体を拝めるのも最後かもしれない。おお、眼福眼福。

 私はお風呂場の中でそう考えながら、泡だらけになって洗われている。

 なかなか気持ちいいんだよ、これが。


 身体全体を磨かれ、泡をお湯で流してもらい、

お風呂から上がると、丁度お昼時になっていた。

 そうだ、ご飯も私が作りたいな…本当に万が一のためにも、思い残すことはないようにしないと。



【ご飯、私が作りましょう】

「え? いいの? 疲れてない?」

【ハイ、疲れてなどいません】

「なんか変なの……今日、どうしたのかな? アイリスちゃん?」

「さあ…」

 


 私はそう言いわれつつも台所に立つ。

 ロモンちゃんは本当に勘がいいのかもしれない。

 まさか無表情の土塊である私からの言動で何かを察するなんて。


 とりあえず、私は腕によりをかけて料理を作ってみた。

 人間としての記憶にある限り、私の得意料理。


 この世界にも同じ材料があってよかった。




【どうぞ、召し上がれ】

「え! すごーい! なんで料理?」

【ロールキャベツと申します】

「おいしそう!」

「「いただきまーす!」」



 私は、私の料理を美味しそうに食べてくれる二人をにこやかに…まぁ、表情は変えられないんだけど、ニッコリとした気分で見ている。


 おじいさんも、空気を読んでるのか、なにも言わずに美味しそうに食べてくれている。


 ご飯を食べ終わった後、二人には少し単独修行してくると嘘をつき、誰もいない森の中で1時間ほど、ボスゴブリンの棍棒に爆流状を込める作業と、瞑想を何回も繰り返す。


 つまりは、棍棒を爆弾化させてるんだ。


 もし、私が魔王種になったら、すぐさま私に向かってコレを投げつけるように、ウォルクおじいさんには頼んである。


 この棍棒は、当たった瞬間に、私のMP満タン10回分の魔力が大爆発を起こす。

 巻き添えを周りが食らわないように、爆発範囲は小さくなるように、でも威力は高くなるように細工もしてある。


 仕込みは終わったので家に帰ると、二人は私に赤いリボンを、白いリボンを結んでない方の腕に結んでくれた。プレゼントだって。


 裁縫屋さんが来て、二人の服と一緒においていってくれたんだそうだ。


 その他にも梨やら、新しい包丁やら、なんかたくさん貰ってた。


 午後3時頃には、たくさんありすぎる梨で三人でパイを作った。

 とてもよくできていたそうだ。私はたべられないけど…。


 最後かもしれないひと時を、私はちゃんと過ごせたのかな?

 

 今日は楽しかった、本当に。

 この平和な時間が続けばいいのに。

 死にたくない……どうか、どうか極至種でありますように。



◆◆◆

 

 

 午後5時になった。


 私はこの場にいる3人に念を送る。



【皆様、ついてきて欲しい場所がございます……私の最後のお願いとなるやもしれません】



 ロモンちゃんとリンネちゃんが座っていた場所からガタッと勢いよく立ち上がった。



「ねぇ……それ、どういうこと?」

「そうだよ! 今日、ボスゴブリン倒してから、なんかアイリスちゃんおかしいよ?」

【……その理由は……その場所でお話しします。ウォルク様、お願いします】



 おじいさんはスクッと大きな物音をたてずに無言で立ち上がり、棍棒とロープを手にした。



「おじいちゃん! その棍棒とロープはなに?」

「なに……するの?」

「アイリスちゃんについていったらわかる。目的の場所で教えてやろう」


 

 おじいちゃんのいかにも真面目そうな声色、顔をみて、ロモンちゃんとリンネちゃんは、なにか相当なことがあると察したようだ。


 二人とも、とても不安そうな顔をしているが、どうやら覚悟は決まってるみたい。



「「わかった……ついてく」」


 

 私達は森の中のある場所にむかった。

 そう、私とロモンちゃんが初めてであった場所へと。


 

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