第161話 文化祭初日~視界に入ってきた最悪の展開~
急に甘えたモードに入った月美を構い、少しばかり時間を取られはしたものの、二人はバザーを催している一年生の教室へと向かっていった。
到着して早々、二人は目を丸くした。
「やっぱ人の入りがすげぇなここ……」
「うちの喫茶店もすごかったけど、ここもすごいね」
開幕早々、バックヤード班も出張らなければ対応できなくなるほどの人が入ってきた護たちのクラスもそうだが、このクラスも物珍しさからかかなりの客入りとなっていた。
パンフレットにも書かれていたが、どんなに高くてもワンコインという、下手な中古屋よりも安くなっていることも起因しているのだろうが、学校で行われているバザーという物珍しさも、客入りの要因となっているようだ。
とはいえ、いつまでも入口に立っていてはあとに続く客人に迷惑がかかるし、何より時間がもったいない。
二人はいまだ慣れないその客人の多さに驚きながらも、教室へと入っていった。
「へぇ……やっぱりバザーだけあって色々あるね」
「だな……服に文房具、食器類……っておいおい、本まで売ってんのか」
売られているものに一通り目を通しながら、二人はその種類の多さに目を丸くしていた。
「……って、なんで参考書が売られてんだよ」
「普通、自分で使う……よね?」
「勉強する気はありませんって犯行の意思か?」
「あ、それはありそう」
目の前に置かれた参考書類に、護と月美は驚愕すると同時に、苦笑を浮かべていた。
そこにあるのは、英和辞典や漢字辞典の類。
どう考えても、普段の授業で使用するものだというのに、こうしてバザーで不用品として販売されてしまっている光景を見て、果たして、学業は大丈夫なのだろうかと心配になってしまう。
もっとも、後輩からしてみれば余計なおせっかいなのだろうが。
「ほかには……お?」
「あ。なんか懐かしいのがある」
次に二人の目についたものは、幼稚園児くらいの女の子が好みそうな食玩のアクセサリーたちだった。
護はこういったものにまったく縁がなかったが、月美は懐かしさを覚えているようだ。
「やっぱ、月美もこういうの集めてたのか?」
「うん!幼稚園の友達と見せ合いっこしたり交換したりもしてたよ」
懐かしそうに話す月美の表情に、護も似たような経験があることを思い出していた。
まだ護が自分の特殊性を自覚しておらず、力も弱かったころ。
チョコレートのおまけについていたシールが流行しており、シールを使ったゲームで遊んだり、目当てのものと交換し合ったりしていたものだ。
「へぇ……女子ってこういうのを交換し合うもんなのか」
「まぁ、人にもよるけれどね」
「ん?あぁ、もしかして男子に混ざって遊ぶおてんばでもいたのか?」
「うん……もう会うことはないと思うけどね」
そう語る月美の顔はどこか寂しげだった。
この数か月でなじんできてはいたが、もともと、月美は出雲で過ごしていた。
当然、その時間の中で多くの同年代の人々と触れ合い、親友と呼べる二人の少女にも出会った。
だが、春先に護を呼び寄せなければならないほど困難な事件が起きた時に、護は自身に宿る霊力ではなく、神狐の通力を解き放った。
その力は人間に扱いきれるものではない。当然、通力の炎は宿主である護をも焼いた。
その炎を鎮めるため、月美は護に宿る通力を外側から封じる術を、葛葉姫の使いである白狐から授かっていた。
その術を使い、月美は護の命を救った。
その代償として、出雲の地に住む人々の記憶から、月美の記憶は消えてしまった。
当然、その親友たちの記憶からも、月美の存在は消えてしまっている。
そのことを思い出したのだろう。
だが、月美自身、そうなることは覚悟していた。
何より、今は、ここ東京に親友と呼べる二人の同級生がいるため、寂しさはないのだろう。
その証拠に。
「へぇ、この指輪、かわいいなぁ」
可愛らしいデザインの指輪を見つけると、その表情はすぐに笑顔に変わっていた。
その変わり身の早さに、護はなんとも言えないものを感じたが、月美がすでに出雲の人々から忘れられていることを気にしなくなっていることに、どこか安堵していた。
月美が懐かしそうに並べられている商品を眺めている間、護は周囲の他の場所を見回していた。
光から聞いた話では、この教室で行われているバザーに、『呪いの人形』が販売されているはずだった。
気にする必要はないし、購入する必要もない。
だが、ちゃんとこの教室にあるかどうかくらいは確認しておかないと、あとで色々チクチクと文句を言われてしまいそうだ。
(さて……たしか、バザーをやってるのってこの教室だけだったはず)
それとなく、視線を巡らせて、護は『呪いの人形』を探した。
だが、人の気配が多いせいか、先ほど、やる予定ではなかった、やりたくもない接客に対応せざるを得ない状況に放り込まれ、疲弊してしまっているのか。
人形が放っているはずの陰の気配を感じ取ることができずにいた。
(まいったな、こりゃ……確か、海外製で金髪碧眼ってことだけど……)
それらしい西洋人形は、護の視界には入っていない。
なりふり構わず、護は静かに立ち上がり、教室内を見回して人形を探した。
ふと、金色の光が一瞬だけ、護の視界に入り込んできた。
その方向へ振り向くと、護は絶句した。
「……なんてこった……」
護の視界には、小さな女の子が金髪碧眼の西洋人形を抱えて歩いている姿が目に入った。
その人形からは、わずかではあったものの陰の気配が漏れ出ていた。
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