第32話 お二人の誕生日でございます

32



「「美味しい、すごく美味しい!」」



 私のスープを飲んだ二人は、口を揃えてそう言った。

 喜んでもらえると、作った側とすればこれほど嬉しいことはない。



【ユニーク特技『家事の達人』を取得しました】

【ユニーク特技『料理の名人』を習得しました】



 特技だということにもなったみたいだね。

 これは結構、結構。

 みんな、私の作る料理に満足してくれたみたいだ。



「城下町のそからへんの料理屋より美味しいわ」

「あぁ、そうだな」



 お父さん、お母さん、それは本当ですか?

 でも、顔を見る限りお世辞じゃないっぽい。

 嬉しい。



 朝食を食べ終わり、しばらく時間が経った頃に、この家の戸をノックする音。

 おじいさんがノックを出ると、どう見ても各々の一番いいであろう服を来た、少年少女がドアの前に立っている。


 その、ドアをノックした張本人てある、子供達の先頭にいる少年……確か、15歳だったか。木細工屋さんの息子だ。


 彼は、背後に隠してたであろう花束を二組取り出し、ロモンちゃんとリンネちゃんに差し出した。

 それと同時にはじまる、おめでとうコール。



「お誕生日おめでとう…。リンネ、ロモン」

「「「14歳! お誕生日おめでとう!」」」



 少し騒がしいけど、二人はとても喜んでるみたいだ。

 確か、おじいさん曰く、毎年毎年、みんな花束を渡してくれるのだそうな。

 他に渡す物が、子供達には無いらしいから仕方が無い。

 それでも、お金は彼らで出し合ったんだってね。



「「ありがとう……みんな」」



 二人は照れた様子で、その花束を受け取った。

 あれ……リンネちゃんの方の花束に、なんか小さい手紙みたいなの入ってる……あれ、もしかして恋文じゃない?

 差出人は、木細工屋の息子だと見ていいみたい。

 なんでかって?

 女の勘……じゃなくて、初めてこの村を見て回ったときに、一番、リンネちゃんに対して顔に恋をしてるかのような仕草をしていたのが彼だから。


 おじいさん曰く、村のみんなはすでに、ロモンちゃんとリンネちゃんが城下町に行くって話は知ってるらしい。

 最後のチャンスだと思って告白しようという魂胆かもしれない。


 あ、リンネちゃんが手紙に気づいた。

 読まずにポケットに入れた。

 あとで読むんだろうね。


 子供達は彼女らとしばらくだべっていたが、なんとその男の子のうちの一人が、みんなの前でロモンちゃんに告白し始めた。

 確かあの子は14歳の…道具屋の息子だ。

 わぉ! 大胆!


 しかし、ロモンちゃんは申し訳なさそうに断った。


 彼は、さっぱりとした笑顔を見せながら、ロモンちゃんにこの場で告白したことを謝っている。

 でも、私にはわかる。

 あの顔は相当ショックしている顔だ。

 ありゃあ、数日は立ち直れないね。女に悔しがるところとか見せないとかの、相手のことを考えてるのはとても評価できるんだけど。


 一方、木細工屋の息子さんがなにやらソワソワしていると思ったら、彼もまた、この場で告白し始めた。

 『さっきの手紙は〜』とか言ってるし、本当は後で告白するつもりだったみたいだけど、道具屋の息子に感化されて、告白したんだね。


 まぁ、リンネちゃんも断ったよ。


 木細工屋の息子もまた、その後に気まずくないように立ち振る舞っていた。

 二人とも顔は悪くはないし、性格も○なんだけどね……。


 あの二人は恋愛より、強くなることの方がすきみたいだし、私的にはもっとあの二人にはいい相手がいると思うの。

 まぁ、女の勘ってやつだけどね。

 実際、村で一番とかそう言うレベルじゃなく可愛いしね、ロモンちゃんとリンネちゃん。


 ちなみにお父さん、男の子達が告白してる間、すごく怖い顔してました。気持ちはわかるよ。

 お母さんは、イタズラな顔をしてたなぁ…。

後で絶対二人をおちょくるつもりだね、あれ。


 子供達が帰った後は、今度は大人達か尋ねてきた。

 大人達は各々、『おめでとう』の言葉と、冒険者として役に立ちそうな道具を誕生日プレゼントとして置いていった。

 例えば、鍛冶屋さんは解体用ナイフと包丁だったり、縫い物やさんは寝袋だったりね。

 スティーブさんは今回、珍しく梨じゃなかったね、梨ジュースだった。うん。



 来客がひと段落した後は、私は昼食の準備をする。

 結局は、私が夕飯も作るらしい。

 料理の腕が、今居る人間の誰よりも上手なんだって。

 お母さんに至っては料理できないんだって。

 まぁ、私としてはその仕えたいという謎の欲求さえ満たせればそれで良いんだけどね。


 

 昼食に、なんかの生き物のパスタを食べた後、3時になり、私はみんなにドーナツを振る舞った。

 でもこの世界、油で揚げるという概念がないみたいで、結構、油を集めるのは苦労したんだよね。



「アイリスちゃん、これ、なんて言うの?」

【ドーナツと言います。私の前世の記憶を頼りに作りました】

「ん……? でもこんなの初めて見たわよ?」



 お母さんがそう言った。

 そういえば、私がこの世界の住人じゃないことはひなしてなかったっけ。



【それは、私の前世がこの世界ではないからだと思います。なにせ、私も初めてスライムやゴブリンを見た時は心底驚きましたから】

「ほう……ここ以外の世界な…少し興味あるな、なんという名なのだ?」

【地球です】

「ふむ、変わった名だな。ドーナツ美味いな」



 お父さんがそう言った。

 でも、地面が球形だから地球でしょ?

 そんなに変わった名前でもないと思うけどね。



「ドーナツ、美味しいよ! アイリスちゃん」

「アイリスちゃん、地球…? ってとこのお菓子、まだ作れるの?」

【ええ、材料さえあれば】

「じゃあ、材料がそろったら作ってよ!」

「お願い!」

【もちろんですとも】



 異世界から来たという、割と大きなことを受け流したこの家族は、すでに私のことでは驚き疲れてるのかもしれない。

 普通だったらもう少し"地球"に関して突っ込まれるよね。

 まさか、聞かれるのが名前とお菓子だけだとは思わなかった。

 


 夕飯。

 お父さんとお母さんがどこからともなく出してきた、でっかいでっかいマンガ肉のようなお肉。


 なんと、ロモンちゃんとリンネちゃんのためにわざわざワイバーンっていう、ドラゴンを狩ってきたんだってさ。

 これと、そのワイバーンの素材で作った軽装備とかが両親からの誕生日プレゼントなんだって。


 肉を小さいカバンから出す瞬間、驚いた。

 見た目より容量が大きいらしく、その小さなカバンは部屋一つ分はあるのだとか。

 熟練の冒険者や騎士は大体持ってるらしい。


 ワイバーンの鱗や骨で作った籠手や膝あては、その鱗が水色に輝いていることもあり、二人の髪の色とマッチして、似合っていたんだよ。


 因みに、ワイバーンの肉をステーキのように、焼くのも私が任された。

 焼き方はロモンちゃん、リンネちゃん、お母さんがウェルダンで、お父さんがミディアムレア、おじいさんがレアと、注文してきたんだよね。

 細かい。めんどくさい。


 さらに特別に、調味料に香辛料を使って良いらしい。

 まあ今日はね、特別な日だものね。


 私はみんなの目を盗んで、ワイバーンの肉の切れ端を食べたんだけど……なにこれ、美味しすぎる。

 とにかく極上のお肉なんだよね。

 美味しい!


 魔物のことを学ぶときに、ドラゴンは美味しい種が多いって、本に書いてあったけど、それが実感できたね。



【ステーキ、焼きあがりましたよー!】

「「わーーい!」」



 焼きあがったステーキを二人に出した時のその輝いた顔と言ったらもう、まるで盆と正月がいっぺんに来たような顔だったね。


 また、その無理矢理に大きく口を開けて、いっぱいに肉を頬張る二人は、ワイバーンの肉より美味しそうな顔をしているから、食べちゃいたいくらい!

 いや、カニバリズムできな意味じゃなくて、可愛いって意味だからね?



 夕飯後には、私とお母さんで作ったケーキ。

 実はいつも、ケーキはそれほど美味しくないらしく、せっかくお母さんが作ったからと、わりと無理して食べてたんだって。


 それが今回のは美味しかったみたい。

 そりゃそうよ、私が手伝ったんだもの。


 ケーキ、ちょっと大きかったから、半ホール余っちゃった……。

 明日のティータイムか朝ごはんだね、これ。



 ケーキを食べ終わり、お風呂に入ると、みんな疲れたのか早々に寝てしまった。

 私も寝よう。


 いつもみたいに、リビングで直立不動をする私であった。


 

◆◆◆



 誕生日から3日後。



「じゃあね、リンネ、ロモン」

「3ヶ月後にまた会えるからな!」


 

 そう言いながら、およそ計5日間滞在した両親は、城下町へと帰って行った。

 ここから城下町へは、馬車で1日半かかるんだけど、それでも結構近い方なんだ。

 お母さんとお父さんが乗っている馬車を、ロモンちゃんとリンネちゃんはじっと見つめている。


 完全に馬車が見えなくなった頃に、私は二人に声を掛けた。



【さ、家に戻りましょう。明日からまた、鍛錬を始めましょうね】



 しかし、ロモンちゃんとリンネちゃんは二人共、首を横に振った。



「ううん、もう今から練習するよ」

「私達…強くなりたいから……この5日間、お父さんとお母さんを見てそう思ったの。やっぱり、かっこいいなぁ…って」



 そう言っている二人の目は、至極真剣な眼差しだった。

 そうか、なら、私も答えてあげなきゃいけない。



【では、今日からは防具の重さに慣れるため、重荷を付けて鍛錬致しましょう。魔法と剣技を掛け合わせた特技の習得も進めていきましょうね!】

「「うん!」」



 二人はにっこりと笑って頷いた。

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