第168話 文化祭二日目~無事終了、そして突然の呼び出し~
なんだかんだと騒動はありつつ、二日目は後片付けを行う都合上、初日よりも終了時間が早く、それに比例して客入りもあまり多くはなかったのだが、それでも護たちのクラスは二日連続でかなりの客入りがあり、大盛況となっていた。
二日目の終了が校内放送で流れると、護たちは教室の片づけを始めた。
セッティングの時と異なり、片付けはスムーズに終了し、終礼が始まるまでの間、クラスメイトたちはそれぞれ互いをねぎらっていた。
そして、机に突っ伏している護と月美にも、ねぎらいの声をかける
「はっはっは、お疲れだな、二人とも」
「お疲れさん、ご両人」
「二人とも、お疲れ様」
「……あぁ、お疲れさん。清はもっと働け」
「……うん、明美も佳代もお疲れ……」
親友である、明美と佳代、そして清だった。
月美は三人に声をかけられて、気だるそうにしながらも体を起こし、微笑みながらねぎらいの言葉を返していた。
その一方で、護は相変わらず、清に対して辛辣な言葉を返していた。
護が清に辛辣であることはいつものことなのだが、護ではなくとも、今は清に対して同じようなことを言いたくなるクラスメイトは多数いた。
それだけ、清からは元気があふれ出ているような雰囲気が漏れていた。
もっとも、疲れすぎているからこその空元気、ということもあるのだろうが。
「まぁ、それはそうとよ。後夜祭、どうするんだ?」
「あぁ……あったな、そんなん……」
「出ようぜ!」
「疲れた、眠い。飯食って寝たい」
文化祭が終わった後、最終下校時間までの間、生徒と教師たちから募った有志だけでライブステージを執り行うことになっている。
これが、毎年の恒例となっているのだが、護は昨年は参加していない。
面倒くさい、ということもあるのだが、それよりも修行の方がもっと重要だったからだ。
慣れない接客と、逃げたくても逃げられない人混みのせいで、精神的に疲労してしまったこともあり、今年も参加するつもりはなかった。
だが、後夜祭に誘ってくるクラスメイトは、清だけではなかった。
「お?なんだ、土御門も今年は参戦か?」
「案外、土御門ってこういうの好きだったりするんか?」
「なんだっていいじゃんよ!たまには一緒に騒ごうぜ!」
ほんのわずかではあるが、心の距離が縮まったからなのか。
清以外のクラスメイトたちが初めて、護に対して積極的に声をかけてきていた。
今の彼らに、護がいれば月美も一緒に参加するであろうという下心満載の算段はなかった。
純粋に、一人のクラスメイトとして、護と一緒に後夜祭を楽しみたい、という想いだけだった。
その想いを抱いているクラスメイトは、何も男子たちだけではなかった。
明美と佳代以外の女子もまた、月美に声をかけていた。
「ね!風森さんも一緒に出ない?!」
「出ようよ!絶対楽しいから!!」
「騒がしいの嫌いかもしれないけど、一度は味わって損はしないって!!」
ライブのようなステージが好きな生徒が多いのか、月美があまり騒がしいことが好きでないかもしれないことに考慮しながらも、目を輝かせながら誘ってきていた。
あまりに突然の、そして今までなかったことに、二人は多少なりとも困惑していた。
特に護に至っては、小学生のころからバケモノ扱いされてきた経験上、こうして誰かに誘われるということ自体が、非常に珍しいことだった。
あまりに突然で、しかも慣れていないこともあり、護はどうにかポーカーフェイスを保てていたが、動揺を隠しきることができていなかった。
だが、悪い気はまったくしていなかったため、二人とも、このまま後夜祭に参加しようか、という意思を固めたその時だった。
『連絡します。生徒の呼び出しです』
突然、実行委員から生徒の呼び出しが行われた。
呼び出された生徒は何人かいて、そのほとんどが現場で片づけをしているはずの人間だった。
いつまでも集合時間に集まらないため、業を煮やして呼び出したのだろう。
だが、呼び出された人間の中には、実行委員ではないものもいた。
『二年生の土御門さん。二年生の土御門さん。お電話が入っております。至急、職員室にお願いします』
「……は?」
「え?」
突然の護の呼び出し、それも電話がかかってきている、という言葉に、護と月美だけでなくクラスメイトたちにも動揺が走った。
「おいおい、電話って……」
「何かあったのか?」
「てことは、土御門、不参加確定?」
「ま、まだだ。まだ慌てる時間じゃない」
「……いや、お前ら何言ってんの?つか、なんでお前らが動揺してんだよ……」
動揺し、ざわめきだしたクラスメイトたちに対して、護はいたって冷静だった。
冷静に、誰が電話をかけてきているのか、推測を始めていた。
基本的に翼が電話で呼び出すようなことはしない。
仮に呼び出すとしても、式神や使鬼に伝言を預けるくらいのもので、それをするにしても、何か緊急事態が起きた時だ。
そのため、護の脳裏には、最もありあることとして、二つの可能性が浮かんでいた。
――調査局の誰かさんが直接電話してきているか、あるいは、父さんが急ぎではあるけれどさほど緊急性は高くない仕事が入ったことを伝えようとしているか。そのどっちかかな
そんな予測をたてはしたが、とにもかくにも、電話をかけてきた相手を確認しないことには始まらない。
あからさまに面倒くさそうな表情をしながら、護は職員室へと向かっていった。
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