第142話 私、ピンチです。
「実力は申し分ないだろう。作ってやる」
「ありがとうございます」
鍛冶屋『ヨービス』にある一人の青年は仕事を頼みにきていた。
「それにしてもまあ…単独でつい先日できたばかりのダンジョンをクリアするとはな。まだCランクだったか」
「はい、なんとか。それで今まで使っていた槍と盾を使い潰してしまいまして」
実際、その青年の防具も全てがボロボロだった。
ただ一つ輝くのは、ダンジョンをクリアしたことで手に入れたのであろうアーティファクトの籠手。
「で、ガーベラ、あんた誰の紹介できたんだっけ?」
「アイリスという…」
「ああ、そうそう、あの子な。あの子が元は何か知ってるか? 知らなかったら忘れてくれ」
「知ってます。ゴーレムですよね」
「ああ、知ってたか。なら…そうだな…よし、それで出せる素材を出してくれ」
ガーベラは言われた通りに自分が出せる分だけの素材を鍛冶屋に提出する。
「ほう、メタルリゴロゴマンティスに……これはスレイプニルか。Aランクの下位の魔物だな。様子を見る限りではこれは亜種…いや、ダンジョンオリジナルだな。こいつがボスだったのか?」
「ええ、運良く槍と相性がいい馬の魔物と戦えました。Sランクの魔物も出ることがあると聞いて少し怖気付いていたんですけどね。良かったです」
「槍と相性がよくて、Aランクの下位で、しかもそのあとアーティファクトが出るか…実力もあるが豪運だなお前は」
「恐縮です」
鍛冶屋は心底、彼の豪運に驚きながらも、その他D~Bランクの魔物の素材を鑑定していった。
全て鑑定し終わってから、彼は顔を上げる。
「一つ提案なんだが、俺が秘蔵している魔物の素材を使わないか? かなりの値段で買った上にとても希少で、お前が依頼した槍と盾の金属部分の主となるものだ。しかしそれを使った武具はアーティファクトに匹敵すると断言する」
「あ、アーティファクトに匹敵ですか!?」
「なにせその素材を混ぜた途端に、その武具は壊れなくなるからな。正確に言えば自己再生するようになる…だが」
ガーベラはカウンターから身を乗り出した。
「自己再生…壊れない…! ぜひ…ぜひお願いできませんか!」
「金は? とりあえず持ち金を提示してみろ」
言われた通りに財布を確認し、差し出されたメモ帳に所持金額を記入してゆく。
「なかなか金持ちだな…まあダンジョン一つクリアしたらこんなものか」
「どうですか? た、足りないなら槍だけでも…!」
「いや、この金額の9割で足りる」
「ありがとうございます!」
ガーベラは相当嬉しいのか勢いよく頭を下げる。
その瞬間感じた悪寒。
「……!? なにか感じませんか?」
「ん…いやぁ? なにも…」
首を何かを探るようにキョロキョロと動かした彼は覚悟を決めたように鍛冶屋にこう告げた。
「す、すいません、どうしても気になるので様子を見にいっても…」
「なにか悪い予感がするのか?」
「は、はい」
「ちょっと待ってな」
ドワーフはカウンターの奥へと消えると、一本の槍と一つの盾を取ってきた。それをガーベラに手渡す。
「今のお前は丸腰だろ? …良すぎるダンジョンを引き当てた男だ。勘か何かが良いんじゃないのか? 悪寒が当たってたら困るから持って行きな」
「……すいません、なんども…ありがとうございます」
「いや、いいよ。今日中に返してくれれば。仮に壊してしまっても咎めたりはしない。さ、いけ」
ガーベラはドワーフの鍛冶屋に一礼してから、急いで外に飛び出していった。
◆◆◆
「ッ! たっ…たの…しむ…とは?」
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしいっ。
男の人に肌をさらけ出している。
頭の処理が追いつかない…いえ、そんなわけじゃないけれど自分の置かれてる状況がよく飲み込めない。
私はなんでこんな格好してるの?
裏路地で…知り合いのグラブアさんが舌なめずりしながら前にいて…!
「そのままの意味だよ。路地裏に男と少女が居たら? そしてその少女が服を男に破かれている…ふふふ、ウブなアイリスちゃんでも予想はつくよね?」
今まで見せたことのない笑みを見せてきた。
獲物を狩るような目。黒目が白眼を侵食し穴の空いているよう。怖い。グラブアさんがいってる通りなら、今の私は餌…!?
「……!」
とりあえず逃げた方がいい。
その行為をする初動、私の腕は掴まれる。
「逃がすわけないでしょ? 君みたいな娘を見つけるのって苦労するんだよ」
力が強い。…おおよそ同じ体格の男の人でもこんな力なんて出せないだろう。
そのまま空いてる方の手でグラブアさん…は私の首を掴み、思いっきり壁に打ち付けた。
背中が痛い。これ、冒険者としての体力がなかったら背骨が粉々になってそう…!
「さすがはアーティファクトを買えるくらいの冒険者なだけあるね。動けないように何箇所か背骨にヒビを入れるつもりだったんだけど」
「はな……してっ」
腕の分だけ空いているから、十分前蹴りならできる。
私は相手の鳩尾めがけて蹴りを入れた。
「…ぃっ…!?」
逆に私の足が痛んだ。靴が一瞬でボロになる。
……何この人、硬い。今の攻撃、低ランクのゴーレムだったら蹴った部分が凹むくらいのはずなのに。
「なかなかいい蹴りだ。徒手もいけたのかな? すごいねアイリスちゃんは。なんでもできそうだね。まあ俺の前では何もかも無意味だけど」
相手は平然としている。
力強くて硬い…まるで格上、それも私がどうのこうのできる問題じゃないくらいのゴーレムを相手にしてるみたいだ。そして人型…!
「そろそろ楽しませてもらっていいかな」
「い…嫌ッ」
「そんなこと言うなよ」
握りこぶしが私の鳩尾に飛んでくる。
今まで、人の時に味わったことのないような衝撃。
私の内臓はどうなったのかしら。わからない。痛過ぎて痛くない。ただ、ただ喋れない。身体をまとめに動かせない。
「うん? 普通の娘なら吐いてるんだけど。まあいいや」
一気に体から力が抜けた私を相手は一瞬だけ解放すると、すぐに両手を片手で捕まれ上に挙げられる。
「他のボロ切れは取り除いちゃおう」
まだ残っていた私の服を片手で引っ掴むと、無理やり剥ぎ取った。本当なら剥ぎ取る瞬間に布が肌に食い込んで痛いだとか感じるんだろうけれど、もう意識を保ってるだけで辛い。
完全に上半身は下着だけになる。
「んー、程よい、いい具合だねぇ。っと……これは…すごいね、ハート型の痣か。タトゥーってわけでもなさそうだもんね」
「や……め…て…」
魔法、魔法を唱えたい。魔法さえ、魔法さえ唱えられれば…そしたら私はすぐに脱出できるんだ。
身体を治してこの人を闇氷魔法で凍らせて…お父さん達に突き出せば終わりなのにっ。
もしくはゴーレムに戻れてもいい。
どれもこれもある程度、精神を安定させてないとできない。今の私は…ただ身を任せるしかないの?
「んー? 痣かと思ったけどなにか埋め込まれてるのかな…?」
私の胸の谷間のハートの痣をいじくられる。
…そっちに夢中になってる前に…この状況でできることは…!
「まあいいや。…いきなり裸にさせても面白くないんだよね」
そう言いながら、谷間から手を離すと片方の乳房を、1枚の布越しに掴みだす。ここは耐えて、耐えて。
いま、脱出する方法が考えるから、私の身体。
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