第153話 準備は大忙し~その他諸々も決めていく~
最終下校時刻になるまでの短い時間ではあったが、クラスメイト全員が一丸となって準備を進めていたおかげか、文化祭当日の二週間前にはテーブルクロスや看板、メニュー表の準備が整い、テーブルの配置やシフトに関する話し合いに移っていた。
「さすがに丸テーブルは使えない。机四つで作った島をいくつか配置する感じがオーソドックスで楽だと思うんだけど、どうかな?」
「いいんじゃないかと思うけど、それ、スペース的に大丈夫か?」
基本的に、学校で使われる学習机の規定は二百四十平方ミリ以上となっている。
それを四つということは、およそ八百十六ミリ平方ミリということになる。
だが、座る際のスペースや通路、バックヤードなどのスペースも考えなければならないため、それほど多くの数を用意することはできなくなってしまう。
執事と女給というコスプレをおこなうことから、通常よりも多くの客入りが考えられるため、できる限り席を用意しておく必要がある。
四つでは厳しいのではないか、というのが委員長に反論したクラスメイトの意見だった。
「なら机三つか?」
「いや、机の上に物を乗せるんだから、二つの方がいいんじゃね?」
「乗せるって言っても、何もトレイを乗せるなんてことはないんだから、二つでいいだろ。出すのも紅茶とコーヒーと、あとはせいぜいクッキーくらいなんだし」
「じゃあ、机はそれでいいとして、次はシフトだな」
委員長が話題を切り替え、最初に、委員会での仕事や部活動の出し物があるクラスメイトを把握し、シフト組みはそれらの仕事がないクラスメイトを中心に行うことになった。
部活動にも委員会にも参加していない護と月美は当然、シフトに組まれることになった。
結果、基本的に護は裏方、月美は接客の仕事が割り振られた。
「まぁ、妥当だな。俺に接客は無理だ」
委員長の口から出てきたその提案に、護は特に何も文句をいうことはなかった。
本人にしても委員長にしても、その性格が接客に向かないということはわかっていたため、そのような采配がされたようだ。
月美もそれは理解していたため、ただただ苦笑を浮かべていた。
だが、自分が裏方で動いている間にも、月美が客や同窓生、先輩後輩たちからの視線にさらされることを不愉快に思ったらしい。
「……あ、でも月美がやらしい目で見られんのも腹立つな」
「って、それいま言う?……あぁ、でもわたしもそれはそれでやだなぁ……」
心中でつぶやいていたはずのことが口に出てしまったらしい。
月美は頬を少しばかり赤くしながらも、同意するような言葉をつぶやいた。
誰かの注目を集めることは、高校生という承認欲求旺盛な世代からすれば、この上なく心地よいことではある。
だが月美は、不特定多数の人間から注目を集めるよりも、土御門家の人々から認められることのほうが嬉しいし、見てくる他人というのはこの場合、月美の美貌につられているだけで、近くにいられても不快なだけだ。
「……今更だけど、わたしも接客、向かないかもしれない……」
「いやいや、風森さん!頼むから接客してくれ!!」
「そうだよ!せっかく衣装作ったんだから!!」
『見せなきゃ損だよ!!』
衣装づくりの担当になったコスプレ趣味のクラスメイトたちが口をそろえて、月美が接客を辞退することを止めに入った。
やはり自分が作った作品が誰かの目に留まるチャンスは捨てたくないのだろう。
何が何でも月美には出てほしい、という想いがひしひしと伝わってきていた。
結局、その想いの強さに根負けして。
「だ、大丈夫。途中で投げることはしないから……」
と、接客につくことを承諾させられてしまった。
なお、佳代は図書委員会に所属しているが、特に出し物や仕事はないため、二人と同じ程度の量のシフトに入ることになっているが、部活の出し物に出る関係上、清と明美は圧倒的に少ないシフトになっていた。
が、それは個々人の抱える事情であるため、どうこうすることはできないし、言うつもりも、護にはなかった。
むしろ、気にしていることは別にあった。
――調査局が探してる人形……引き渡すにしても、できるだけ早く確保しといたほうがいいな
数日前に再会した光から聞かされた、「呪いの人形」。
それがどこかの文化祭のバザーで出品されるという噂を聞いてから、どうにもその人形のことが気がかりで仕方がないのだ。
調べてみたが、確かにあまりいい噂はないし、むしろ早いところ回収しておかなければいけない。
少なくとも、どこの教室でバザーが行われているか、どんな人相の人間が持っていったかを調査局に報告する必要がある。
別に、回収を依頼されたわけではないため、必要最低限以上のことをするつもりはまったくない。
だが、ここでその人形を回収しておかなければ、いずれ、佳代や明美、あるいはここにいるクラスメイトの誰かに危害が及ぶ可能性がまったくないというわけはない。
佳代や明美はともかく、クラスメイトがどうなろうと知ったことではないのだが、知っていて何もしなかったせいで被害が出るというのは目覚めが悪いし、そのせいで周囲からとやかく言われるかもしれないと思うと余計に腹立たしい。
――となると、初日と二日目の空き時間が勝負ってことになるな……月美と休憩がかぶってるところは避けるとして……
クラスメイトたちがどこの時間に入りたい、というシフトの要望を伝えている中で、護は一人、文化祭当日の自分の行動をどうするべきか思案していた。
そうこうしているうちに、シフトが決まり、護と月美の休憩時間は二日目の午後に重なることになった。
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