第239話 悪魔の口より告げられる驚愕の事実
再び階段を駆け上り、護たちはオフィスビルの屋上へと向かう。
その途中で息が上がり始めたため、一度、息を整えるために階段の踊り場にて休憩をしていた。
「上にいくほど嫌な気配が強くなってるのは、やっぱ、魔法陣が近いからか?」
「だろうな。目的地が近いってことになるんだろうけど」
護の言葉に、光が額の汗をぬぐいながら返す。
実際、屋上に近づくごとに重苦しい、嫌な気配が強くなっている。
その原因が魔法陣から漏れ出てきている魔力と、これから呼び出されようとしている『明けの明星』が幽閉されているという冥府の瘴気にあることは、すでに察していた。
必然的に気配が強くなるということは、目的地が近くなっているということでもあるのだが。
「けど、なんか妙じゃないか?」
「何が?」
「魔法陣が近いなら、妖や悪魔も数が増えててもおかしくないだろ?」
儀式の邪魔をされたくないはずなのに、ここまで妖や悪魔の姿をまったく見ていない。
無駄に消耗したくない護たちからすれば、幸運と言える状況なのだが、その状況が却って不気味さを護たちに与えていた。
「……確かに、特殊生物たちの姿が見えないな」
「普通、近づけさせたくないなら配下の悪魔たちに警備を命令するんじゃない?」
「その配下がさっきまで俺たちが相手してた連中だったんじゃないか?」
「あるいは、配下の悪魔がいないのかだが」
「そちらの可能性は低いだろうな……あまりうれしくないことではあるが」
「とはいえ、休憩ができるということはありがたいな」
光に答えるように返しながら苦笑を浮かべていた。
時間に限りがあるとはいえ、どこかで休息をして息を整えなければ、いざというときに普段通りの動きをすることはできない。
そのため、今は最上階付近の階段に腰かけて体を休めていた。
「ところで、ここはどのあたりだ?」
「踊り場を確認したが、二十八階と二十九階の境目のようだ」
「たしか、このビルって三十階まであるんだよね?」
「あぁ。それを考えると、屋上はもう間もなくだろう」
「やっとか……」
「本当なら、エレベーターですぐに迎えるはずの場所だし、そう思うのは仕方がないな」
「けど、こういう建物の屋上って、普通は立ち入り禁止だからある意味ラッキーだよね?」
月美の言葉に、一同はうなずく。
基本的に、高層ビルの屋上という場所は関係者を除いて立ち入りを禁止されている。
通常時なら警備員などに発見されて厄介なことになるのだが、現在は非常時であり、警備員もいない。
結果、余計な手続きなどで時間を浪費することがないという点では、確かに幸運と言えた。
「さて、そろそろ行こうか」
「あぁ」
「うん」
「時間もないからな」
ある程度、全員の息が整うと、再び光の号令で護たちは屋上へと向かう。
最上階が近いということもあったため、すぐに屋上へのドアの前に到着する。
「いいか?」
「あぁ」
「もちろん」
「うん」
光の問いかけに、一同が独鈷や呪符などの武器を取り出し、うなずいて返す。
全員の準備が整ったことを目視した光はドアノブに手をかけ、一気にドアを開く。
ドアが勢いよく開かれると、護たちは一斉に屋上へと出る。
「動くな! 詠唱をやめて、こちらを向け!!」
満が拳銃を構え、召喚術を行使していると思われる人影に向けて叫ぶ。
だが、人影は視線を向けることすらなく、魔法陣を見上げ続けていた。
「まったく、無粋な。かのお方が再び地上に舞い戻ろうとしているというときに」
「あいにくだが、私たちはそれを止めに来ているのでね」
「第一、『かのお方』が再臨したらこの地がめちゃくちゃになってしまうのでな」
「ふむ……」
光の言葉に、人影はゆっくりと振り返る。
正面を向いたその人影の顔に、その場にいた全員が息を吞んだ。
そこにあった顔は、人間のものではなく、黒い山羊のそれだった。
普通ならば、覆面を疑うところなのだが。
「むちゃくちゃになる。確かにそうかもしれませんが、それで構わないではありませんか」
「なに?」
「そもそもこの世界は、かのお方を
かつて、『かのお方』。明けの明星と呼ばれた天使は、自身の創造主に反逆した結果敗北し、冥界の奥底へ落とされたという。
そんな彼に付き従ったバフォメットだからこそ、創造主を忌むべきものとして見ていることは理解できなくはない。
「世界を滅ぼせば、最初に契約した人間も滅ぶことになるんじゃないか?」
「悪魔ってのは、契約が果たされるまでは契約者を保護するものだと思っていたが?」
「えぇ、その認識は間違ってはいませんよ」
護が投げかけた問いかけを、バフォメットは否定しなかったが。
「ですが、私の契約者の願いでもありますからねぇ。この世界を破滅させることは」
「なんだと?!」
破滅願望を抱く人間は、少なからず存在する。
だが、そもそもその願望が本当に実現すると思っていないし、仮に実現してしまった場合、割を食うことは目に見えているため、本気で実現を願うものは少ない。
人間嫌いを公言し、依頼でもなければ助けるつもりもない護ですら、その願いを口にしたことはなかった。
だというのにその願いを、よりにもよって人の欲望に忠実であり、この世界を創造した存在に敵対心を抱いている悪魔にむかって口にした人間がいるというのだ。
その事実に、護たちは驚愕していた。
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