第329話 いざ出陣でございます!


 ついにこの日が来た。

 今日が魔王軍の拠点に攻め入る日。私もガーベラさんも戦える準備をしっかり整えてからお城へ赴いた。午前八時に今回の戦いに参加する戦士達が集まり、王様の演説のあと出発する手筈になっている。

 ただ、今はまだ朝の六時。私達のような主要メンバーは少し早く招集されているの。



「おはよう、アイリスちゃん」

「昨日はラブラブできた?」

「ええ、それはもう過激なほど」

「「か、かげきなラブラブ……!?」」



 いつもと変わらない様子でロモンちゃんとリンネちゃんが私とガーベラさんのもとにやってくる。恐怖などを抱いている様子は一切ない。ただ、今はなぜか二人とも顔を赤らめている。



「ぼく達も結構気持ち的に余裕だけど、さすがに前の日に体力を使うのは良くないんじゃないかなぁ?」

「そ、そうだよ! お姉ちゃんのいう通り……!」

「そうですか? でも特に問題はありませんよ」

【で、戦ってみてどっちが勝ったんだゾ?】

「あはは、それが引き分けだったんだよ」



 ケルくんとガーベラさんの話を聞いて、双子は安堵したような表情を浮かべた。どうやらなにかが考えていたものと違ったみたい。私は普通に事実を述べただけなのだけれど……私とガーベラさんが過激なスキンシップをするって、試合をする以外何があるのかしらね?



「あー、びっくりしたぁ。……調子自体は悪くないんだね?」

「ええ、それはもう。いつでも戦いに行けます。お二人はどうですか?」



 ロモンちゃんとリンネちゃんは顔を見合わせ、にっこりと笑った。普通、魔王なんてやばい存在と戦いにいくっていうのに笑う余裕なんて起きないはずだけど……。



「絶好調! 楽しみだよ、すごく。私達は今まで頑張ってきた」

「うんうん、たくさん特訓してきたよね!」

「だからこそ全力を出して、倒してしまっても構わない相手と戦えるの、とても楽しみなの!」

【どっかの誰かさんのせいでリンネもロモンも戦闘狂になりかけてるゾ。きっかけはだれのせいかゾ?】

「私ですね……はい」

「む、ケルもぼく達も同じようなものでしょ!」



 そう、ロモンちゃんとリンネちゃんは今回の戦いをどうやら強くなった自分達の実力を出し切れる場所だと認識している様子。このような思考を植えつけてしまったのは確実に私。

 それはそれとして、今回のことの重大さを認識できていないわけでもない。そもそも二人とも頭もいいし。全てちゃんとわかった上でこのような態度をとっている。確信してるのね、自分たちが勝つことを。



「だからって、あんまり前線に出過ぎて不必要な怪我とかしないでくれよ。本当は自分の娘達を戦いに参加させること自体嫌なんだから」

「パパの言う通りよ。何かあったら絶対守ってあげるからね」



 いつのまにか二人の後ろまで来てたお父さんとお母さんがロモンちゃんとリンネちゃんを半ば強制的に、強く抱きしめた。不安そうな両親の表情を見て双子は黙って抱きしめ返す。



「お父さん、お母さん」

「どうしたのロモン」

「この戦いが終わったら、どこかお店食べにいこ!」

「いいね! 食べ尽くしちゃおうよ!」

「ははは、また出禁にならないといいけどな」



 がっしりと抱きついたまま気を使ったように二人はそう言った。……出入り禁止になったことあるの、始めて聞いたわ。今まで結構な暴飲暴食してきたけど、それでも私と一緒の時は一度もなったことなかったから。お店の壁でも食べたのかしら? いままででセーブしてた方なのね?



「じゃあその時はぼくもお呼ばれしようかな?」

「お、王様!? いつのまに……」

「ふふふ。子供達の方が不安がってるんじゃないかって思ってたんだけど、そんなことないみたいだね。むしろ無鉄砲しないか心配なぐらい」



 お父さんとお母さんと同じように突然現れた王様はガーベラさん、私、ロモンちゃんとリンネちゃん、そしてケルくんの順番で目線を向けてきた。



「ぼくはリンネちゃんとロモンちゃんくらい脱力してた方がうまく戦えると思うよ」

「し、しかし王様……」

「大丈夫、絶対僕達がもっとも望む形で勝つ。王様の名にかけてそうはっきりと言ってあげる」



 そうなる根拠なんてないはずなのに、王様は自信満々にそういった。何か根拠があるというよりも私達のことを全面的に信頼してくれている様子だといえる。



「……ともかく、あとは時間になるまで朝ごはんでも食べながら作戦の最終チェックしよーね。それともガーベラくんとアイリスちゃんの式場でも決める?」

「なっ……そ、それは今は流石に……!」

「うん、さすがに冗談だけどね」



 王様からそんな発言があるとは思わなかった。すごく恥ずかしい。でもこんな感じでこの人は私達を全力で元気付けて、躍進出来るようにしてくれてるんだ。期待に応えなくちゃ。

 王様だって戦闘の現場にはいかないけれど、護衛として残しておくべき兵力を全てこの戦いに回すという危険を冒してくれるのだから。

 

 

「アイリス」

「……はい?」

「王様が未来を信じているように、俺も未来を信じるよ」

「はいっ」



 未来が見えるガーベラさんがそういうんだもん。やっぱり、大船に乗ったつもりで大丈夫なんじゃないかしらね!



◆◆◆



「よいしょっと、これちゃんと燃料入ってる?」

「大丈夫ですぞ」



 王様が台の上に登った。拡声器を大臣さんから受け取り、それを口に当てる。私達は予定通りこの街で一番広い場所に集められていた。それぞれこの日まで練ってきた作戦通りの編成で並んでいる。



「えー、みんな集まってくれてありがとねっ! わかってると思うけど、今からみんなで魔王を倒しにいくからねー!」

「うおおおおおおお!」



 やっぱり見た目が可愛い王様は人気が高いのか、あちこちから湧き上がった声が響いている。士気を上げるには自分が演説すれば十分、そう、この直前に王様は豪語していたけれど、実際その通りになっているみたい。



「実はね、みんなで魔王を倒すって試みは今まで少ないんだよね。勇者一人っきりに任せるパターンが多かったの。でもそんなの……正直、愚策だと思わない? みんなの脅威はみんなで潰さなきゃ! しかも今回は魔王が本格的に進撃を始める前から僕達のほうから動き出すってわけ! ……つまり、余裕で勝てるってわけだよ!」

「「「おおおおおおおおお!」」」

「じゃ、ここで今回の主役である勇者の登場だよ! ほら、ガーベラくんあがってあがって」



 台の近くで待機していたガーベラさんも台上にあがって王様の隣に立った。ガーベラさんに緊張している様子はない。王様はガーベラさんに拡声器を手渡した。



「俺がガーベラ。今代の勇者だ。是非とも皆の力を借していただきたい」

「うんうん、君が元から強かったおかげで、こうして魔王討伐にも早くのりだせたからね。……君の強さはもう、十分広まってるからみんなついていってくれるよ」



 王様のいう通り、ガーベラさんが勇者として申し分ないほど強いということはすでにみんなに伝わっている。王様が招待した名だたるS級の猛者達を一方的に倒してきた。その結果が今につながっているってわけね。それも王様の作戦だったのだろうけど。



「それじゃあ、タイガーアイが魔王の拠点より少し離れた場所に置いてきてくれた移動魔法陣でみんなを一気に飛ばすからね。覚悟はいい?」



 みんな無言になった。それは覚悟を決めているが故の無言。

 王様は全体を一瞥してから少し微笑むと、右手をサッと挙げた。それと同時に私達はタイガーアイさんが大元として握っている紐を掴む。このタイガーアイさんを軸に多数に分岐した紐を全員が掴むことによって、彼に釣られて一気に瞬間移動できるってわけね。



「じゃあ、誰一人欠ける事なくいってらっしゃい。僕はそれができるって信じてるよ」



 私達は光に包まれ_____。

 気がつくと森の中にいた。ここが、魔王の拠点の目と鼻の先。

 私達の本当の戦いが今から始まる……。







#####


すいません、前回の投稿予定表記を1日早く間違えてました。

今日が正しい投稿日です。


次の投稿は3/16日です!

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