第179話 二手に分かれて……

 護はダウジング、月美は水鏡でそれぞれ、人形の行方を探ったが、結局、どこにあるのかわからずじまいとなった。

 結局、二手に分かれて人海戦術で探し回ることとなり、月美はそのまま光とともに行動していた。

 だが、月美はどこか、人形の捜索に集中しきれていない様子だった。


「どうした?心ここにあらず、というようだが……」

「え?あ、すみません。護、大丈夫かなって思ってて」

「何がだろうか?彼なら、よほどのことがない限り……」

「だって、護と一緒に探すことになった人、芦屋さんですよ?」


 月美が芦屋さんと呼ぶ人物は、調査局の職員であり、光と同じく、若手の中でも屈指の実力を持つ女術者である芦屋満のことだ。

 彼女と護には、先祖から続く浅からぬ因縁がある。

 もっとも、護はそのことを気にしているような様子はなく、むしろ、体育祭の頃に術比べを仕掛けてきた満の先祖、芦屋道満に対して、苛立ちを覚えているようだった。


「……まぁ、『あの法師』の一件は一応の決着がついたんだ。大事にはならないだろう」

「だといいんですが……護、あれで結構、喧嘩っ早いところあるので」

「そうなのか?」


 月美の言葉に、光は目を丸くした。

 十年ほど前の体験で、人間嫌いとなり、自分にとって親しい者以外の人間には関心を寄せなくなったことを、保通から聞いていたため、てっきり、満のことに関しても、無関心を貫くのかと思っていたようだ。

 だが、どうやら光の予測は外れていたらしい。


「えぇ……特に、わたしや家族のことを悪く言われると特に。最近はクラスメイトの悪口にも眉を顰めるようになりましたけど」

「ほぉ……なんというか、最初に会った時と比べて、随分と変わったものだな」

「ここ最近になって、ようやく、以前のような感じに戻ってきてるんですよ」


 月美はどこか嬉しそうに微笑みながら、光にそう返した。

 護との付き合いが長い彼女からしてみれば、今の護はやはりどこか歪んでいると感じているのだろう。

 その原因を本人から聞かされているし、そうなってしまったことも、致し方ないとは思っている。

 が、やはり、月美からすれば、ぶっきらぼうながらも他人を差別せずに動いていた護に戻ってほしいのだろう。


「以前の土御門か……それもそれで気になるな」

「ふふふ、けどダメですよ?彼はわたしのですから」

「……いや、私は略奪愛はあまり好きではないからな?横からさらうようなことはしないからな??」


 にっこりと微笑みながら威圧してくる月美に、光は苦笑を浮かべながらそう返した。

 だが、月美は依然、きれいな微笑みを浮かべていた。

 その笑みに、光は恐怖を覚え始めた。


「……さすがに、土御門家と血縁を結ぶことはしないさ。それは本当だ」

「…………」

「それよりも、今は人形を探す方が先だろ?早く行こう」

「……そうですね。まずは仕事に集中しましょうか」


 光の言葉に、ようやく月美は笑みを消し、真剣な表情へ戻った。

 そのまま、すたすたと廊下を歩いていくその背中を見ながら、光は心中で安どのため息をついていた。


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 一方、護の方は、体育祭の一件以来の再会となる芦屋満とともに行動していた。

 先祖からの因縁がある一族同士ではあるが、護はそのあたりをあまり気にしてはいない、というよりも千年以上昔の因縁をいまさら引っ張り出されても困る、と思っているようだ。

 それは満も同じだったらしい。


「まさか、あんたと組むことになるとはな」

「正直、私も驚いている……その後、彼女の様子はどうだ?」


 彼女、というのが佳代のことを指していることに、護はすぐに気づいた。

 佳代は、素行の悪いクラスメイトにいじめられていたことで復讐心を抱き、そのどす黒い感情に目を付けた芦屋道満によって生成りに変えられてしまった事件がある。

 満と佳代は直接の面識こそないが、自分の先祖である道満が迷惑をかけたのだ。

 その後のことが気にかかっているのも無理からぬことだ。


「今は普通の人間として、問題なく生活できている……はずです。少なくとも、夏に京都へ一緒に旅行へ行ったが、その時は何も問題はなかった」

「そうか……」

「やはり、法師がしたことを気に掛けているので?」

「まぁ……やはり多少は、な。直接、関わりがないとはいえ、奴が私の先祖であることは変わりないわけだし」


 その問いかけに、満は苦笑を浮かべた。

 やはり、気にかけていたようだ。


「まぁ、先日の件は結果的に、あいつの周辺を変える、いいきっかけになったし、本人はあまり気にしてはいない。あなたも気に病む必要はないでしょう」

「そう、であるといいのだがな」

「少なくとも、彼女は法師に出会う前よりもいい顔になった、と思いますよ」

「いや、思う、なのか?」

「そりゃ、俺だってあの事件がなかったら、彼女の周囲のことに深入りするつもりはなかったですから」


 満の言葉に、今度は護が肩をすくめた。

 今でこそ、友人として気に掛ける程度にはなっているが、それ以前の佳代のことは、まったく知らないし、今も、あまり深入りするつもりはないようだ。


「だが、今はそれなりに気を使っているのだろう?」

「えぇ、まぁ……月美の友人ですから」

「……いつも思うが、君の交友関係は彼女がいなかったらどうなっているんだ?」

「まず友人はいないでしょうね。自称親友はいますが、俺は親友とは思ってませんし」


 なお、その一言を口にした瞬間、ここにはいない『自称親友』が盛大にくしゃみをして、一緒に行動していた友人に怒られたのだが、そのことを護たちが知る由もなかった。


「って、そんなことより、今は」

「あ、あぁ、そうだったな」


 これ以上、話を掘り下げられたくないのか、護は一方的に話を打ち切り、自分たちの仕事に戻ろうとした。

 それに気づいた満も、ひとまず話を切り上げ、人形探しに集中し始めた。

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