第50話 少しの休憩でございます

50



 翌朝、私はロモンちゃんとリンネちゃんに起こされた。



「珍しいねー、アイリスちゃんが私達より遅いなんて」

「ねー」



 本当にそうだ。初めてかもしれないよ。

 まさか疲れた…のかな? 



「アイリスちゃん、もしかして疲れてる?」

【えっ…疲れてるように見えますか?】



 そう見えてるのかな? だとしたら、やっぱり昨日のが堪えてるのかもしれないね。うーん、魔法の連続使用は疲れるのかな、やっぱり。

 MPを消費するだけが魔法じゃなかったんだね。



「まぁね、アイリスちゃんがこの時間まで寝てるのって珍しいからね」



 この時間…?

 そう言われて慌てて私は時計を見た。既に午前9時。うわぁ、今日の私は寝坊助だなぁ…。

 もうこうなったら、最近、丸一日の休みはなかったし休んでもいいかもしれないね。



【お恥ずかしいです……。あの…では…その…今日は一日、おやすみにしましょうか?】

「わかった! そうしようね」

「おやすみかぁ…」



 下手に喜んだりしないのね。まぁ、ここ数ヶ月は休まないのが当たり前みたいになってたしね。



【では、私は遅いですが朝ごはんの用意を……】



 私がベッドから降りようとすると、ロモンちゃんが引き止める。



「もう、朝ごはん食べたからいいよ」

【おや…そうですか…】

「うん、だからね、それより」



 起きていて、すでに着替えている2人はベッドに潜り込んできた。いつも寝ている時のように両脇に。



【おや、またお眠りになるのですか? まぁ、おやすみですから、それも良いでしょうね】

「んふふー、違うよー」



 そう言って、寝転がり始めたロモンちゃんとリンネちゃん。…なんと、ロモンちゃんは私の頭を撫で始めた。リンネちゃんは手を握ってくる。



【おや…なんでしょうか?】

「お母さんがねー、仲魔を可愛がるのも大事だって、むかし言ってたの。そういえばアイリスちゃんに、魔物使いらしい事、何もしてあげてないから」

「その次は僕の番だよ? ロモン」



 ロモンちゃんの細いくて小さな手で撫でられる…やっぱり良いね。

 でも、だんだんとロモンちゃんの手か下がってきて、今度は私の顎にきた。

 そこを、まるで犬や猫を撫でる時のように撫で始める。


 私に感覚なんてあんまりなかったハズなんだけど、これはすごく気持ちいい。



「ここは初めて撫でるよねー。ここが弱い子が多いってお母さんに教えてもらったんだけど、どうかな?」

【気持ちいでふ】

「ふふー、よかったー」



 ロモンちゃんはとても満足気だ。

 そうか、今日はこんな風にスキンシップをとってもらえるのかな。

 


「次はぼくだよ」



 今度はリンネちゃんが私の頭を撫でる。

 双子だからか、撫で方の癖とか手の大きさとかほぼ同じだけどね。



「どー?」

【いいです、気持ちいです】

「そっか、次はここだね」



 今度は顎を撫で始めた。

 いいよ、いいよ、これはいい。

 美少女2人に撫でられるのは最高の気分だ。



「次はどうするの? ロモン」

「んーとね……次はね、こうするんだよ。アイリスちゃん、ちょっと身体を起こしてくれる?」

【はい】



 私が身体を起こすのと一緒に、ロモンちゃんも起き上がり、そして、私に抱きついてきた!

 今の私は幼体化でトゥーンゴーレムになってるから、ロモンちゃんとアイリスちゃんより小さい。

 大きめの人形くらいで、抱きつきやすいだろう。



「アイリスちゃん、ひんやりしてる」



 ロモンちゃんは自分のほっぺたを私に擦り付け、片方の手で私を撫でている。

 ひんやりしてるのは、私が鉱物だからだね。



「ロモン、それってアイリスちゃんを可愛がってるって言うより、ロモンが楽しんでるんじゃないの? いいなー」

「違うよ、お姉ちゃん。これはね、可愛がりながら楽しんでるんだよ」

「…………そろそろ代わってね?」

「まだダメー」



 そう言うと、さらに身体全体を私に押し付けるように抱きついてくるロモンちゃん。

 それをリンネちゃんは比喩ではなく、本当に指を咥えながら恨めしそうにロモンちゃんを見ていた。



「あ〜、アイリスちゃんスベスベだよぉ!」

「あーうー……代わってぇ…」

「あとちょっと、あとちょっと」



 あとちょっとと言いつつも、どうみたって離れる気のないロモンちゃん。

 ふへへへへ、ロモンちゃんもスベスベだよ。

 


「ローモーンーまだー? ぼくもアイリスちゃんギュッてしたいよー」

「ふぅ……そろそろいいよ」



 そう言ってロモンちゃんは私から離れたけど、今度はリンネちゃんが勢いよく抱きついてくる。



「うへへ、スベスベー」



 リンネちゃんは私の顎を撫でながら、頬を擦り付けている。

 さっきから思ってたんだけど、正直言うと、2人とも私にすごく密着してるから、胸当たる。柔らかい。最高ですよ。



「むふー」



 ロモンちゃんと大体同じくらいの時間、私に抱きついていたリンネちゃんが、満足気な顔をしながら離れた。

 さて、次は何をしてくれるんだろう…。



「どう?」

【とても良かったです! もっとして欲しいです、もっと!】

「アイリスちゃんがもっとって言うなんて珍しいね」

「じゃあ私達ももっとなでなでするね!」



 このあと私は2人がお昼ご飯を食べるまで、スキンシップをとってもらった。

 可愛がられるペットってこんな気持ちなのかしらん?


 そのあと一緒にお菓子を作ったり、お昼寝したりして過ごした。

 また、お風呂はいつもより少し長めに一緒に入って、夕飯も一緒に食べた。

 

 そして、夜中になった。


 最近、ロモンちゃんとリンネちゃんの寝ながらお臍を出しちゃう癖はなおりつつあるみたい。


 リンネちゃんから抱きつかれてる状態から、惜しみつつも脱出し、私はギルドへと向かった。

 そういえば、ランクが上がるんだっけ。今日は休まずに明日休めば良かったかな。


 それに、今日からネフラ君が来なくなる可能性がある。一昨日の分、まだ売却し終わってない。

 これからだってそうだ。どうしよう、売りに行くの…。


 色々とごちゃごちゃ考えながら私はギルドの戸を開いた。


 そこには、いつもの面子の冒険者さん達と、酒臭いギルドマスター。それに、ネフラ君と…お姉さんが居た。



「おおっ! あのゴーレムが来たぞ、ジエダちゃん」


 

 いつも何かと私に絡んでくる鎧を着た冒険者が、私に気がついたようで、そのお姉さんにそう言った。

 さっきまでギルドマスターと話していた彼女はこちらを振り向いた。

 ネフラ君はそれを聞くと、私の方に駆け寄ってくる。



「ゴーレムさん、ゴーレムさん! お姉ちゃんが元気になったんです。本当にありがとうございましたっ」



 ネフラ君は元気に御礼を言いながら、私に頭をさげる。

 


【そうですか、それは良かった】



 1日で元気になった…?

 それはすごい。この子のお姉ちゃんの回復力が凄いのか、あるいはわたしの回復魔法が凄いのかはわからないけれど。


 ネフラ君が頭を下げ終えると、ジエダという名前らしいそのポニーテールの女の子は、私の元にやってきた。

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