第35話 泊まれる場所を探すのでございます


 私達は今『冒険の店』という、魔物から手に入れた素材や薬草などの採取した物、使わなくなった道具を、販売・買取する、冒険者のためのお店の、魔物素材コーナーに居る。

 このお店は、冒険者ギルドの間隣にあるんだ。



「らっしゃい! 嬢ちゃん達、買い物かい?」



 カウンターに居る筋肉隆々のおじさんが、私達に話しかけてきた。

 ロモンちゃんがそのおじさんに応えた。



「いいえ、違います。売りに来たんです!」

「ほぉ、こりゃあ可愛らしいお嬢さんが売りに来たもんだ。大物かい? 小物かい?」



 この大物、小物とは、売る物の大きさや量の事で、例えばワイバーンの鱗が数枚なら小物だし、ワイバーン丸っと一体なら大物。

 今回、私達が売りに来たのは、3ヶ月前に倒したボスゴブリン亜種、レディゴブリン亜種、その他ゴブリンの死体丸々数体分なんだ。

 

 どうやって3ヶ月も腐らずに、なおかつここまで持ち運べたかのかは、魔法具のおかげ。

 お母さん達がワイバーンの肉を取り出した時に入れてたあの袋のことだよ。

 おじいさんは、二人の誕生日にその袋を用意してたんだ。

 ちなみに、私の分もある。



「大物です!」



 リンネちゃんはそう、おじさんに応えた。



「へぇ、そうかい! ならこっちに来な」



 おじさんが何やら、カウンターの仕切り戸を開け、私達を手招きしている。

 おじさんの言う通りに、私達はリンネちゃんを先頭におじさんにカウンターの奥へと着いて行き、そのうち地下に下る階段に差し掛かった。


 おじさんがそこを降りていくので、私達もそのあとに続く。



「じゃ、その大物を見せてもらおうか」



 地下に降りた先には、ものすごく広い、縦10メートル、横80メートル四方はあろう空間が広がっていた。

 なるほど、確かにここなら大きな魔物でも取引できる。


 リンネちゃんはおじさんの指示に従い、ゴブリン共の死体を、その鉄色の床に並べた。

 並べ終えた死体を、おじさんは数えた。



「ふむ、ゴブリン32体にボブゴブリン16体……おっ! レディゴブリン亜種とボスゴブリン亜種か! ……ゴブリンの群れ一つ潰したな? お嬢ちゃん達がこれをやったのか?」



 そう訊かれた二人は、微妙な顔をして



「まぁ……そう言われればそうだけど……」

「違うといえば、違う……ですかね?」


 

 と答えた。


 しかし、おじさんはその程度の答えには驚かなかったみたいだ。

 多分、今まで、本人の代わりに物を売りに来るという事があったんだろうね。

 まあ、今回の場合、その本人は私の訳ですが。



「そうかそうか、じゃ、お使いだな」

「いえ、お使いでもないんですよ。ぼく達が倒したんじゃなくて、この子が倒したんです。それを売りに来たんです」



 そう言って、リンネちゃんは私を指差す。

 私はその場でくるんと一回転して見せた。

 なんとなく。



「へぇ……見たことないゴーレムだな…。お嬢ちゃん達の仲魔か?」

「はい、そうです!」

「そうか、仲魔が倒したんなら別に、マスターが倒したのと同じなんだぜ? つまり、お嬢ちゃん達が倒したんだ」


 

 そう言いながら、どこからともなく お札数枚を取り出した彼はリンネちゃんに手渡した。

 だいたい、18万ストンぐらいかな?

 品定めしてが早い。この商売をやって、長いんだろうね。



「ほい……じゃあこれら全部で17万4200ストンだ! まいどあり!」

「「ありがとうございました!」」

【ありがとうございました。また、よろしくお願いしますね】



 私はぺこりと頭を下げた。



「おう! よろしく……なぁ? ……え?」



 私が流暢に念話したことで、かなり驚いた様子のおじさんを後に、私達は地下からでて、店を出た。



◆◆◆



「わー! 17万4200ストンだって!」

「これでしばらく、なんの問題もなく生活できるね」

【そうですね、無駄遣いしなければ2週間過ごすのには十分な額でしょう。次は宿を探しましょう】

「うん」



 私達は冒険の店を出た後、女の子が泊まって安心できるような宿を探して20分の間、街中を歩き回った。

 お母さんと、お父さんの元に行き、そこで泊まれば本当はいいとおもうんだけど、そんな迷惑を両親にかけるのは二人にとってはかなり嫌らしい。

 えらいぞ。



「おおっー! ここ良いかもね」

「そうだね、空いてるといいね」



 リンネちゃんが、可愛らしい宿を見つけた。

 だいたい、ギルドから歩いて8分の場所かな。


 『オープン・ナウ 〜宿屋 花の香〜』と書かれたプレートが掛けてある、これまた黄緑色の装飾が可愛いドアを開け、私達はその宿の中に入った。



「あれ? お店の人が居ないよ?」

「本当だ」



 中に入ったは良いけど、肝心の受付の人がいない。

 かと言ってここはちゃんとオープンしているはずなんだ。

 ロビーの明かりだって灯っている。



「すいませーん、誰かいませんか?」

「あれ、やっぱりいないのかなぁ…?」



 私は二人が店員さんを探している間に、大探知を使った。

 大探知には、この宿屋に泊まっているのであろう多数の人間が示される。

 しかし、受付の奥から、状態異常にかかっている小さな子供の反応と、二人の大人の反応がある。

 受付の奥に居るってことは、その二人の大人がここの店員、あるいは店主なんだろう。



【二人とも、受付の奥に誰か店員らしき人が居るみたいです。受付に向かって呼びかけてみてください】

「う、うん。店員さーーん!」



 ロモンちゃんがそう、受付の奥に向かって呼びかけると、中から、髪の毛がぐしゃぐしゃで、化粧が崩れるほど泣き荒れた跡がある女の人が出てきた。



「うぅっ……すびばぜん……今、急用がありまじでっ……ごめんなさい…ごめんなさい」



 その出てきた女性は泣きながら私達に謝まり始めた。

 女性が泣いている理由は恐らく、私がさっき探知した子供が原因だろう。

 スペアラで治せるかもしれない。

 取り敢えず、この先なにも喋らないように二人には言っておいた。

 より混乱を招くかもしれないからね。

 私は、女の人に念話を送った。




【……お子さん、状態異常にかかってますね?】

「えっ……えっ……?」



 あ、いきなり話しかけない方が良かったかな? 

 魔物の私がいきなり念話を送ったことに戸惑っているようだ。



【取り敢えず、落ち着いて聞いてくださいね?】

「もしかして……このゴーレムが……」

【そうです、ゴーレムです。ですが人の言葉がわかります。そんなことより、貴女のお子さん、状態異常にかかってますよね?】



 女の人は首を勢いよく、縦に振った。

 普通だったら、私が人の言葉を理解することに驚くんだけど、そんな余裕は無いみたいだ。

 私は念話を再度送った。



【私は、上級状態異常回復魔法が使えます。もしかしたら治せるかもしれません】

「ほ……本当ですか!」



 女の人は受付から飛び出してきて、私の肩を掴んだ。

 藁にでもすがるような、弱々しい感じだ。

 そうとう、まいっているんだろうね。



【はい、取り敢えず、その子供を見せて頂けませんか?】

「は…………はい! こちらですっ!」


 

 勢いよく立ち上がった女の人は、私達を手招きしながら受付の奥へと戻っていった。



「状態異常の子供がいた事……あ、アイリスちゃん、『大探知』をつかったんだね?」

【そうです。早く、あの女の人のお子さんを治しに行きましょう】

「「うん!」」



 私達は急いで、受付の奥へと入っていった。


 受付の奥は、どうやら店員さんの居住スペースのようで、普通の家のようになっている。

 


「こ、こっちです!」



 先程の女の人の声が聞こえる方に向かう。

 その場所に近づく度に幼いうめき声と、男の人の慌てた声が聞こえてくる。

 

 問題の子供がいるらしき部屋の前には、女の人が立っていた。



「どうか……どうか、娘を治してください」

 


 そう言って、頭を下げつつその部屋の戸が開けられる。

 その部屋の内装は、いかにも女の子の部屋といった感じだったが、ベットには10歳程度の女の子が一人、苦しそうに横になっていて、恐らく父親であろう男の人が、その女の子の手を握っている。


 ……症状からして、これは『猛毒(下)』といったところだろう。

 猛毒(上)じゃないから、今すぐ死ぬわけじゃないけど、それなりの対処をしないと3日以内に死んでしまう。

 一体なにがあったんだろうか。



「あ……貴女がたは?」



 男の人がこちらに気づいたようで、私達が何者かを問いてきたが、その答えは女の人が答えた。



「あなた……この人達が、ネリアンを治してくれるって……」

「はぁ!? この娘たちが?」



 まぁ、その考えはもっともだ。

 なんせ、冒険者になれる年齢だと言ってもロモンちゃんとリンネちゃんはまだ子供。

 驚かれるのは当然だろう。


 まぁ、治すのは私なんだけど。



【すいません、少しじゃましますよ】

「え……?」



 私は驚いている男の人をほっといて、寝ている女の子に向かって手をかざす。



【スペアラ、リペアム】



 女の子の顔が、だんだんと良くなっていった_____。

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