第250話 火山に戦いに行くのでございます!

【……終わりました】



 リンネちゃんやジエダちゃんを治療した頃より魔力とかが上がっているおかげか、ものの10分で完治させることができた。それはいいんだけど、まさか丸焦げにされたこの冒険者がジエダちゃんくらいの年齢の女の子だったとは。可愛さもそのくらい。



「良かった……! 良かった……!」

「この子が自分の姿を見ていたらと思うと!」

「王都にはこんな優秀な魔物と魔物使いさんがいるんだねぇ……」



 私が治療している間に集まった怪我をした人達が自分のことよりずっとこの子のことを気にしていた。ちなみにその人達の治療はロモンちゃん、リンネちゃん、おじいさんの三人が済ませてしまっている。

 この子を丸焦げにした理由は何だろう。勇敢に立ち向かったから……というわけではないみたい。そういえば今まで戦ってきた魔王軍幹部は本人が女性だった奴を除いて若くて顔立ちが整っている女の人を狙う傾向にあった。

 最初はジエダちゃんと、大会でリンネちゃんと戦った人の妹、村の若い女の人ほぼ全員、さらにリンネちゃん。次に私。私に関しては顔立ちが整っているかどうかの疑問は省くとして、そして今回はこの子。



【この方だけがこうも攻撃された理由はなんですか?】

「この村を襲った奴は、見せしめと脅しのためだと言っていた。あと冒険者という職業なんだからどんな目にあっても文句はないだろうと」

「ああ、だがよりによってこの子にしなくてもっ」



 やっぱりその方が負の感情を集めやすいのかしらね。魔王軍幹部が何人いるかは正確には把握してないけど、そのうち幼い子供を襲う奴が現れてもおかしくはない。



「しかし助かりました。こうして全員完璧に治療していただいて」

「なに、こうなっていることを予測して国はアイリスちゃんを派遣してきたんじゃろうから、仕事の一環じゃよ。さて、本題に入ってもらおうか村長」

「はい!」



 私達は再び役所まで移動した。魔王軍幹部が待ち構えているっていう馬車を教えてもらわないといけない。



「あの……これはあの魔物自身が言ってたことです。明らかに罠だと思いますが……」

「なに心配はない。もし仮に誰か大怪我しても回復に関してはみせた通りじゃ」

「そうでしたね…! それではあの魔物から言われたことを間違いなくお伝えします」



 村長は語り出した。

 2時間前にやってきた火を扱う魔物が、王都から強い冒険者が国の従事者を連れて来いと言いながら村人達の家屋や産物の破壊とさっきの女の子を燃やして脅したこと。

 そしてその魔物自身が居る場所を示すため、もしターゲットがやってきたら火の魔法を空にうちあげろと言い続けていたことを。



「もし火の魔法を打てば向こうも空に向けて打ち返し、場所を示すそうです」

「なるほどな。其奴のやったことはそれだけか?」

「ええ、それ以外にはありません」

「わかった。……ロモンとリンネとアイリス、それにケルや、一応、周囲の人を守れる準備をしておくんじゃ」


  

 そう言いながらおじいさんは立ち上がると、破壊された壁から外に出た。この役所から50メートルほど離れた場所に立つと空に手を挙げ、火属性特有の赤い魔法陣を展開させた。赤い光弾が空に向かって噴出される。

 その瞬間返事をするように、ここから二つ離れた山の中腹から獄炎ともいうべき火柱が立ち上る。



「ふむ、この時点で奇襲をかけてくると思ったが、それは流石にしなかったようじゃの」

「奴はあそこに……!」



 おじいさんはこちらをくるりと向き、戻ってきた。いつも見たいな優しい表情のまま指示を出してくる。



「まずはケル」

【ハイなんだゾ!】

「特技の組み合わせにより空を飛べるんじゃったな?」

【その通りだゾ、できるゾ!】

「じゃあ幼体化を解いてロモンとリンを乗せ、先ほどの場所に向かうんじゃ。いいな? そしてロモンは空中では防御に徹し、リンネは空中に魔物がいた場合、それを迎撃してくれ」

【わかったゾ】

「「まかせて!」」



 二人と一匹がおじいさんに支持されたことをやり始めると、今度は私に向かってきた。



「アイリスちゃんはもともと空を飛べるんじゃろ?」

【ええ、私が貴方を連れてケル君と一緒に空を飛べばいいわけですね?】

「そういうことじゃ、頼むぞ」



 私も人間サイズの幼体化を解き、緑色の光線のような羽を広げ、魔流の気と自分の腕を駆使しておじいさんが乗りやすいようにし、乗ったのを確認してから空に浮かんだ。高く飛んだところで村人達は私とケル君を物珍しそうにしたから眺めて居ることに気がつく。

 そりゃ、飛ぶ犬と飛ぶゴーレムなんて普通はいないから仕方ない。



「では行こう。対空攻撃に注意するんじゃぞ!」



 おじいさんのその声で私とケル君は先ほどの場所に向かって飛行を始めた。私が補助魔法をかけて互いの進む速度も速める。

 飛びながら下を眺めるとわかるけど、普通に歩いて魔王軍幹部のもとに行こうとすると歩くだけで疲れてしまうようなコースになっていた。



「体力を削る荒い道に、さらに魔物を仕込んで居るようじゃな」

【わかるんですか?】

「まあな。リファイスライムやスファイラゴーレムなどが潜んでおる。やはり罠だらけじゃったか」



 女の子を好んで燃やすような奴が正々堂々と戦おうとするはずがない。やがて、山を一つ越えたところでこちらに向かって炎の塊が飛んできた。



「気をつけるんじゃぞー……っと、あの二人は便利なアーティファクトを持ってたんじゃったな。透明な壁が三人を包み込んだおる」

【ええ、あれには何度も助けれられました】

「ゆうて、アイリスちゃんもさっきから全く敵の攻撃を避けようとせんではないか。流石の魔法耐性じゃの。本来はゴーレムだから魔法に弱いはずなのに」

【ええ、ええ、この頑丈さにも何度も助けられましたね」



 ロモンちゃんとリンネちゃん達は無効化し、私はひたすらに耐えるうちに目的地に近づいてきた。近づくのはいいけれど、その度に魔法が荒くなっている。ま、そんなの私たちには関係ない。



「ついたな。降りれば奴の指定した場所じゃ。戦う準備はいいな?」

「もちろん、ぼくとロモンはできてるよ!」

【オイラも!】

【私もです】

「では行くとしよう。降下じゃ」



 ジーゼフさんのその言葉により、私達は全員、その火山の中腹へ降り立つ。ここまでくると観念したのか魔法による迎撃がない。

 探知をつけてみると、私たちから少し離れたところで巨大な反応が一つ。



「やはりSランクだけあって反応だけは大きいのぉ」

「だね、悠々と待ち構え立てるのがわかるよ」

「余裕そうだね」

「はつはっは、どうせワシらになんらかのパフォーマンスをしたいだけじゃ。地面には罠を仕掛け、空を飛んだ来れると魔法を乱れ撃つ。そんな臆病者が何かカッコつけたようなことを言ったら、ワシは高らかに笑ってやるぞ」



 私ではなくなぜかおじいさんを先頭にして私達はその反応の元へと進んだ。やがて大きな岩の麓に、一人の赤い髪でオールバックの、鎧を着こなした男性が立っているのが見える。その男性は大きな声で私に話しかけててきた。



「はははははははは! よく来たなか愚族である人間よ! 傲慢にも我に挑む自称強者の愚か者よ!」

「ほーっほっほっほっほっほ! よくいうわい、村を使っておびき寄せ、方々に罠を張っておくような弱虫がのぉ!」



 本当に笑ったよ。

 それにしても私以外にも、ケル君も、ロモンちゃんもリンネちゃんもおじいさんが他人を煽っているのは初めて聞いたみたいで目を丸くして驚いている。それに気がついたおじいさんはしまった、と言いたげな表情を浮かべこう言った。



「つ、つい現役時代を思い出してしまってな、は、ははは」



 私の中で紳士的なおじいさんのイメージがちゃっとだけ変わった瞬間だった。



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