第125話 まだまだ働くのでございます!

「ぎゅーっ」


 

 今、ロモンちゃんは幼児体型の私をぎゅっと抱きしめてくれている。また少し育ってる胸が首筋にあたって柔らかい。

 ロモンちゃん曰く、最近働き詰めだったりして、魔物使いとしての魔物のケアをしてなかったから、いま、こんなご褒美をしてるらしい。

 正直本人がやりたいだけなんじゃないかとは思うんだけど、私もムフフな気持ちになれるし構わないの。



「ロモン! もうそろそろぼくに代わってね」

「ん…。わかった。お姉ちゃんどうぞ」

「アイリスちゃんおいで!」



 私は天国から天国へと移動した。

 リンネちゃんはところどころが、それこそスポーツ少女そのままに鍛えられてるおかげで、ロモンちゃんとはまた違った感触が楽しめる。

 胸の大きさはいっしょね。



「お姉ちゃん、次のお仕事は何にしようか? 明日からまた始めるよね?」



 ロモンちゃんは私の手を握りながら、私の後頭部に頬ずりしてるリンネちゃんにそう訊いた。

 普通の冒険者だったら、ダンジョンをクリアして、大金を手に入れたらしばらく働かないなんてことはザラ。

 そもそも私達はもう、一生働かなくても十二分に暮らせていけるだけのお金は手に入れてるんだから、いろいろ贅沢したり怠けたりしてもいいはずなんだ。


 でも、そんな選択肢は私達にはない。

 村にいた頃に私がこの双子に、教育ついでにお金の大切さというものをみっちり教えた。

 その時に『お金はあればあるほど良い』ということと、『稼げる時に稼ぐ』ということを知識として刷り込んだ。


 結果、この双子もどんなにお金を手にしてもしっかり働いてしっかり稼ぐという風習と性格を身につけたの。

 まあ、この子達の場合、お母さんとお父さんみたいになりたいっていう願望があるから、その願望が叶うまで冒険者稼業は怠けたり辞めたりしないのはわかってるんだけどね。そんなことしたら追いつけないもん。



「ここはBランクの討伐のクエストでも受けてみようか」

「いいねー! アイリスちゃんはどう思う?」



 私達が受けられるランクの限界なうえに、それも高難易度と言われる討伐の依頼。

 だいたい、数人の該当ランクのランカーで同ランクの魔物1体から5体を討伐するという内容なんだ。

 基本的に冒険者ランクより魔物ランクの方が実質1つ上だと考えられているからね。だから難易度高いんだけど。



「まったく問題ないでしょう!」

「「だよねー!」」



 そう、問題なんて私達にはない。

 なぜなら、私がいるから。

 そもそもロモンちゃんとリンネちゃんの2人だけでBランクの魔物は倒せるし(本気出せば1人で1匹ずつ倒せるかも)、私に至っては今に進化するより前の姿で、ほぼ伝説上の存在である魔王軍の幹部と、ある程度サシで渡り合った経験があるからね。

 ヘマなんてしない!



「じゃあクエスト受けに行こうね!」

「あしたね、明日! 今日は行かないよ! ねー、アイリスちゃん! よしよし」



 リンネちゃんは私のこの銀髪頭を撫でる。

 んー、気持ちいい。



「もっと頭を撫でてください」

「いいよー」



 リンネちゃんは私の頭を再度、優しく撫でてくれる。

 なんだかペットになったみたいで心地いい。

 本当は私、精神年齢的にこの2人より年上なんだろうけれど、やっぱり妹扱いは気持ちいいの。



「あー、アイリスちゃん! 私もなでるよ」



 そう言いながらロモンちゃんが、リンネちゃんが手を離した隙を見て私の頭を撫でた。

 くふふ、至福というのはこういうことを言うのねっ!

 ダンジョン探索を終えてから3日目の休みのこの日は、こんな感じで甘やかしてもらって1日が終わった。



◆◆◆

 


 翌日、早朝のギルドにて。



「これを受けます!」



 リンネちゃんが掲示板から一枚の紙を剥がし、受付のお姉さんのところに持っていった。

『メタルリゴロゴマンティスの討伐』ランクはB以上。

 これがこの依頼の内容。


 メタルという名前がついてるから身体がかなり頑丈な上に、雷属性を含む攻撃を繰り出す厄介なやつ。

 Aランクの魔物に近いんじゃないかとまで言われてる危険生物だよ。ま、私たちの敵ではないんだけど。



「承りました! …しかし、規則上、他にもう何組かこの依頼を受ける方が居なければ出発できませんが…」



 私達が十分に強いことをわかってる上で受付のお姉さんは顔をしかめる。規則には従わなきゃいけないもんね。

 この依頼には私達だけでは原則、行くことができない。

 私達それぞれがCランクの冒険者であるわけでなく、私達全員でCランクだもの。



「うーんそっかぁ」

「こまったね…募集しよっか?」



 まあそれが一番手っ取り早いかもしれない。

 今なら私の知り合いでC以上のランクの人やパーティもこのギルド内に居るわけだし、頼めば受けてくれるはずよね。



「では、メンバーを募集致しましょうか?」

「あっ、お願いします」

「それでは少々お待ちくださいね」



 受付のお姉さんは、おそらく募集の張り紙を取りに、カウンターの奥へと消えてしまった。



「個人ランクだと私とお姉ちゃん、まだDもんね」

「どっちもCランクならすぐ行けたのにね」



 双子の姉妹はそう話し合ってる。

 ちなみに私は仲魔扱いなので、そのランクの頭数に入ってない。

 あと、あの2人が話してる内容なら、パーティランクもBランクに上がってるわけだから、そもそも個人じゃなくても行けるのよね。


 そうこうしてうちに、受付のお姉さんが募集の張り紙を掲示板に貼り付けてくれた。

 この張り紙を貼ったままギルド内で今回の仕事仲間を待つの。すぐ来る時は来るし、来ない時は来ない。

 まあ、今回は私の知り合いに頼むつもりで居るから、待つ時間なんてほとんどないようなものだけどね。



「私が知り合い達を誘ってみますので、お二人はほんの少しだけ座って待ってて下さい」

「うん、わかった!」

「頼んだよ!」



 ロモンちゃんとリンネちゃんは私の意を汲んでくれて、すぐにギルド内の空いてる場所へと駆けていった。

 ……さて、誰を誘うかが問題。

 やっぱり女の人だよねー。

 男の人もいい人たちばっかりなんだけど、いかんせん、私たちのパーティは女の子しかいないから。

 ハーレム状態なんて作るわけにはいかせないの。


 んーっと、だから…そうだ、この間、遠出の依頼に一緒に行ってくれた弓使いのお姉さん達にでも。

 そう考えて、彼女に話しかけるべく近づこうとして________


 その時、ギルドの扉が勢いよく開いた。

 思わずみんなそちらを振り返る…?

 …ううん、どうやら気になったのは私だけみたいだね。


 開いたギルドのドア、そこに立って居るのは金髪でそれなりに身長のあるイケメン。

 ぱっと見の年齢は17歳から20歳以下。

 装備している武器は槍で、結構重たそうな鎧も着込んでる。


 特に誰かに話しかけるることも話しかけられることもなく、その男の人はスタスタと、クエストが貼ってある掲示板へと直行し、じーっと見つめ始めた。


 なんでだろ、私、なんでこんなにこの人が気になるんだろう? 

 その理由は分からない、正確に言えばその瞬間は分からなかった。でも……今はわかる。

 その男の人は私達が貼ったメンバー募集の紙を凝視するなりそれを剥がすと、受付のお姉さんのところに持っていった。


 気になってた理由ってこういうことだったのね。

 男の人って……まじですか。

 

 


######


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