第103話 夜にお話するのでございます!
「あ、あのアイリスさん…!」
「はい、なんでしょう?」
私はジエダちゃんの方を振り返る。
「えっと…その、半魔半人化、おめでとうございます!」
「ありがとうございます。…あ、そうだジエダさん、あとで二人だけで少しお話が」
されげなく、そう言っておく。
それを聞いてた男の冒険者さんが、囃し立ててきた。
「おおなんでぃ、アイリスちゃん、ジエダちゃんをナンパかい?」
「馬鹿っかねー。そんなわけないじゃない、ねー、アイリス。きっとこう…女の悩みを、歳が近そうなジエダのお嬢ちゃんに打ち明けるんでしょ」
「そうなの? わ、私で良いいんだったら、アイリスさんの悩み、聞きますよ!」
うーん、違うんだけどなぁ…そういう事でいいかな、もう。
「あはは、まあ、そんなところです」
「あーーー、アタシもアイリスのお悩みきくぅー」
酔っ払ってる女冒険者さんが私に寄りかかってくる。
息が酒くさ…あ、そういや私、お酒臭さを身に纏って帰らなきゃいけないのか……! これはやってしまった。
誤魔化す方法はあとで考えよう。
……それにしても、お姉さんの胸は大きいな。
でも20代後半に入ってる人から私の範囲外なんだよね。
「ほらもっとアイリスちゃん、お酒、のものも!」
「ごめんなさい。私、ロモンちゃん達に内緒でここに来てるので、お酒の臭いが残るのはちょっと…」
「ウヘェ…それは残念」
今飲んでいるものを飲みきると、あとはただ、水む事にした。私にとってはお水の一杯でも豪勢なものだしね。
そんな感じで、知り合い達に囲まれて1時間ほど。
ジエダちゃんとお話ししたらもうちょっと時間がかかるだろうし、ここらで上がる事にした。
「すいません、私、そろそろ上がりますね、皆さん」
「んえー、もう? アイリスちゃん、あんまり飲んでないじゃーん」
「あなたは酔っ払い過ぎなのよ…」
「んーまあ、仕方なくね? とりあえずアイリスちゃん、おめでとなー」
口々に、嬉しいことを言ってくれる。
お酒の臭いは……まあ、あとでなんとかなるでしょ。
「はい、ありがとうございます! では皆さん、また。ジエダさん」
「あ、はい! 私も上がるね、皆さん!」
ジエダちゃんの肩に軽く触れて促すと、みんなに一言述べてから、私について来てくれた。
◆◆◆
「こんな時間でも、このような可愛らしい雰囲気のお店でやってることろがあるんですね」
「はい、去年見つけたんです」
どこで話をするかという事になった時、場所を私は決めてなかったから、ジエダちゃんの行きつけのお店へと行く事になった。
というわけで今、酒場くらいしかやってないようなこの時間ではかなり変わっている可愛らしいカフェに私達はやって来ている。
やはり、中は女性客しかいない。
にもかかわらず、丁度、二人用の席が1席しか空いてないときたもんだから、この店が繁盛してることは一目でわかる。
私達はその空いてる席に座り、カフェのマスター(女性)に紅茶を頼んでから、話をし始めた。
「それで、私に相談ってなんですか? あ! 人になったばかりだから、服のお店とか? それなら…」
「いえいえ、そういう話ではありませんよ。そもそも、悩み相談ではないのです」
「ふえ?」
ジエダちゃんはキョトンとした顔で私を見つめる。
とにかく話を続けなきゃ。
「……私はこの数週間、ロモンちゃん達と仕事中に厄介事に巻き込まれまして。それでしばらく顔を出せなかったんです」
「はぁ…そ、そうなんですか?」
「ええ。というのも、サナトスファビド_______」
「ッ!?」
ジエダちゃんの顔は一気に青ざめ、勢いよく椅子から立ち上がる。
わかる。リンネちゃんやその他兵士さん達曰く、あれはもう、この世のものとは思えないぐらいの痛みだったらしいし、ジエダちゃんの場合、両親を殺されてる。
この蛇の名前に過敏になるのは仕方がない。
私は、まぁまぁ、と、ジエダちゃんをなだめて座らせた。
「続けますね? 仕事中にサナトスファビドに遭遇してしまい、リンネちゃん…わかりますよね? あの娘が毒にやられてしまうという事が起きたのです」
「えっ…えっ…そ、それであの、リンネ…さんは大丈夫なんですよね?」
「はい、もちろんです」
ホッとした顔をするジエダちゃん。
この区切りが良い時に、私達の元に紅茶が届けられた。砂糖を入れてから私はそれを啜る。
「それで、ここからが本題なのですが……かなりの秘密事項をこれから話します」
「えっ……そんな事に…」
「はい。別に止めれてるわけではありませんが…この情報が一般に流れると、必ずパニックとなるので。他言無用。絶対に誰にも話さないと、約束できますか?」
私はこの薄緑色の目で、ジエダちゃんの深緑色の目を覗き込むようにジッと見つめた。
ジエダちゃんはキョロキョロと慌てるように視線を数回動かした後、私に目線を合わせると、黙って頷いてくれる。
「わかりました。ではここから、全て念話で話します」
「は…はいっ!」
念話で話す事に、本当に大事な話だと考えたのか、可愛らしくもピッと背筋を伸ばし、緊張した面持ちで私が話し出すのを待ってくれてる。
【私達はサナトスファビドに遭遇し、すぐにこの国の軍へと、仕事の依頼主である村の装置にて、連絡をとりました。それであの二人の父親であり、元Sランカーである、グライド氏率いる部隊が来たのですが_______
◆◆◆
私はジエダちゃんに全部話した。
要点だけ全部。
ジエダちゃんは驚愕の表情を浮かべている。
それはそうだ、魔王の部下なんて…魔王が封印されたのが、まず、数百年前なんだから、現実だとは中々受け取れないかもしれない。
【えっと……その、じゃあ……えっと……ああっ…】
【ゆっくり落ち着いて。深呼吸をして下さい。気持ちは十分にわかります】
【は、はい…】
ジエダちゃんは私のいう通りに深呼吸をしてから、まだ冷めずに湯気が立ち上っている紅茶に口をつけた。でも手が震えてる。
【じゃあ…えっと…サナトスファビド…私のお父さんとお母さんの仇は……っ。元、魔王の幹部だった個体と同じで?】
【はい】
【それを騎士団長さんと…アイリスさんで、無力化した…で、良いんですよねっ?】
【その通りです。簡潔にまとめるとそうなります】
ジエダちゃんは目に涙を浮かべながら、この話の内容を丁寧に繰り返した。
しばしの沈黙。のち、ジエダちゃんは私に向かって勢いよく顔を向けた。
「あ…あのっ…なんて言ったら良いかっ……!」
念話をするのを忘れてる……まあ、仕方ないか。
私はジエダちゃんの両手を握りながら、優しく摩る。
【…しかし、魔王の幹部。重大な情報を持っているだろうという事で、殺してはいません。申し訳ありません】
「いっ…いえ、いいんですっ。それが当たり前ですから…ああっ…お父さん…あ母さんっ…!!」
ジエダちゃんの瞼の中で流れないように止まっていた涙は、留めなく流れ始める。
そんなジエダちゃんを見て私は……私は、ただ、手を撫で続けた。
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