第177話 隠し部屋と中ボスでございます!
ケル君が見つけ、私が爆破した壁。
そこから現れた道をゴーレム状態の私を先頭にして2人と2匹で歩く。
過去に、出会い頭にいきなり毒を吐きかけるような中ボスもいたらしいから、そういう事態に備えて私が先頭にいるの。
「アイリスちゃん、見えてきた?」
【いえ…まだ先のようですね】
ボスより劣るとはいえ、その度合いも千差万別。
例えばボスがSランクの超越種などだったら、中ボスとしてAランク超越種が出ることだってある。
逆にいえば中ボスでダンジョンの大ボスがどんなランクがわかるんだけど。
「どんなアイテムもらえるかな?」
「斧のアーティファクトとかだったらどうする? 私たち使わないよね」
「普通に売っちゃえばいいんだよ」
うーん、私は売らずに取っておきたいけどね、アーティファクトは貴重だから何かに使えるかもしれないし。
……む、探知になにか引っかかった。
【探知に引っかかりました】
「どう?」
【おそらく…Bランクでしょう】
「ほっ…Bランクか、ならボスはAランクの可能性が高いね」
一度普通のAランクよりも遥かに強い大ボスを倒している私たちにとって、中ボス程度のBランクは怖くない。
寧ろあの時より強くなってるからもっと安全に倒せるでしょう。……相手によるけど。
【このまま突入しますか?】
【うん! ……ケル、敵がBランクなんだって。封書に戻っておいてくれる?】
【ゾ……デモ ケンガク シタカッタリ スルゾ】
【危ないからダメだよ。戻ってね】
【ぞぉ……】
まあ封書の中にいても私たちの仲魔なら経験値は入るから。心置き無く戦えるぶん封書に戻っておいてもらった方がいい。
【ケル君、お願いです。戻って頂けませんか?】
【グムム……シカタナインダゾ。モドルゾ】
ケル君は耳をくたんと畳み込み、残念そうな雰囲気を醸し出しながら封書に戻ってくれた。
【では行きましょう。あ、その前に補助魔法全般を掛けておきますね】
「「おおー!」」
探知でボスが入り込んだ場所まで私達は駆けて行く。そして、2分経ったくらいにちょっとした広場に出た。
広場は入ってきた入り口しかなく、ほかに出口になりそうなものはない。
間違いなくここが中ボス部屋ね。
「うわ、地面が!」
【お二人とも警戒を!】
いきなりこの部屋の地面中央が盛り上がる。
どうやらこれは演出の一つみたいね。……中から出てきたのは1匹の茶色いトカゲ。
大きさはヒュージリザードよりも、さらに何周りも大きい。四つ足で立っている姿ですらロモンちゃん、リンネちゃんよりそうかわらないように見える。
それにトカゲだなんて見た目は可愛いものではない。
寧ろ厳つさは恐竜やドラゴンに近いんじゃないかしら。
「……リスドゴドラムリザードだね」
「最上級魔法を持ってるだけでも警戒しなきゃね…」
属性系の魔物はスライムやレディバ、今回みたいにリザードなど数多くに存在する。
例外も多数あるけれど、だいたい初級魔法(ペアやファイなど)が名前の前に着けばEランク、中級魔法(リゴロゴやスバシャ)でDランク、上級魔法(リドゴドムやスビョウラ)でCランク、最上級魔法(リスペアラムなど)でBランク。
Aランク、Sランクともなれば魔法名の代わりにその属性の…なんか強そうな言葉が前に着く。
プレミネンスレディバ(火属性)みたいな感じでね。
ちなみに名前についている魔法をその魔物は必ず使える。つまり目の前の奴は土属性の最上級魔法を撃ってくるってことね。
「シャアアアアアア!」
リスドゴドラムリザードが咆哮をした。
それとともに私たち3人の踏んでいる地面…足元から突如、巨大な岩が勢いよく現れる。
「ふっ…」
「うわっ!?」
ロモンちゃんは取り出していたコロナの盾の効果で咄嗟にガード。リンネちゃんは流石の素早さで回避した。
ちなみに私はモロに食らったけどダメージはあまりない。防御も最大まで上がってるから当然だけども。
「びっくりしたなぁ、もう!」
「アイリスちゃん大丈夫?」
【何も問題ありません】
しかし不意をついて地面から岩のアッパーを喰らわせてくるとは中々やるわね。
一方リザードは私たちが無事なのをみて目を細めると、また一つ咆哮をする。
まるで自分を360度囲うように出現した岩の壁。
基本的に知能が低いリザード系がここまで最上級魔法の自由性を使いこなすだなんて。
「す、すごいね、あのリザード」
【しっかり使いこなしてますね】
「私、ダンジョンの魔物じゃなかったらスカウトしてたかも…」
残念ながらダンジョンの魔物は基本的に会話は無理。会話できても人に敵対心むき出しだから仲魔にするのは無理なのよね。
「くるよ!」
リンネちゃんがそう言うとともに茶色い魔法陣がいくつか展開された。
そこから槍状の最上級土魔法が連射される。
流石の私達でも…特にロモンちゃんとリンネちゃんは一度くらって体勢を崩し、結果的に連続で浴びせられることになればもう大変。
……それならそろそろ、こちらも行動に移すしかないわよね。
【二人とも少し下がっててください! いきますよ……リスシャドヒョウラム!】
闇氷魔法。
私はそれで大きくて厚い壁を作り上げた。ついでにこの部屋の半分近くの地面も凍らせた。また地面を使って魔法を強力にされても困るし。
「おお…さすがアイリスちゃん!」
【この隙にでかいの1発いきますよ】
「やっちゃえー!」
【はい! リスシャイラム!】
まるでドーム状の土壁に、上空からレーザー砲を放つようなイメージで私は得意な最上級光魔法を唱える。
かなりの地鳴りがする。……私達自身に被害が出ないように撃ったつもりだけどちょっと強すぎたかな。
「……どうなったかな、ちょっと様子見てみるね」
「気をつけてね…」
リンネちゃんが氷壁から少し顔を覗かせる。
「……目が動いた、まだ生きてる」
【なかなかにしぶといですね】
「ギシャアアアアア!」
また一つ咆える。
しかし今度は魔法ではなくただの咆哮だったようで、魔力を使わずに私達に突進をしてきた。
氷の壁があるのにそうしてくる意図がわからないわね。
【何するつもりなんでしょう】
「血迷ったかな?」
【いえ、これほど魔法を有効に使えるのです、なにか策が…】
ゴン、という大きな音がした。
氷壁が揺れ、一部に亀裂が入ったみたい。…というか本当に突進してくるとは。
「あれ…自滅しちゃった?」
「ん…たぶん、ヤケクソじゃないかな」
【ヤケクソですか】
私達は恐る恐る全員で氷壁の後ろから様子を見た。
完全に気絶している。どうやらロモンちゃんのいう通りヤケクソってのが正解みたいね。
「……うん、まあまあ強かったね! あとはボクに任せてよ」
そういうとリンネちゃんは素早く移動し、リザード系の魔物の心の臓を横腹から突き刺した。
これで外傷が少なめに倒せたわけだ。
ふふ、売るときに高くなるわね。
そろそろ私も人間の姿に戻ろうかな。
「ふう。……それでお宝はどこでしょうか」
「んー、どこかなぁ」
「はいケル、もう出てきていいよ!」
私たちが目だけでウロウロと周りを探してる間に、ロモンちゃんはケル君を封書から出した。
【ゾ…ゾゾ、ケッコウ アレテルンダゾ! ドンナ テキダッタノカゾ?】
【リスドゴドラムリザード、Bランクの魔物だよ】
【オイラ ヤッパリ タタカッテルトコ ミタカッタゾ…】
そう言ってしょんぼりするケル君を、ロモンちゃんはごめんねと言いながらなでなでした。
【ゾォ…。ダカラ ハヤク ツヨクナルゾ! トコロデ リンネ ト アイリス ハ ナニヲシテルンダゾ?】
【お宝を探してるんだよ。でも中々見つからなくて】
【ナルホゾ……ゾ?】
唐突に、思いついたようにケル君は、また鼻をすんすんと動かし始める。
【ゾ……コレガ 3ニン ノ ニオイ。コレガ…タブン トカゲノ ニオイ。ツチ……コオリ……! ゾ!】
ケル君はロモンちゃんの元を離れ、テクテクとトカゲの死体の近くまで歩いて行った。
そして立ち止まったのは、リスドゴドラムリザードが出てきたと思われる盛り上がった土の手前。
【ココホレ、ワンワン ナンダゾ!】
【さすがケル! ようし、任せてね! 今魔法で…】
【いえ、私がゴレームの姿で掘りますよ。その方がいい】
もう一度ゴーレムの姿に戻り、土をほじくり返してみた。中から出てきたのは、やっぱり一つの宝箱。
ケル君、またもや大手柄。
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