閑話 私は変タ……ノーコメントでございます。
私があの世界そのものによって見せられている記憶巡りは、自分の人生を客観視しながら追体験するもの。内容自体は私の前世で比較的重要な場面に限られているが、それでもすでに長いこと自分の記憶を見ている。
そんな大事な記憶の中で時たまに、私は私自信の欲望が暴走している片鱗を見ることがある。そう、今も丁度、そんなタイミング。
「ばぁや、お風呂入ろー?」
「はい、喜……承りました」
今の場面はだいたい、私が高校生に成り立てでお嬢様も中学生に成り立てと言ったところ。私とロモンちゃんとリンネちゃんの現在の年齢に近づいてきている。
それにしても……お嬢様の何気ない提案が私の心を躍らせる。今の私と昔の私、両方の。
とはいえ本来なら、中学生にもなってメイドと風呂に入りた今というお願いなど、注意してから断らなければならない。そうゆう年齢ではないのだから。
ただ、私もお嬢様離れなんてこのころは頭の片隅にすら考えていなかったはずなので、このように簡単に受け入れてしまうのだ。自分ながら不甲斐ない。
とりあえず私達は脱衣所へと移動した。
四歳の頃からお嬢様のために入浴時間は彼女と共にしなければならなかった前世の私にとってはこれが当たり前だったけれど、今思えばここはあまりにも広すぎる。お城のものとほとんど変わらないくらい。
「ね、それ毎日やってるけどさ、私の身体になんかついてる?」
「いえ、小さなお怪我等がないか確認しているのです」
昔の私は無垢な姿になったお嬢様を必死に凝視していた。
それはもう、がっつり。お身体のチェックは半分本当だけど、ここまで眺める必要はない。
側から見れば言い訳ができないほどの変態。ロモンちゃんやリンネちゃんにもこんな感じだったのかと思うと我ながら頭が痛くなる。
そう、今もこうして記憶の中のお嬢様から目を離せない私自信にもうんざりだ。……ぐへへへへ。
「そ、そうなんだ。もういい?」
「ええ、構いません」
「じゃ、はいろ」
ちなみに、私自信だからわかることだけど、今、昔の私は必死で鼻血が出そうなのを耐えている。いかにも「私、エリートのメイドでございます」みたいな顔してるけど……変態なのバレないようにしてるだけ。尚、今の私も正直危ない。
浴場も非常に広く、豪華。
ただ、ここへの立ち入りが許可されているのは蛇神家の血筋の者と、付き人として石上家の血筋の者、そして専属の掃除係のみであり、さらに二組以上が同時に入ることなど今までほとんどないので、こんなに広い必要は本来ない。
「よし、じゃあばぁや、今日も洗いっこしよう」
「ソンナ、お嬢様ニ、ワタシナンカノ、カラダヲ、アラワセルナンテー」
「いいんだよ別に。……このやりとりも毎回やらなきゃだめなの? 毎日一緒に洗いっこしてるのに?」
「建前は必要ですので」
「不便だね。やっぱり私が当主になったら、こーゆー古臭い決まりごと全部無くしちゃいたいな。時代遅れなのよ」
「……私からは何とも言えません」
お嬢様はいつからか、古い決まりごとを無くしたがるようになっていた。
特に、蛇神家の者として血を紡いでいかなければならないお嬢様だけでなく、私までもが将来、結婚相手を決められてしまうというのが大層気に入らないようだった。
……それはともかく、昔の私は垢擦りタオルにたっぷりとボディソープを含ませ、後ろを向いたお嬢様の美しすぎるお身体を至極丁寧に拭き始める。
お嬢様の肌は白蛇に負けないくらい……といったら流石にオーバーだが、とにかく白く美しく、ツヤツヤしている。ああ、できることなら昔の私と場所を変わりたい……。
「痒いところなどはございませんか?」
「うん、ない。背中終わったら代わろうね」
「はい」
このように残念ながら背中しかさせてくれない。さすがに御御足や前方など、他のお体は触れないのである。幼少期はそこまで面倒見てたけど実に残念。
あーあー、昔の私ったらお嬢様からお顔を見られないからってそんな悲しそうな顔しちゃって……。はしたない。
「ではお願いします」
「うん、任せて」
主君であるお嬢様が私の身体を洗い始めた。腕をいっぱい動かして擦っている。なんて可愛らしいのでしょう。本当に昔の私にはその場所を代わって欲しいと思う。
ちなみに、昔の私の肌はお嬢様に引けを取らないくらい白いが、今の私の方が白さで言ったら上。今の私はゴーレムのせいか陶器に近いもの。
「ばぁやってさ」
「はい」
「強いし鍛えてるはずなのに、男の人みたいにゴツゴツしてないでしょ?」
「してませんね。体質の問題かと思いますが」
当時の私は、リンネちゃんに近いお腹周りの体型をしていた。まあ、今の私も鍛えまくってるから近いけど。
とにかく、昔は少なくともフェザー級ボクシング選手くらいの体格になって要らぬ戦いを避けるため、外見上でも強そうに見せかけたかったから、見た目では筋肉がわかりにくい体質というは少し残念だった。
単純に仕事の合間に格闘技の映像を趣味として頻繁に見てたのもあって、それに憧れてたのもある。
「それに練習たくさんしてるのに傷も少ない」
「ふふふ、それは私が武の才能があるからです。それに関しては自信を持って言えますよ」
「いいねー、強くて綺麗って、すごくカッコいい。ばぁやは私の自慢だよ」
「……そうですか。そう言われるとくすぐったい気持ちになりますね」
「うんうん、ばぁやはすごい! 完璧!」
「き、恐縮です……。あのすごく恥ずかしいです、それ」
「へへへー」
む、無邪気な笑顔のお嬢様ッ! なんと可愛らしい。
そういえばロモンちゃんとリンネちゃんにも同じようなこと言われてるっけ。私はどうやら4つほど年下の女の子に気を遣われやすいようだ。
「うん、こんなところかな。バッチリ!」
「ありがとうございますお嬢様。では、あとはお身体を洗って入浴致しましょう」
身体を洗って、必要な処理や処置をした後、私たちは大きすぎる湯船につかる。今日はその湯船一面に薔薇の花弁が浮かべられていた。うーん、掃除係さんの趣味だろうけれど、あまりにもベタだ。
「薔薇の匂いがする」
「ええ、優雅ですね」
「寝てる時とお風呂入ってる時が一番身も心も安らぐよ」
……まだまだ子供のお嬢様から、まるでOLのような発言。それほどに、普段から命を狙われる可能性がある生活というのは精神を削る。たしかに滅多に直接襲われることはないけど、それでも大変だと言わざるを得ない。
「…………んー……」
「どうかされましたか?」
「いいなと思って。ばぁや、すごく大きいわけじゃないけど普通にあるもん。私なんかぺったんこだよ?」
お嬢様は自分のお胸を摩り、その後、昔の私のと見比べてそう述べた。いやいや、私としてはお嬢様のようなぺったんこの方がぐへへ度が高く唆るというもの!
……ぐへへ度って何かしら。変な造語は作らない方がいいわね。
「お嬢様、年齢が上がれば順当に成長してゆきます。今焦らなくてもよろしいかと」
「うん、そうなんだけどさ……昨日ね、ばぁやも一緒に見たでしょ? テレビでやってたドキュメントで……」
お嬢様が見たドキュメントというのは、ほぼ盲目の少女をその幼馴染みの少年が真摯に介護し続けるという感動モノ。その二人はお嬢様と同年代だった。
盲目の少女は某有名チェーン店のオーナーの娘であり、少年の方はIQが200を超えてるとかいう話だったような気がする。ふんわりとだけど思い出した。
当時はそんなすごい子が実在するんだ……なんて、世界的財閥のお嬢様のメイドを生まれついてからずっとしている、中々その子たちに引けを取らない人生を歩んでる私が、図々しくもそんな感想抱いたりしたっけ。
そしてお嬢様曰く、その盲目の少女が、私の胸部のそれと同等かそれ以上のものを持っていたように見えたらしい。
「だからね、どう思う?」
「特別、発育が良い女性というのは世の中には存在します。気にすることはありませんよ。私に筋肉があるように見え難いように、それもまた体質ですから」
「そっかー、やっぱりそうだよね」
なんとなく気になるという気持ちはわからなくもないが、正直、どうでもいい。注目すべきはその些細なことを気にするお嬢様が可愛さである。
世間一般とはまるで生き方が違うお嬢様でも年相応の考えをし、こうして昔の私に相談するっていうのが愛おしくてもうたまらない。ぐへへへ。
「……っ!? なんか寒気がする……」
「おや、お湯の温度が低かったのでしょうか?」
「う、うーん、そんな感じじゃないけど……気のせいかな。そろそろあがろう」
「そうですね、そうしましょう」
そうして、お嬢様と昔の私は浴場から出て寝巻きに着替え、お嬢様のお部屋に戻ってきた。なお本来ならこの時点で私は業務を終え、私に与えられた部屋に戻っも良いのだけれど、そんなことはしない。
「今日も一緒に寝る?」
「その方がよろしいのでしょう?」
「うん!」
こういうわけで。
私とお嬢様はそのあと、しばらく休んでから就寝した。
お嬢様の寝顔はまるで天使だが、私の寝顔はお世辞にもいいものとは言えない。顔立ちの問題ではなく……お嬢様に抱きつかれて眠るのがよっぽど嬉しいのか、口元が緩み、はしたないことになってるからだ。
……ああ、いいなぁ。ギュッて。ほんとそこ代わって欲しい。
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アイリスの変態加減を書いとく必要があると思って、急遽、この話を作成しました。誰しも欠点はあるものです……たぶん。
次の投稿は来週の火曜日(1/26)の予定です。
予定変更する場合は事前にこの場所に追記いたします。
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