第125話 京都に到着

 京都に無事に到着した護たちは、ひとまず、スーツケースをコインロッカーに預け、昼食をとることにした。

 とはいえ、近くに有名店があるわけでも、名物が食べられる店があるわけでもない。

 そういうものは京都駅から少し離れた場所に点在している。

 なお、一番近いのは神泉苑の中に構えられている店なのだが、二条城の付近にあるため、しばらく歩いていく必要がある。


 「適当にファミレスとか、駅弁にするか?」

 「ん~……けど、近くにファミレスとかあったっけ?」

 「コンビニならあるけど……」

 「それより、先に映画村に行ってからのほうがいいんじゃない?」


 と、様々な意見が錯綜し始めた。

 だが、どの意見も最終的には映画村に行く、ということで完結している。


 「……なぁ、いっそ映画村の中の食堂とかで食べることにしないか?」

 「あんのか?」

 「ガイドブック見てみたらラーメン屋とか軽食屋とか、けっこうあるみたいだな」


 清の提案に護が問いかけると、清はガイドブックを取り出して映画村のページを見せてきた。

 確かに、時代劇でよく見る土蔵と看板と一緒に、ラーメンやうどんの写真が貼り付けられていた。


 「……なら、うどんにするか」

 「そうね。ラーメンはまだ……」

 「冷やし中華ならありだと思うけどね」

 「それなら、もうすぐ次の便が来ちゃうから急ごう?」


 満場一致で清の提案に乗ることになり、護たちは映画村へ向かうべく、京都駅のロータリーにある映画村行きのバスが発着するバス停へと向かっていった。


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 映画村行きのバスに揺られながらしばし。

 護たちは目的地である映画村に到着すると、五人はまずまっすぐに受付で入場許可証をもらい、パンフレットを受け取った。


 「さて、どうすっかね?」

 「京うどんもいいけど、ラーメンとかもいいかも」

 「あぁ、そういえば日本で初めてラーメンを作ったのって光圀公だったっけ?」

 「そういわれてるな……あぁ、暑いけどラーメンも捨てがたいな……」

 「あえて定食とか?ほら、生湯葉丼とかもあるみたいだし」


 京都といえば豆腐。

 そういわれるほど、京都の豆腐や湯葉は美味と言われている。

 京都は四方を山に囲まれた盆地で、水は豊富にある。その地形が関係しているのだろう。

 清水寺の敷地内でも、豆腐を専門にしている店が存在するほどだ。


 「生湯葉かぁ……そういや俺、食ったことないかも」

 「あ、あたしも」

 「なら、生湯葉丼にすっか?」


 食べたことがない、という清と明美の理由で、生湯葉丼を食べることにして、一行はそのメニューが提供される店へと向かっていった。

 江戸の街並みを楽しみながら、目的の店まで歩いていく最中、ロケをやっていたのか、それとも体験型アトラクションなのか、江戸時代の庶民の姿にふんした数人の男女とすれ違った。


 「わぁ……町娘の格好だ」

 「着てみたいなぁ……」

 「お昼食べたら行ってみる?」

 「あ、それいいかも!!」


 と、すれ違った一団の中にいた町娘の姿が気になったらしく、自分たちもやっているか、という話に向かっていった。

 むろん、それはそれで構わないし、ホステルのチェックインまでまだ時間はある。

 なにより、最近こそハロウィンやアニメイベントといった場でコスプレをする機会は増えてきたが、衣装から小道具まで自分で用意しなければならない。

 それと比べれば、ここで体験をさせてもらうほうがよほど安上がりだ。


 「護なら何にする?」

 「何が?」

 「江戸時代のコスプレ。ちなみに俺は岡っ引きだ!」


 どうやら、女性陣の話が聞こえていたらしい。

 清はすっかり、昼食後に体験会に参加する気になっていた。


 「新撰組」


 清の問いかけに、鋭い視線を向けながら返した。

 いかにも人斬りが向けてきそうな視線に、清は若干の恐怖を覚えたが、気のせいだ、と言い聞かせてそれ以上の問いかけることはしなかった。


 そんなおしゃべりをしながら歩いていると、目当ての食堂に到着した。

 若干、並んではいたもののさほど気になる人数でもなかったため、大人しく順番を待つことにした。

 数分とせずに席に案内され、注文することができた。

 初めての生湯葉に舌鼓を打つ、清と明美を眺めながら、護と月美、佳代の三人もまた、生湯葉を使った定食を味わった。


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 昼食を終えて、一行はひとまず腹ごなしに映画村内をぶらぶらと散策し始めた。

 同じく映画村を訪れている観光客もいるが、体験アトラクションに参加している人間もちらほら見受けられた。

 特にこの手合いの体験をしているのは外国人が多いようだ。

 やはり、アニメ文化の流行から始まったクールジャパンの風潮に乗っかっているのだろうか。

 そんなことを考えながら歩いていると、突然、五人を三人のスタッフが呼び止めた。


 「すみません、お客様方」

 「ご案内したいことがあるのですが」

 「お時間、よろしいでしょうか?」


 三人の話によれば、これから新撰組の捕り物の寸劇が行われるのだが、人が足りず、エキストラとして観光客を捕まえているらしい。

 もっとも、それは建前で、こうしたエキストラの募集すらも体験の一環であることを護たちはパンフレットの注意事項で知っていたのだ。


 「時間的には大丈夫だから、いいんじゃないか?」

 「なら参加するか」

 「かまわないわよ?」

 「わたしも参加する」

 「なら、わたしも」


 清の提案に四人は乗ることにした。

 参加の意思が確認されると、スタッフたちは更衣室へと護たちを案内した。

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