第110話 仕事の合間の旅行でございます!

「着きました!」



 青年が私達にそう呼びかける。

 そうか…もう着いたんだ。

 思ったより速かった気がする。

 おおよそ2日間半に及ぶ馬車の旅は、まあ…魔物と戦ったりしたけれど楽しいものだった。

 1日目にたくさん魔物が出たからか、その埋め合わせみたいな感じで2日目は全くでなかったし。

 冒険者間のイザコザも一回たりとも無かった。



「じゃあまた今度ね、アイリスちゃん」



 弓使いのお姉さんが、ロモちゃん達が呼んでいる私の名前を言いながら、まず、この馬車から一番初めに降りる。

 それに続いて次々と降りて行く冒険者達。

 最後に、私達3人が降りた。



「わぁ……っ! すごいよアイリスちゃん! 水がこんなに!」

「綺麗だねぇ…!」



 馬車から出た途端に口々に、自分の髪や目の色と同じ景色を見て眼を輝かせる双子の姉妹。

 この姉妹だけじゃなく先に出たもはや知り合いとなった冒険者達も、たくさんの水が一箇所に、それも視界では捉えきれない量存在するという景色に目を奪われているようだ。


 ____この街はとんでもなく広い湖の周辺に作られた、港町みたいな街。 

 というより、この湖自体が海と繋がってるから、この街を港町といっても差し支えないかもしれない。

 観光地としてかなり人気が高いらしいんだけど、そのほかにも魚がたくさん採れることは勿論、船の運搬業も盛んらしち。

 いろんな場所からいろんなものが入ってくるため、オークションとかも賑わっているのだとか。

 


「まずは指定された宿に行かなきゃね」

「そのあと観光しようね!」

「はい!」



 宿は私達を雇ってくれている観光会社が用意してくれてるの。冒険者達はみんな同じ宿なんだってね。

 宿泊費は雇い主側持ちで、5日間何もかも全部タダ(昼食と夕食は自前)。

 大量の魔物と難なく戦える力量があることが前提だけれど、こんなに素敵な仕事はないと私は思うの。


 馬車の停留所から近いその宿に行って入り、ほんとんど無い荷物を置く。

 私達の部屋は二階で、窓から湖の綺麗な景色が眺めることができる素敵なところ。

 ベッドは2つ。

 2つということは、今日も挟まれて眠れるわけだ。

 うへへひひひっ。



「まずはどこ観光しよーか?」

「観光の前にお昼ご飯食べようよ、お姉ちゃん! お腹空いちゃった」

「それもそうだね」



 お昼ご飯はまだ食べてないもんね。

 というわけで私達は、観光がてら街の中をブラブラしながらお店を探すことにした。



「わぁ…! お魚屋さん多いね!」

「ねー。あ、見てあれ! 水芸だって!」



 私の手を引きながら、二人はその水芸師とそれに群がってる人々の中に入っていった。

 


「すご…わぷ」

「あはははー、ロモン顔にかか…わぷ」

「お二人とも…顔を…わぷ」



 まるで天に昇る蛇のように畝る水や、霧のように分散されながら噴出する水など、まあ、なんだか主に噴水みたいな感じのものが多かったけれど、とになく水芸が顔にかかりまくる。化粧してたらどうするのか。

 しばらくして水芸が終わる。

 ちょっと張り合いたい。

 実は私の方がすごいことできるんですよーって張り合いたいけど、やめておく。



「良かったねー」

「面白いもの見れたのでは無いでしょうか」

「うん、また見かけたら見よ…ん?」



 顔にかかった水をハンカチで拭きながら、私達はお店を探してると、ロモンちゃんが途中で歩みをやめ、立ち止まった。

 そして、ある方向を見る。



「どうしたんです?」

「いや…あれ、あれの客引きが聞こえたの」



 ロモンちゃんは自分が向いてる方を指差した。

 私達はそちらを見る。

 そこでは、魚屋のおっさんらしき風貌の人が、大声で繰り返し同じことを叫んでいた。



「あぁーい! よってらっさいみてらっさい! 己の胃袋に自信がある人を募集中だよ! この巨大な食用魔物『カニーラ』を、一人で制限時間内に食べきれる人を大募集中! 60分以内に全部食べきった人は……豪華景品が贈られます!」



 本当にでかい…デカすぎるカニだ。

 人の股から頭ぐらいの大きさがあるんじゃないだろうか。

 一人の太ってる男の人がそれにがっついている。

 だけどその手がめちゃくちゃ遅い。

 もう限界なんだろうか、少し震えてる気がするけど______



「も…もぉ無理ぃ…」

「ああっと、はい残念! 時間デスゥ! 挑戦料金2万ストンお支払い頂きますよぉ。さあ、よってらっさい!!」



 さて。 

 ロモンちゃんがあれに気がついたわけはよーくわかった。



「挑戦……なさるんですか?」

「勿論!」

「すごく胃袋に自信があるからね、ボク達は」



 二人同時に、私にやる気を示すのかガッポーズをとった。

 目が…目が湖を見てる時より輝いてる気がするわ。



「じゃあ…行ってくるよ!」



◆◆◆



「ひぇ…っ」



 お店の客引きをしていたおじさんが、小さくそう叫んだ。

 私もそう叫びたい気分だよ。


 

「ぷふー。ご馳走様でした!」

「美味しかったです! 何分でしたか?」



 赤ちゃんでも居るんじゃないか、妊娠何ヶ月目なんだろうかと訊きたくなるような、そんか膨らんだお腹をさすりながら、大食い美人姉妹は満足そうに、店員さんにそう訊いた。

 いつの間にか、あの水芸師の前よりすごい人だかりができてるし。

 震える手でおじさんが、持っていた時計を見て…。



「よ、よよ、41分です…」

「あー、40分きらなかったかー」

「残念。蟹味噌が重かったのかも」



 いや、十分じゃないですかね?

 あ、ちなみに私は普通に女性一人分用の蟹さん食べてます。これだけで私は満腹ですので。



「おじさん、景品てなんですか?」

「け、景品は…ですね。この食事代無料と…このチケットでして…」



 二人が渡されたのはどうやら、観光用の船のチケットみたい。

 ニコニコしながら、ぷくっくりと膨らんだお腹を持つ姉妹はそれを受け取った。

 野次馬の視線がすごいことに二人は気がつかないのかな? ロモンちゃんなんて緊張しいだったのに。

 あれか、大会で度胸でもついたか。



「やったよアイリスちゃん、あとで行こうね!」

「一人分のお金で済むね」



 重い腰を上げながら、こちらに駆けてくる可愛らしい二人。

 うーん、このお腹は妊娠5ヶ月くらいか…?

 ここまでになるのは初めて見るけど…。



「あ…お腹? お腹はすぐに元に戻るから気にしないでね、アイリスちゃん」

「ふ…太ってなんかいないよ! ちょっと膨れてるだけだからね」



 ジロジロ見すぎていたのか、ロモンちゃんとリンネは頬を赤らめながらそんな言い訳をする。



「いえ…大丈夫かな、と心配していただけですよ。太ったなんて微塵も考えおりません。それはさておき、舟にのっての観光はお二人だけで行ってくると良いでしょう」



 余計なお金なんてかけさせる必要ないからね。

 それに…。



「えーっ、なんで、なんで!」

「一緒に行こうよ!」

「いえ…その、私は個人的に寄りたいところがあるので…」

「むーっ」


 

 やんわりと断ってみるも、二人はなかなか納得してくれない。

 ……仕方ない、オークションは毎日やってるらしいし________



「そうですね、すいません。ちょっと付き合いが悪かったです。行きましょう」

「やたー!」




########


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