第60話 決勝戦でございます!

 準決勝が終わり、私達は昨日までと同じようにリンネちゃんと他の試合を見た後に、宿に帰った。

 

 やっぱりと言うべきか、私達の決勝の相手はBランクの冒険者パーティ、『紅のヘリオトロープ』の魔物使い、シェリーさんだった。

 使う魔物はゴブザレス……っていう名前のドンゴブリン。ダンビラのようなものと、スヒョウ、リヒョウ、さらには初期回復魔法、初期補助魔法まで使えるみたい。

 ここまでよく、魔物を育成できたものだと思う。


 試合を見た限りだと、今まで戦ってきたどの選手のどの仲魔よりもきっと、強いんじゃないかな。


 そうそう、ちなみに、準決勝の時の私の賭け倍率は1.14倍、カルゲンとか言う人は3.96倍だったらしい。

 やっぱり、倍率が酷いことになったね。


 明日は決勝だから、私達はいつもよりも早く寝た。

 私はともかく、ロモンちゃんは休まないと大変だもんね。



◆◆◆



 私達は朝、早く起きて、リンネちゃんとは別に先に闘技場…コロシアムへと向かった。

 昨日はすぐに呼ばれたからね。少し、控え室で気持ちを落ち着かせるっていう、私の提案だ。



「アイリスちゃん…私、お腹痛い」

【ここで待ってますよ】



 ロモンちゃんはまた、腹痛が再発したみたいだね。可哀想に。ここ数日でロモンちゃんの体重は激減してるに違いない。……リンネちゃんはこうでなければ良いんだけどな。


 私が控え室でロモンちゃんを待っているその間に、今日の相手……シェリーさんが、ゴブザレスを連れてやってきた。

 何回か話したり情報を交換したりしてる知り合いだから、幼体化を解き、念話をしかけてみることにする。



【…2週間ぶりくらいですか、シェリーさん】

「あー…やっぱり、ゴーレムさんだったか」



 そう、彼女は半ば諦めたかのようにそう言った。



【ええ】

「いや…実はリトルリペアゴーレムがこの国にもう1匹居て……なんて考えてたんだけどなぁ…」

【推測ですが…リトルリペアゴーレムは現在、私しか居ないと思いますね】

「だよねぇ……はぁ…」



 シェリーさんは私の隣に座り、さらにその隣に座った幼体化しているゴブザレスを撫でながら、首をうなだれて見せた。



「本当、人間の言葉が理解できて……Bランクの魔物を倒せて……Cランクの魔物なんて一撃。そんなすごい魔物を仲魔にしている人が、どんな人かと思ったら、私より明らかに年下の女の子だもんねぇ…」

【ええ、そうですね】

「そうそう、それもあの、ノアさんの娘さんだもんね。私ね、あの人に憧れて魔物使いを始めたんだ」



 そうだったんだ。

 まあでも確かに、魔物使いは女の人も多いからね。多分、魔法使いの次あたりに。

 シェリーさんと同じ年代の魔物使いがもし、みんなお母さんに憧れてるのだとしたら、相当すごい人だよね。お母さん。


 彼女は何を考えているのか、自分の頬をペチペチと2回ほど、喝入れのように叩くと、こちらを見た。



「そうそう、そんなことじゃなくて……今、私が本当に言いたかったことはね?」

【はい】

「私達は本気で貴女に立ち向かうから…貴女も、本気できてってこと。あっ…でもそれは無論、この子を殺さない程度でね」

 


 そう、ゴブザレスを撫でながら彼女は言った。

 本気で来て欲しい……か。多分、私の実力を知っての上での事だろうね。一種の覚悟というか…。

 私もそれに答えてあげるべきなのかな?


 ……まあでも、どっちみちエクスプロージョンを連発してる時点でまわりから目立ちまくりだし、決勝で本気出すくらい、別に良いかな。

 と言っても、今まで手を抜いてたわけじゃないんだけど。



【承知しました。私の主人にもよりますが、なるべく、本気を出させていただきます】

「ありがとう。その…なんていうか、貴女と戦えば私は魔物使いとして、もっと…成長できると思うの。それが負けるという結果だったとしてもね」



 彼女がそう言った時、ロモンちゃんはトイ…お花摘みから戻ってきた。

 それに気づいたシェリーさんは、ゴブザレスを椅子に座らせたままにし、ロモンちゃんの元によった。



「こんにちは。私はシェリー」

「あっ…! えっと、ロモンです!」

「ええ、知ってるわ。最近、ギルドで有名だし…大会でも目立ってたものね?」

「あ…ああ、えへへ。お恥ずかしながら」



 ロモンちゃんは照れている。



「貴女が強いのはわかってる。だけど、私、本気でいくからね」

「わ、わかりました! 私も本気でいかせてもらいます!」



 二人はそのまま握手をした。

 むむむ…自分の倍率を上げるために、一回戦目でわざと攻撃魔法を使わなかった自分が恥ずかしい。


 二人が握手を解いたところで、係員さんがやってきて、準備をするように言われた。



「じゃあ…ね」

「はいっ」



 私達は準備する。


 そして、試合の時はきた。

 


≪さあ、始まりました。決勝戦! 司会は私_____≫



 おきまりの司会者の司会のあとに、私達はコロシアムの真ん中に立つ。

 ゴブザレスはボスゴブリンと同じくらいの身長だ。だけど見た目がボスゴブリンよりスマートで細マッチョって感じ。すでにダンビラは抜いている。


 司会とお母さんの対話が、少し長めだ。

 まあ、決勝戦だしね。


 そして私達が真ん中に立たされてから5分後、ついに試合は始まった。

 

 私とゴブザレスは互いに距離をとる。



【アイリスちゃん、本気でいくよ!】

【ええ、もちろんです】



 私は自分にエフェルオを3回、スフェルオを4回唱える。

 相手もどうやら、スフェルを唱えたみたいだ。


 私とゴブザレスは互いに睨み合っている。……と言っても、周りからは私がファイテングポーズをとりながら立っているだけにしか見えないかもしれないけど。

 一方、シェリーさんは目を瞑っているようだ。


 観客席は静寂に包まれている。


 ……ふいにシェリーさんは目を開いた。

 それと同時にダンビラを水色に光らせながら、こちらに迫ってくるゴブザレス。あれは、氷斬だろうね。


 私もそれを向いうつ。


 ゴブザレスと私が、互いの射程範囲に入ったところで、ゴブザレスは私にに向かってダンビラを横に払ってくる。


 だけど、私が動くよりそれは遅い。

 私は摩集爆と正拳突きを掛け合わせ、手をロケットパンチのように飛ばした。


 超至近距離で撃たれた私の手は、カウンターとしての威力を加え、ゴブザレスの顎に狙った通りにクリーンヒットした。

 ゴブザレスは、シェリーさんの近くの後方にまで吹っ飛ぶ。


 そして、手が私の元に戻ってくるも、起き上がることはなかった。


 再び、会場に流れる沈黙。そして__________




≪か…勝った? 終わったのか……? ゴブザレス、起き上がらない……。起き上がらない!! 勝者、ロモン&アイリスぅぅぅっ! 優勝は、ロモン&アイリスだぁぁぁっ!!≫



 _____私達は、優勝した。

 

 

 


#######


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