第274話 アンデットのダンジョンのボスでございます!
【聞いて欲しいんだゾ】
「どうしたのケル」
【あと少しで進化するっぽいんだゾ】
「ほんと!?」
【そういえば私も】
「え、え、すごいよ!?」
ダンジョンは一体何周したんだろう。経験値はたっぷり手に入れられたと思う。やっぱり戦利品はないから金銭面は支出ばかりだったけれど、それを差し引いてもお釣りが出るくらいかしら。
おかげで久しぶりに進化する寸前までレベルが上がった。話の通りならケル君もね。ここ3日間ずっと頑張ったから当然といえば当然かもしれないけど。
「じゃあどうする? あと一回くらい出入りする?」
【ボスを倒して気持ちよくキリのいいところまで行きたいゾ。この姿での戦い納めだゾ】
「なるほどねー……アイリスちゃんはどう?」
「私もケル君の意見に賛成です」
【じゃあ行こうか!】
現在、ちょうどボスの部屋の目の前。
私たちはある程度私の補助魔法をかけてから先に進み、部屋の中に踏み込んだ。ダンジョンの中であるはずなのに、なぜかそこは大聖堂のような建物の広場にいるような感じの見た目。入る前はただの岩場だったからおそらくダンジョンの演出かなにかなのでしょう。
この部屋の真ん中に目を向けると剣を持ってタキシードを着た男の人が立っていた。でもその人から魔物の反応が出てる。
「あれ……顔とか腐ってないし、どう見たって人だよね……?」
「そのようにしか見えませんが、たしか……」
「うん、アンデットの中には進化すると肉体を手に入れて人と見分けつかなくなる個体もいるよ。でもそれは半魔半人というわけじゃないから人間とは言えないけど」
そういう状態になったアンデットは記憶が正しければ深く注意が必要な存在となる。その理由としてはまずSランク以上じゃないとそんなことが起こらないということ、そして、かなり高い知能を持っているということ。アンデットは基本、知性の高い魔物や人間より脳が劣るのだけれどこうなると物凄く知性が高くなる。皮膚と一緒に脳みそも再生しているらしいの。
「反応は……まあ当たり前だけどSランクだね……」
「で、でも私たちだけでSランクに挑むのって、初めてじゃないよね!」
「初めてではありませんが、勝ったこと自体はないですね……いつも助っ人が来てくれていました」
【それはいつも魔王軍幹部っていう別格の存在だったって聞いてるゾ。今回は普通のダンジョンのSランク。オイラ達だったら楽勝なはずだゾ。念のため本気は出したほうがよさそうだけど】
「そうだね……!」
【相手としては不足なしだゾ】
私たちがちょっとだけ怖気付いてた中、ケル君だけずっとやる気満々。やっぱり男の子だからかしらね? でもそうね、魔王軍幹部達より厳しい戦いになるなんてことはないはず。
本気を出すため、私たちで所持しているアーティファクトは全て取り出して装備した。人型で耐久力はない分、攻撃に関して凄まじいことをしてきそうだからロモンちゃんの持ってるテントウムシの盾がよく働いてくれそうね。
「動くよ……!」
リンネちゃんがそういうと、その通りタキシードを着たアンデットは剣を構えた。でも剣の構えにしては少しおかしい。どちらかというと棒状のものを握っているような柄の持ち方だ。
そう考えていると、その剣はケル君の鎧が球状から鎧状に形態を変えるときのように淡い光に包まれて形が変わってしまった。装飾の色合いなどはそのままに、剣が杖に。
「アーティファクトだね、あれ!」
「剣から杖に変化するアーティファクトでしょうか」
確かにそんな武器があってもおかしくはない。タキシードは杖先から魔方陣を出現させた。闇魔法の魔方陣だ。
「これで受けきれるかな……みんな体を寄せて!」
私たちはロモンちゃんを中心に体を寄せ合った。ロモンちゃんは盾の効果であるバリアを展開する。その瞬間、闇魔法は私たちに向かって光線状で放たれた。ものすごい衝撃が襲う。まあバリアに入ってたから大丈夫なのだけれど。
「くうっ……腕が痺れる……! まともに食らってたら大変だったよ」
「ありがとうございますロモンちゃん。では次はこちらからですね」
私はその場から動かずに魔方陣を展開させる。ちょっと見栄を張ってさっきの闇魔法よりふた周りほどの大きさで、光線状になるように。そして迷わず放つ。まばゆい光の柱が走っていった。
【アイリス、今ので倒しちゃったらつまんないんだゾ】
「Sランクが今ので倒れるとは思いませんが……」
「あれ見て!」
一番目のいいリンネちゃんに従って眼を凝らすと、長方形の盾を両手で握り込んで持っているタキシードの姿が見えた。受けたダメージはかなり少ないように見える。そしてその盾は剣や杖と同じようなデザインをしていた。
タキシードが私たちを警戒するように姿勢を治す。盾は淡い光に包まれて弓へと変化した。
「ああいう武器なんだよ!」
「うわぁ、Sランクの人型の魔物があんな武器使うなんて、厄介すぎるよ」
「そうですね」
盾で私の魔法を抑えられるほどの防御力を誇っているということは、形態変化だけでなく基本的な能力もかなりあるということ。かなり当たりのアーティファクトかもしれないけど、相手にするのは本当に骨が折れそうね。
タキシードは弓を上に構え、魔力を固めて作り出した矢を放つ。その矢は普通じゃありえないような軌道を描き、私たちに向かってきた。ただ何発もあったそれはすべてケル君の気と魔法によって掻き消される。
【ふう。こうなるとあらゆる武器に対応した技を持っておるかもしれないゾ】
「ぼくの剣技とかも使えるかな?」
【一般的な剣技も覚えてるよね? それなら絶対あるはずだゾ】
「よぅし……! みんな、サポートお願い!」
リンネちゃんはそういうと双剣を構えてタキシードに向かって駆けていった。リンネちゃんも剣の扱いにおいてはケル君と同じように実力を図りたいって気持ちがあるのはわかってたから、私たちは止めずにそのままサポートできるように準備をした。
「それっ!」
「………!」
リンネちゃんは一瞬で間合いを詰めて連続で剣を振り抜く。しかしその剣速は凄まじく早く、初めてタキシードにまともな一撃を与えた。弓から剣へ形態変化させる余裕もなかったみたい。
「まだまだ行くよ! えいっ!」
【いいゾ……リンネ、楽しそうなんだゾ……】
「確かにあのアーティファクトは強いですが、形態変化するまえに有利な武器で高速で責められるのは弱いみたいですね、流石に」
「そんなことできるのお姉ちゃんくらいだと思うけどね」
【次、リンネが一段落したらオイラやるゾ! オイラにタイマンはらせてほしいゾ!】
さすがはSランク、リンネちゃんの攻撃へのガードができていないのにやっぱり大きなダメージを受けている様子はない。ただリンネちゃんに対しての対抗が全く出来ておらず、斬られながら武器を剣に変えるも、速さと技術で競り負け、ハンマーや鎌、槍や棒などに変えるも全然意味はないみたいだった。
「お姉ちゃんしっかりお父さんに近づいてる。いいなーー!」
【グライドは、対人において最強だって話をオイラ聞いたことあるゾ。リンネ見てると多分その通りなんだと思ってくるゾ】
というよりこれだけやれているのだから、リンネちゃん自身もすでにSランクの魔物を倒せるだけの実力がついてるってことよね?
今回のダンジョンでレベルがしっかり上がったのもあると思うけど、それでも技術の上がり方が半端じゃないわ。
気がつけばリンネちゃんは双剣に光属性をまとわせていた。片方は私の体を素材として作った剣だけれど、もう片方は攻撃するたびに相手の光属性への耐性を際限なく低下させられるアーティファクト。つまりもう十分に下げたと判断したのね。
目視できる限りでも何回斬りつけたかわかんないもんね。これでもう決着つきそう。
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