第83話 敵の情報でございます!

「……つまり、どういうことだ?」

「さあ…」



 覚悟をして聞いていた、お父さんや村長さんを含む皆さんは、複雑な表情をしていた。

 


「本当に? どうやってその情報を?」

【私がこう、ゴーレムとしたら異常なほど流暢に話せることと、自分より実力が下だという確信があったからでしょうかね。半ば自分から話してくれたみたいなものです。『お前はもうすぐ死ぬ、せっかくだ、教えてやろう』って言って、教えてくれました】



 そう言っても、やはり皆さんは首をかしげるばかりだ。

 


「うむ…。アイリスちゃんの話だから信じると言いたいが、どうも信じ難い。なにせ魔王の幹部は皆、160年も前に勇者に封印されたからな」

「確かに…」

【どうやって復活したかはわかりません。ですが、本当にそう、自白したのです。それにまだ情報はありますよ】

「ふむ、なんだ?」



 私はサナトスファビドの半人体である、ギフトのことも話した。



「ギフト…?」

「魔王軍幹部にギフトという名の者が居た…か。そのような詳しいことまでは私はわからぬ。歴史の専門家ではないからな」

【はい。ですが、文献は残っているはずでしょう? 調べて、魔王軍にそのような名の者が居れば、私の話が正しいという証拠になりますよ】

「そうだな。それも速球に連絡せねば。アイリスちゃんの言っていることが本当だとして、すると、これは相当大変なことだ…っ!」



 そう言うと、お父さんは団員さんの数人に、早急にそのことも含め、城に連絡するようにと命令をした。

 2~3人の騎士さん達は村役場の連絡装置の元へ駆けて去って行った。



【あ、あと書くもの下さい】



 私は紙とペンを村長さんにねだる。

 何に使うか訊かずに、すぐに村長さんはそれらを持ってきてくれた。



「…? これで良いですかな」

【はい、ありがとうございます】

「アイリスちゃん、何をするんだ?」

【人相描きですよ。ギフトの人間時と魔物時の姿を描きます。念のため。私、絵にも自信あるんです】

「そ、そうか。しかし、情報を全て伝えきったら休んでくれよ?」

「はい」



 感覚的に、数ヶ月ぶりに描いた絵は、上手く描けたと思う。それから、大探知を使っても探知できなかったこと、ギフトが使っていた短剣の危険性や、使ってきた魔法の威力、性癖などなど、細かいところも教えた。

 性癖の情報を話した時のお父さんの顔は、鬼の形相だったよ。そりゃ、対象が自分の娘だもんね。そうなるわよね。


 情報を伝えきったあとは、私も、輸送車が来るまで休んでくれとお父さんに再び言われたから、私は空いていた椅子で眠った。

 いや…本当に疲れた。

 もう動けないや。



◆◆◆



「アイリスちゃん、起きて…」

【うにゃ…? はぁい…】



 私は女の子の声で起こされた。

 寝ぼけてて誰の声が判別つかない…あー…リンネちゃんはまだ起きるはずないし、ロモンちゃんか。



【ロモンちゃんですかぁ…?】

「ふぁ…うん、そうだよ。おはよう」

【おはよう…ございます】



 あたりを見渡すと、そこはあの地下室。

 私はロモンちゃんの隣のベットで眠っていたみたい。

 お父さんか誰かが連れてきてくれたんだね。



【んっ…。今は何が…?】

「今は、村の人達を避難させるための輸送車と騎士団さん達が来たところ。お姉ちゃん以外の女の子達や村人さん達はもう、車に乗ったよ。お姉ちゃんは私達と同じ馬車で王都に帰るの」



 そういえば、確かに他の人の姿が見えない。

 もう乗るから、ロモンちゃんは教えてくれたのか。



【そうですか……ん、アレでも、私以外あの呪毒を解ける存在はないというのに…私を王都に帰してしまって良いんでしょうかね?】

「うん。私もそう思って、お父さんに私もアイリスちゃんも残るって言ったんだけど、まず、相手の対象である私は残していけないって。それにアイリスちゃんが単独行動できることは知ってるけど、それでも魔物使いなしでここに止めさせる訳にはいかないから……って。それとね」



 リンネちゃんは私の頭を撫でながら言う。



「お父さん、アイリスちゃんの言ってた通りの情報だったって言ってたよ。馬車で来たの、どうやらお父さんの騎士団だけじゃなくて、ほかの部隊もたっくさん…」



 ああ、そうか。

 やっぱりギフトに関する記述はあったんだね。

 だから本格的に動き始めたわけだ。ただのSランク討伐とは違う。



「あ、あとそれとね! 戻って少し休んだら、お城に行って、オーニキス・シュバルツ様って人に会ってくれって、お父さんが…。もう、アイリスちゃんのことは話してるって…? 国の偉い人らしいけど」



 成る程、国の偉い人に事情を話したら、より詳しく本人から聞きたいと言われたのかな?

 なら、あと一つだけ知りたいこと知ってから、この村はおとなしく一旦出よう。

 お父さんなら、サナトスファビドと対峙しても、大丈夫でしょう。



【そうですか…。ロモンちゃん、お父さん、もし、誰かが呪毒に犯されたらどうすると言ってました?】

「それはね、気をつけるけど、また呼ぶってさ」

【承知しました】



 私達はおとなしく、馬車に乗った。

 広い。VIP待遇なんじゃないかってくらい、広い。私達の馬車の中。


 馬車の寝床にはリンネちゃんが眠っていた。

 私とロモンちゃんは、まだ眠たいため、同じベットに潜り込む。ロモンちゃん、私の頭を撫でながら、話をかけてきてくれた。



「アイリスちゃん、何もかもありがとうね」

【いえ…。ロモンちゃんもすごく頑張ったじゃないですか! 魔人対融、実践するのは初めてですが、ものすごく上手く出来てました】

「えへへへへ」



 リンネちゃんは私をギュッと抱きしめる。

 

 私の胸に、雫が垂れた。

 ロモンちゃんは泣いている。

 泣いているみたい。



「うぁぁ…アイリスちゃんっ…! ありがとね、本当に…。お姉ちゃんを助げでぐれて…。お姉ちゃん、お姉ちゃん…死んじゃうがど思ったよぉぉぉっ! ふぇぇぇん_____」



 私を抱きしめながらなくロモンちゃんの頭と背中を、私のこの機械のような冷たい手で撫でる。

 そりゃ、慌てるはずだもの。私だって、治るってわかってても慌ててしまった。

 怖かったろうに…。



【大丈夫ですよ。もう】

「うんっ…。アイリスちゃん、それと、私達を逃がしてくれてありがとう。身体…痛いとこ無い?」

【ありませんよ。痛みは感じなかったです】

「そ…そっか、そうだよね! えへへ、良かった。アイリスちゃんも…アイリスちゃんも、私の大事な家族だからね?」

【…………はいっ!】



 私も泣きそうになっちゃう。

 そんなこと言われると、嬉しくて仕方が無い。


 ロモンちゃんは泣き疲れたのか、そのあとすぐに眠ってしまった。私も、街に着くまでにもう一眠りする事にする。

 願わくば、さっさとあの変態野郎が葬られますように。

 私の…この世界の、私の大事な家族を弄んだ報い、必ず受けて欲しい。



#######


次の投稿は9/20です

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