第303話 賢者の石でございますか?
「じゃあまず、この石の効果から説明しようね」
「承知しましただの」
コハーク様は別の文献を私が運んできた山の中から数冊引っ張り出してきて、王様に言われた通り効果から説明を始めた。賢者の石の効果は大きく分けて六つ。
まず一つは、賢者の石を持っている生き物の、魔法や特技の威力、使い勝手を著しく向上させるというもの。ただ全ての属性に等しく効果を高めるというわけでなく、その所有者が元々才能を持っていたものか、逆に苦手だったものに限られる。
魔法や特技には運動能力とかと似ていて、人によって属性の得手不得手がある。例えばロモンちゃんなら魔物使い魔法だし、私なら回復魔法と光属性が得意といったところ。その得意なものをもっと伸ばしてくれるということね。個人特技(例えば私なら回復魔法や光属性を超強化してくれている、それらのこと。私の場合は種族特技になってるけど)を習得した事例もある。さらに今まで苦手だったものは普通程度まで修正してくれるみたい。
ガーベラさんは自分の得意な魔法が雷属性や光属性と把握しているとこの場で公言した。その二つの属性については、すでにそういった個人特技すら習得しているみたい。そんなガーベラさんの魔法がもっと強化されるの……? すごく楽しみ。
二つ目は魔力の回復速度。賢者の石を所持した生き物は魔力の回復がとてつもなく早くなる。魔力がすっからかんになるまで魔法や特技を使っても、数分休めば満タンになるらしい。
三つ目は体の再生。賢者の石を所持した生き物は、自然治癒力が生き物の限界を超えるらしい。というのも、仮に腕を切り取られたとしても生えてくるようになったりする。魔力と一緒で、手足がちぎれどんな死にかけの状態でも、数分休めば再び五体満足で活動できるようになるという。
四つ目は学習能力の向上。魔法でも武術でも、はたまた習い事程度のものでも、賢者の石を所持していたら一気に物覚えが良くなり、学べば学ぶほど実力が研磨されていく。つまり本人の努力が百パーセント反映されるようになるということ。どんな学習に対する努力も絶対無駄になるず本人のものになる。
それに努力する才能がある人ほどとんでもないことになるみたい。努力する才能と賢者の石の両方が揃うことで一年も経たずにSランク冒険者並みの実力を手に入れた事例もあるらしい。余談だけれど、一つ目の苦手な属性の克服は、こちらの効果のものではないかという説もあるみたい。
五つ目は上記の効果のうち一つ目と四つ目が所持者以外にも影響すること。その所持者と血縁関係だったり、特別仲がいい間柄だったりすると、本人ほどではないけど目に見えて効果があるのだという。さらに仮に所持者が教師などだった場合、学習能力の向上が加算され、生徒全員がその教師から教えられたことに関しての理解が深まる。
教えることに関しては仲の良さとかは関係ないみたいだけど、前述のと重複可能らしいから、例えばだけれど、もし所持しているのが父親で自分の子供に何か教えるとしたら、それは大変なことになる。その上で子供が元から天才だったり、努力が得意だったとしたら尚更とんでもないことに。
六つ目はモノに埋め込んだ時の効果。賢者の石は主に剣などに埋め込まれたりして使われる。その埋め込まれたモノにも影響を与え、アーティファクトでなくてもそれらしい効果が発言するという。だいたいとんでもない斬れ味になって、自己修復機能が付くだとからしい。
この六つが賢者の石の基本的な効果の全て。たしかに勇者が手に入れれば軽く魔王に勝てそうな気がするけれど、むしろ魔王が手に入れてしまったら、世界が滅びてしまうかもしれない。五つ目の効果で配下も強くなるってことだし。王様が賢者の石の発見に少し焦り気味な態度なのも納得がいくわ。
【……どれもこれも聞いたことがあるような話なんだゾ】
「ね、なんだか初めて聞く説明って感じがしないね?」
「どうしてかなぁ?」
ロモンちゃん達が三人で小声でそう話し合っている。確かに私もなんだか既視感があるというか。変な違和感が付きまとってくるわ。おじいさんやガーベラさんも何か覚えがあるのか首を傾げてる。
王様は足をあざとくパタパタさせながらみんなに向かって呼びかけた。
「覚えてもらえたかな? あとはどんな発見の仕方をするかをコハークが教えるよ。これもちゃーんと聞いててね、すごく大事だから!」
「この依頼の本筋とも言える内容じゃからな。では説明するんだの」
コハーク様は賢者の石の発見方法について話し始めた。まず賢者の石はどういう原理か人や物を認知する力がある。呼びかけてやったりすることによって、その活性化状態だという水色の発光を始めるらしい。活性化前はまた別の見た目をしてるってことかしら。こんな特性と四つ目の効果などと相まってなにかと知識が要求されるため、賢者の石と呼ばれるようになったのだとか。決して賢者という役職の人専用の石という意味ではないみたい。
そんな認知する力を応用して賢者の石は発見することができる。それにはやはり別世界の過去の記憶を持つ人物が必要になるとのこと。なぜか賢者の石は別世界の言葉に非常に敏感に反応する。輝きがより強くなり発見しやすくなるらしい。だから今まで勇者や過去の記憶をもつ魔物が、大勢の人物に出来るだけ別世界の言葉を教え、それを国内のいろんな場所でみんなで叫んで回るというのが正当な発見方法として行われてきた。偶然、一般の人がすでに持っていたという事例もあるそうだけれど。
しかしそうなるととてもシュールよね、単語を叫びながら国中を探し回るなんて。今までどの言葉で見つかったかの一覧もあるらしい。『バター・ジョウ・ユー』とか『ニク・ジャガー』『トンコツ・ラーメン』に『カレー・ライス』……。どれもこれも私もなんだか聞いたことがあるわ。全部食べ物ということもわかる。
「カレーライスってどんなのかな。絶対お料理だよね」
「アイリスちゃんわかる? 美味しい気がするんだ」
「ええ、今度お作りしましょうか」
「「うん!」」
たぶん他の三つよりは材料がなんとかなるかしらね。それにしてもロモンちゃん達まで初めて聞いた単語を料理だと判別できるとは、食いしん坊ってすごいわ。
「というわけで、ガーベラくんとアイリスちゃん、君たちの世界の言葉を教えてよ」
「その前に王様、賢者の石の活性化前の姿を知りたいです」
ガーベラさんがそう言った。たしかになぜ光らせる必要があるのかも把握しておいたほうがいいわね。叫んで回る必要があるほどなのか疑問だし。
「あ、それは必要だねガーベラくん! えっとね、たしかね……道端の小石と全く同じなんだよ。だよねコハーク」
道場の……小石!?
「そうだの。賢者の石は活性化状態になるまで、道端の小石と全く同じ見た目をしているんだの。だから普通じゃ絶対に判別不可能なのだの」
「なるほど、たしかにそれは大勢で言葉を叫んで回るのが早そうですね」
「でしょ?」
「ちなみに一説では、勇者が出現したと同時に普通の小石だったものが、共鳴か何かしてそのような力を持つのではないかともされているんだの」
ただの石の姿で、六つのうち五つが私と似たような力。別の世界の言葉を知っている。あ、あはは、いや……そんなまさか。だってそんな、私は……。
そういえば、コハーク様が巻物を広げた時にみた賢者の石の図のどこかでみたことある感覚。どこかと思い返してみれば、ゴーレムの時の私の胸の中にあった輝いていたものの光り方と同じなんだ。ああ、うん、そう、同じなんだ。
「あの、私からも質問良いですか?」
「うん、いいよアイリスちゃん。特に二人は賢者の石探しにおいて重要人物だから、気が済むまで質問してよ」
「手に入れた後の賢者の石って、どう使うんですか?」
「え? これは加工して剣や装飾品に埋め込んむんだよ。勇者が肌身離さず持てるようにね」
「……つまり、容器の中に入れていたりしたら使えないと」
「そうだね、何かで密封していたら、使えないことはないけど、一部の効果がかなり薄れちゃうみたいだよ。あ、でも所有者が自分の体に埋め込むのは別みたい」
そう、そうなんだ。密封してたら薄れちゃうんだ。となると取り出す必要がある。密封状態から。そっか……そっか。
「ねぇ、念のために聞くけどアイリスちゃん。なんかさ、ガーベラくんの件の時と様子が似てるんだよね。まさかとは思うけど、ユーカン草や植木鉢、勇者に続き、すでに知ってるか持ってたりするの? 賢者の石」
私の今までの様子をよく観察していたのか王様はもう気がついたみたい。どっちみち必要なものなんだ、正直に告白してしまったほうがいい。私は黙って頷いた。王様は破顔して喜んだ。
「すごい、すごいよ! すごすぎるよアイリスちゃん!」
「しかしもはや一体何者なのか……謎なのだの」
「いいじゃない、アイリスちゃんはアイリスちゃんだよ。それで、賢者の石はどこにあるの!?」
私は自分の気持ちを落ち着かせてからゆっくりと顔の横まで手を挙げた。私が手を挙げた理由は誰もわからないみたいで、みんな戸惑っている。いや、ガーベラさんだけはその勘で理解したみたい。顔が青ざめていっている。
流石に言わなきゃわからないだろうし、私は手を挙げたまま、賢者の石のありかをみんなに告白することにした。
「賢者の石はここにあります」
「うんうん」
「賢者の石は、私自身です」
「……へ?」
「……私が賢者の石です」
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次の投稿は9/9ですっ……!
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