第214話 デート当日でございます!
「んー、やっぱりかわいいよ!」
「たのしんでラブラブしてきてねー!」
「ま、まだラブラブなんて……と、とりあえず行ってきますね!」
「うん、まだ待ち合わせの40分前だけどね、行ってらっしゃい」
いつもより少し凝ってお化粧をして、服も昨日買ったばかりの高いやつを着る。
普段は気が向いた時しか髪飾りをつけたりはしないんだけど、今日はつけちゃったりして。
二人に見送られながら私はギルドへと駆けた。
あの二人のいう通り、早くですぎてしまったかもしれない。でも、こういうのって待たせるのダメじゃない?
私にとっては待ってるだけのほうが気が楽なの。
逆に女性は少し遅れて茶目っ気を出すのもよし、と、少し読んで見た恋愛の本には書いてあったけど、私の性格には合わないかな。
近いからすぐにギルドに着いた。待ち合わせ場所に誰かいる……?
「あ、アイリス!」
「ガーベラさん!?」
もうすでにガーベラさんがそこには居た。普段きてる鎧とは別物の、完全な私服。もしかして、私と同じでデート用にあしらえてくれたのかもしれない。
とてもよく似合ってる。……正直、カッコいい。
いえ、それよりも驚きなのが、私はかなり早く出たつもりだったのにもう既に彼がいるということ。
「まだ時間まで30分もあるよ」
「そ、そっちこそ……いつから待ってたんですか?」
「え、今から20分……っと、ついさっき来たばかりだよ」
「今から20分前には既にここに居たんですね、わざわざ言い直さなくていいのに」
「あはは……いや、女性を待たせちゃいけない、かなり早く来て、いつから居たのか聞かれたら今来たと答えろって、アドバイス受けたりしたんだよ」
「そうなんですか」
なんかよくわからないテクニック(?)だけど、でも結果的に言えばデートの時間が延びたことになるのだから、結果オーライなのかしら?
「だいぶ早くなったけど、もうどこかいく?」
「そうですね、どこか行きましょう。どこがいいですか?」
「………えーっと」
「はい」
ガーベラさんが連れてってくれる場所ってどこだろう。結構興味ある。
「そ、そうだね……とりあえず、あのー、城の目の前あたりまで散歩にでも……どうでしょうか?」
「良いですよ! 行きましょうか!」
たしかにお城周辺はお店が賑わってるし良いところ。私とガーベラさんは一緒に歩き出した。
……んー、こうしてガーベラさんと二人っきりでいるのってなんか緊張するなぁ。
だってこれデートなのだものね。
……そうか、これお出かけじゃなくてデートだった! となるとただ並んで歩くだけじゃダメじゃないかしらね?
な、何かしなきゃいけない? 手でも繋いでみようかな? なんだか照れ恥ずかしいので、あんまり私の彼の顔を見ないように手を伸ばして見た。
まだ彼に届かないはずの距離で、指先になにか暖かいものが触れる。
「ひゃっ!」
「おわっ……ご、ごめん」
「いいのです。こちらもつい……」
何故かお互いの手を触れてしまった。
あれがガーベラさんの肌の感触! 指先だけだけど、ロモンちゃんやリンネちゃんとは全然違うことがわかる。
「いや……なんだか恥ずかしいね、ははは」
「そうですね…っ」
なんと話していいやら。今まで単なる友達だったのに、いきなりこうやって付き合うことになって、以前よりあんまり喋らなくなるなんて。
無理にでも普段のノリを出したほうがいいのかしら。
できるかな。
「あ、あのガーベラさん!」
「な、なにアイ……アイリス!」
「えっとですね、そ、そうだ。今日お洒落さんですね!」
「ありがとう。アイリスとのデートのために買ったんだ……似合う?」
「はい!」
よしよし、いつものペースを戻せたと思う。なに、付き合うことになったからっていきなり対応を変えることはないのよ。ちょっと緊張しちゃうだけで。
そう、関係が悪化したわけじゃないし、それどころか、今後もっと深いおつきあい……になる…のよね。
「アイリス」
「ひゃい!」
「アイリスも今日はいつもと少し雰囲気が違うような」
「そ、それは……えへ、私もお洒落してきたんですよ。ロモンちゃんとリンネちゃんに一緒に選んでもらったんです! ……似合いますか?」
「とっても可愛い」
「ほぇ……」
可愛いって言われた。
どうしよ、改めてそう言われるとドキドキする。
可愛いって言われちゃった……私! なんでだろう、言葉は同じはずなのに、ロモンちゃんとリンネちゃん、そのほか知り合いの皆さんに言われるのと全然違う。
「ありがとうございます……」
「う、うん。とても可愛いから、これ本当」
「あり、ありがとうございます……」
「か、顔赤いよ? 大丈夫か?」
「はい…」
ちょっと暑くなってきた。いつもより薄めな服のはずなのに。これを見越してあの二人は選んでくれたのかしら?
いや、まさかね。
でも照れすぎちゃってなにがなんやらわかんなくなってるのは事実だし。助かったと言うべきなのかな。
「あ、いつのまにか城の前に着いたね」
「本当だ」
「ここから……昼食の時間に近いから、カフェに入るわけにもいかないし……武器屋でも見に行く?」
「はいっ!」
武器屋か、私的には悪くないと思う。
またなにか会話が弾むようなネタがあるかもしれないし。というわけで私と彼は一番近くにあった武器屋に入った。お城の前にあるので、武器としての価値が中級なものばかり売ってるお店。
私の身体を加工して武器にしてくれたような腕の良い鍛冶屋さんや武器屋さんはお城から離れた場所にあることが多いの。
「アイリスは剣を使うんだっけ」
「はい! リンネちゃんと一緒に練習しましたから! ところで……ガーベラさんはどうして槍を?」
「んー、経験があったからって感じかな」
「なーるほど」
徒手格闘もかなりのものだったのに、槍まで扱えるだなんて相当優秀な武術家なのね。
うん、さすがは私をたおした男。
「一緒に槍、やってみる?」
「いえ、私は剣の方が使いなれてますので!」
「そうか……ああ、もうそろそろ昼食の時間だし、どこかお店でも行こうか」
私と彼はここから一番近くにあるレストランに入った、のは良いんだけれど、ここ絶対ちょっとお高め。
ロモンちゃんとリンネちゃんとはたまにこう言う店入るけどね。か、彼氏と始めて二人っきりで入るお店が、こんな高級店でいいのかな? 私、緊張しそう。
かなり広いから昼食時にもかかわらず、私たちが座れる場所がきちんとあった。
「高そうなお店ですね」
「ん、んー、そうだね」
「とりあえずメニュー見てみましょうか」
メニューを開く。
挟まれていたのは本日のランチメニューと書かれた紙。一つのランチで3000ストン……!?
予想通り高級ね。まあ、私は懐があったかいから大丈夫だけど……。ガーベラさんはどうなんだろう。
「どうします?」
「俺はこのポークステーキのランチにするよ」
「あ、はい。じゃあ私はチキンのトマト煮込みで……」
杞憂だったかしら。つい、お金のことって気にしちゃうのよね。でもまあ、ガーベラさんだって相当儲けているはずだし……私が気にすることでもないか。
一応、夢はイケメンな男の人に玉の輿することなんだけど贅沢は言ってらんない。
それに、ガーベラさんがいいかな、なんて本格的な思ってきてる私がいる。
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