第319話 勇者が就任したのでございます!
『改めて、勇者として任命されました。ガーベラと申します』
ガーベラさんは王様から拡声器を受け取り、みんなの前で挨拶をし始めた。ユーカン草の実に触れたあの時のように、とても真剣な表情。出で立ちも凛々しくてカッコいい。
『王様の御話にもあったよう、俺はユーカン草の実、そして賢者の石によって勇者へと導かれました。……俺には愛している人がいます。彼女との未来のためにも、もちろんこの国を守るためにも、全力で魔王と戦い、必ずや打ち破ってみせます』
ガ、ガーベラさんったら……! まさかそんなこと言うなんて。打ち合わせではそんなセリフなかったじゃない。でも王様は驚いてないし、事前に許可はとてっているのかしらね。ほんと、たまに予想以上に大胆なことしてきてドキドキする。
「おおおおおお!」
「えーっ、彼女いるの!?」
「魔王倒したらお姫様と結婚ってわけじゃないんだー」
「あの二枚目と付き合うなんてどんないい女なんだ?」
特技を使ってみんなの反応を盗み聞いてみると、魔王に対する不安、勇者に対する期待の他に、ガーベラさんの顔の良さや彼女がいるということに対しての言葉が多かった。
そりゃ、あんなこと言ったら彼女がどんな風なのか気になる人も出てくるわよね。私、周りは綺麗だって言ってくれるけどロモンちゃんとリンネちゃん、お姫様のように絶世の美女ってわけではないし、その時になったら批判されたりしないかしら?
「ガーベラくん、それ貸して」
『はい』
『えー、そういうわけだからね! すでに彼はSランクの強さを持ってるから! 大船にのったつもりでみんな居てね! もちろん僕も騎士団長達と一緒に彼を全身全霊で援護する! みんなも手伝ってくれたら……嬉しいなっ!」
王様は小首を傾げながら自分の可愛さを最大限に活かしたお願いの仕方で民衆に呼びかけた。みんな湧き上がっている。私やガーベラさんは今日、この国で王様が王様っぽく演説したりしているところは初めて見たけれど、いつもこんな感じなのかしらね。やっぱり性別も年齢も間違ってるわ、あの方は。
『さて、じゃあここで質問の時間! 貴族の皆さんはなにか僕達に質問はないかな?』
「では王よ、一つよろしいですかな!」
『よろしいですとも!』
貴族の集まりの中から一人のおじさまが手を上げた。ちなみにその集まりの中には立派な服を着たおじいさんもいる。動きづらいから今日の服はあまり好きじゃないって言ってた。
「勇者、ガーベラ殿の装備品に賢者の石が見受けられませんが……あれは一体何処に? 本当に魔王より先に入手できているのですか?」
『ああ、それは心配だよね。でも大丈夫! 場所は教えられないけどちゃーんと賢者の石は保有してるよ。ガーベラくんも、僕も、大臣も確認済みだよ。じゃあ次の質問……はい、どうぞ!」
「陛下、ワタクシ心配なんザマス。先程のジャリア侯爵への解答通りなら勇者は賢者の石を肌身離さず所持しているというわけではないのでなくって? あの石の恩恵はあるのでザマスか?」
『それも大丈夫! もともと賢者の石は未成熟な勇者を強くするのに使われることが多かったんだけど、今回はガーベラくんがすでに強いからね。それに詳しくはいえないけど、ちゃんと恩恵はあるようにできてるから全然オッケー!』
「そ、そうなんザマスね……!」
それからも王様は貴族の方々の質問を難なく解答していく。ぼかしているところはうまくぼかしているわ。特に賢者の石が人であることとか。もしこの中にオーニキスさんみたいな裏切り者がいたら大変なことになるもの。
ちなみにオーニキスさんのことは質問に出そうな雰囲気ではあったけど、誰も口には出していない。というよりか、出すつもりがないのだと近くにいたコハーク様が教えてくれた。オーニキスさんの裏切り自体はある程度の地位がある人には広まってるはずだけどね。
というのも王様は貴族の方々の間でも、愛くるしさで人気があり、わざわざこんな大勢の国民の前であの人を陥れるような発言をする人は居ないらしい。他国とのいざこざがルビィ王になってから全くないのもあの可愛さのおかげだって噂をここ最近で聞いたし……王様がどんな特技持っているか気になってきたわ。
『質問はこの辺でいいかなぁ? じゃあ任命式と就任式を終わるよ! みんな、これからリンネちゃん、ロモンちゃん、アイリスちゃん、そして勇者ガーベラくんをよろし……ん?』
「すこし、下がっててください王様」
「ふぇ……?」
ガーベラさんが突然、槍を取りだして王様を下がらせた。本当に、唐突の行動。こんな時に敵襲かしら。ガーベラさんは目線を何もない空に向けていて何を見ようとしているかわからないし……。
「ちょ、ガーベラくん? 敵かい、敵なのかい!?」
「……ええ。しかし空から来るのはわかっているのですが、明確な場所がわからない」
「見えない敵ってこと?」
「はい、予感しました。……やります」
「や、やっちゃえ!」
「莫大……光流サミダレ!」
ガーベラさんは自分の槍に光線を流気のように纏わせ、ランスロットさんの持ち技『サミダレ』の予備動作である回しをし始めた。いや……やっぱりオリジナルより長いかしら。
しばらくしてガーベラさんが槍を斜め上、空に向かってに突き出すと、光線を帯び、太く螺旋状に渦巻いた槍状の衝撃が無数、天空に散らばっていく。
そしてその衝撃波の一つが明らかに何かを貫いた。
「グギェエエエエエエエエ!」
「うわあああああ!」
「なんだありゃ!?」
攻撃されたことで姿を現したのは大きな鳥の魔物。確か名前はタペペドン。あんまり強そうじゃない名前に反して、亜種以上となると確実に透明化する特技を覚える凶悪なAランクの魔物。体の模様と能力的に確実に亜種ね。
……おかしい、お城周辺には強力な魔物が近づくとすぐ分かるよう対策が施されているはずだし、この場には私を始めこの国を代表するSランク、あるいはそれに該当する実力者が大勢いる。なんで気がつけたのがガーベラさんだけで、それも勘によるものだったのかしら。
とりあえずタペペドンはガーベラさんの攻撃によって一撃で倒すことができたようで、力なく、街のどこかに墜落したのが見えた。
「い、いまのは……?」
「タペペドン、透明化特技を持つ魔物ですよ。しかし、なぜこんなところに」
「……なるほど、そういうことか」
「何がです? コハーク様」
「実は、古くから疑問だったんだの。歴代の魔王はいつもなぜか勇者と戦う前に勇者を必ず把握していた。一説では魔王の力で強化されたタペペドンという魔物が視察に使われているのではと言われていたのだが、もしかしたら……っ!」
そこまで言うと、コハーク様は急いで王様の元へ駆けて行った。それと同時に、ロモンちゃん、お母さん、おじいさんという魔物の専門家達が動きだした。
いきなり攻撃を仕出して魔物を倒すガーベラさんや、おじいさんをはじめとした大物達が集まってくるなどにより状況の把握ができない民衆は酷くパニックになっているわ。そんな中、自分の家臣達を身振りだけで静止させ、王様は拡声器を再び手に取ったの。
『みんな、一旦静まってね……静まって! 僕の可愛さに免じて静まって! そう、コハーク達もだよ。いいね。……よし。えっと、僕もびっくりしてるよ。どう考えたって魔王からの刺客、あるいは偵察役だよね。たぶんAランクだし今の魔物。……ふふ、でもこの通り! ガーベラくんはいち早く察知して倒しちゃった! すごいでしょ、すごいよね! これが勇者ガーベラ、現時点での実力の一端だよ。みたよね、みんな。だからそこまで心配する必要はないんじゃないかな? ねっ!』
そう言うと、拍手がパラパラと起き、ガーベラさんの名前をみんな口々に呼び始めた。そしていつしかそれが大合唱となる。勇者ガーベラが、みんなの勇者ガーベラに、確かに成った瞬間だった。
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