第49話 大治療でございます
私とギルドマスターは、ネフラ君の自宅の前に着いた。
【ここがあの子の家だ。一度だけ姉の容態をみに来たことがある。なぁ、改めて訊くが……。本当に治せるのか?】
【はい、おそらく…。私はリトルリペアゴーレムの極至種です。回復に特化した特技を多く持っているのです。確証はありませんが、どっちにしろ試した方が良いでしょう】
【だな……】
ネフラ君は涙で赤くなった目をこすりながら、家の戸を開いた。
「どうぞ…」
「邪魔するぜ」
【お邪魔致します】
この家は…一階の一戸建ての2LDK。
探知を展開してみると、確かにリビングから右てにある部屋に、かなり深刻な状態異常にかかった人が居るという反応があった。
親は……いないのかな? お姉さんであろう人の反応しかない。
私達はリビングに居るんだけれど、小石視点で部屋を見回してみても、2人分の食器や洗濯物しか見つからない。
と、それは今気にすることじゃないよね。
実はさっきから、苦しそうなうめき声が聞こえるの。
「こっちです」
ネフラ君は右の部屋に入っていった。
私達もそれに続く。
部屋は真っ暗だったけれど、すぐにネフラ君が灯りをつけた。
そこには、ベッドにくるまり苦しそうにしている、ギルドマスターが言っていた通りの年齢の女の子が1人、身体を激しくうねらせ、叫ぶように呻いていた。
身体には大きなヘビが蠢いているような、黒い紋様が浮かび上がっている。
苦しそう。まさに生き地獄とはこんな感じなんじゃないかな?
なんで病院に……って、そうか。
ネフラ君が働かなきゃいけないほどお金がないんだったね。
命は…風前の灯火に見える。
痛みで暴れてはいるけれど、弱々しい。あと数分もすれば痛みで暴れることすらできなくなりそうだ。
「お姉ちゃん……ぅぇぇ」
私は普段、これがどのような症状かは知らない。
だけれと、しっかり者のネフラ君がギルドに助けを求めるほどなんだから…きっと、今までの中で一番ひどいのかも。
ギルドマスターはネフラ君を慰めながら、私にこう言った。
「じゃあ……やって見せてくれないか?」
【御意】
私は魔流の気を全身に纏わせる。
そして、両手に私のMPがなくなるまでリペアムとスペアラを、スペアラが多めでかけ続けるように指定し、両手が魔法をかけ始めたら、私自身は瞑想を続ける……これでいけるんじゃないかな?
作戦通りに両手が回復魔法を連続してかけ続け始めた。
私は瞑想をする。
魔法が炸裂している音が聞こえる。
2人は何も喋っていないみたいだ。
____よしっ!
今、苦しげな呻き声が少し治まったよ。この調子。
そしてどのくらい時間が経ったか、瞑想しすぎてわからなくなった頃に、私は何者からか触られた。
瞑想をやめ、そちらを振り向く。
そこには、涙を流し、私に御礼をいいながら、お姉さんに抱きついてきているネフラ君と、ニッコリと笑っているギルドマスターが居た。
成功したの…?
私はネフラ君の姉の方を見た。
静かに寝息を立てて眠っている、その姉の姿には、黒い紋様は消え去っていた。
やった、やったっ! 成功したんだ、私はココまでできるんだっ! 治せないはずの呪いを浄化できたんだ。
私が両手に戻ってくるように命令すると、魔法をかけるのをやめ、戻ってきた。
【成功したようですね。良かった】
私がそう、念話を送るとギルドマスターは返事をする。
「あぁ、すげぇよ。ありえねぇ。何をしても治らなかったんだぜ? それも2時間も連続で魔法をかけ続けて治すなんてよ……」
そう言った後、小声で「これが極至種か…」と言っていた。
ネフラ君がこちらをふりかえる。
その顔は涙でクシャクシャになっていたが、確かに笑っていた。
「ありがとうございます、ありがとうございます、ゴーレムしゃん!」
そう、泣きながらの震えた子で言うネフラ君。
こんなに嬉しそうに感謝されると、治して良かったって思うよね。
【困った時はお互い様ですよ】
そう言いながら、後ろに回れ右をして、私はこの部屋を去ろうとする。
もう、ここに私が居る意味はないからね。後はこの子がなんとかすると思うから。
「帰るのか? ゴーレムさんよ」
【ええ】
「じゃあ、俺もそろそろ帰るかな」
ギルドマスターがそう言いながら立ち上がった。
それとともに、スゥスゥと、後ろから音がした。なんかだか寝息が1つ増えた気がする。振り返ってみたら、ネフラ君がお姉さんの上に覆いかぶさりながら寝ていた。
夜だから眠かった、泣き疲れた、姉への不安が全て消えた…それらの理由全部が合わさったからかな。
私はゆっくりと頷くと、ギルドマスターと一緒に音を立てずにネフラ君達の家から出て行った。
鍵は私が魔流の気で掛けたから大丈夫。
「いやー、もうこんな時間か。ははっ、酔いもすっかり覚めちまったし、飲みなおすかな」
【いつも飲んでますよね? 身体に悪いですよ】
「だけどなぁ…やめられねーんだわ、これが」
そんな他愛もない会話をしていたらすぐにギルドについた。まだ灯りがついている。
戸を開け中に入ると、そこにいた冒険者達が全員、私達に注目した。
よく見たら、こんな時間なのにあの時いた冒険者の半分近くが残ってるじゃないの。
何人かの冒険者が、私達のところに駆け寄ってきた。
「どうだ…どうなった? ギルドマスター。ジエダは…」
「あの娘、治らないの……ですよね?」
「ゴーレムがついて行って、何か出来たのか?」
ジエダ…多分、ネフラ君のお姉さんの名前だろう。
口々に皆、あの娘の容態を訊いてくる。
ギルドマスターは、大声でみんなに聞こえるように話し始めた。
「あの子は………助かったぜっ!!」
そう言うと、聞こえ始める歓声。
こんな真夜中にそんなに騒いだらうるさいのに、そんなの御構い無しに、みんな咆哮し、喜んだ。
「だけど…どうして治せたんだ? 何をやってもダメだったんだろ? ……そのゴーレムが?」
1人の冒険者が、ギルドマスターにそう尋ねた。
周りの冒険者もそれが気になるらしい。
「ああ、そうだ」
とだけ、ギルドマスターは答えた。こちらに申し訳なさそうな顔をしながら。
まあ…これは答えないといけないよね、うん。
でも、どうしよ? これから今後、目立っちゃう。
ずっと幼体化するわけにもいかないし…。取り敢えず、言いふらさないで欲しいとだけ言わないと、みんなに。
【あの……皆様、これはどうか御内密に、ここだけの話でお願いします…。私、あまり目立ちたくないんです】
そう、念話をしたけど…。
「そうか、わかった」
「魔物なのに人を助けるなんて、本当変わってるよな…それが、誰かの仲魔だったとしても…」
「そうよね、それだけで十分目立ってるけど……」
大丈夫よね? 本当にみんな、このことを周りに言いふらしたりしないよね? もし、言いふらされたりなんかしたら、私の職業が冒険者から医者になってしまうことなんて目に見えてる。
「ま、目立ちたくねぇみたいだしよ、他言は無しって事にしてくれよな? みんな」
そう考えてていたら、ギルドマスターも口添えしてくれた。
周りの人達は口約束であるけれど「大丈夫」と言ってくれている。
心配だけど…心配だけど…ここは、信じてみる事にしよう。
【お願いしますね……? 私はそろそろ帰ります】
私は逃げるようにして、宿に帰って行った。
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