旅行記
第115話 夏休み突入~一学期の総合成績~
体育祭を終え、そのすぐあとに迫ってきた期末試験もどうにかクリアした護と月美はこの日、いつも以上に緊張していた。
その原因は、今日、配られることになっている成績表にあった。
期末試験の成績も平均以上をキープしている二人は、成績上位者こそなりはしないが、それでも学年内で二十位以内には入っているので、決して悪くない成績になっているはずだ。
それは二人ともわかっているのだが、やはり実際に目にするまではわからないため、どうしても緊張してしまうのだ。
そして、運命の時が来た。
「おし、それじゃ、成績表を配るぞ」
クラス担任である月御門がそう宣言した瞬間、教室中がざわめきだした。
理由は、十中八九、護と月美と同じものだろう。
だが、そんなことは知ったことではない、とばかりに、月御門は出席番号の順に名前を呼び、次々に成績表を手渡していった。
なお、呼び出される順番は男女関係なしの五十音順となっている。
そのため。
「風森」
必然的に月美のほうが先に呼ばれることになる。
名前を呼ばれ、月美は席から立ち上がり、教卓へ向かった。
「ほれ。来期もこの調子で頑張れ」
月御門はそういいながら、月美に成績表を手渡した。
成績表を受け取り、月美は急いで席に戻ったが、まだ開かなかった。
普通ならば、席に着いた時点で成績表を開くのだろうが、まだ護が呼ばれていないうちに自分の成績を見る気がないようだ。
しばらくすると護の名前も呼ばれ、護は教卓のほうへむかっていった。
二、三個ほど、何かを言われたようだが、相変わらずの人間嫌いからか、適当に返答してそそくさと戻ってきた。
「おかえり」
「ただいま……んじゃ、見てみるか?」
「勘解由小路くんと明美、それから佳代が来るまで待たない?」
「……まぁ、いいか」
本当なら、三人を待たずに成績表を確認したいのだが、月美は友人と見せ合いたいらしい。
そう察した護は、我慢することにして、出席番号が最後になっている佳代が呼び出されるのを待つことにした。
それから十分とすることなく、佳代も成績表を受け取り、自分の席へ戻っていった。
当然、成績表を渡されたことで、一喜一憂する生徒たちのざわめきで教室は騒然となるのだが、月御門が手をたたくと、一斉に静まり返った。
「気持ちはわかるが、少し静かにしてくれ。連絡事項を伝えっから」
その一言のあと、当然といえば当然のことを改めて月御門の口から伝えられ、生徒たちはうんざりした表情を浮かべていた。
その表情を見た月御門は苦笑を浮かべ、それじゃ最後に、ともう一つの連絡事項を口にした。
「夏休みだからってむやみやたらに冒険すんなよ?誰とは言わないが、一学期中、警察の厄介になりかけた奴もいるようだしな」
そう言って、月御門はちらりと教室の片隅を見た。
そこには、体育祭が始まるより前に佳代をいじめていたグループのリーダーがいた。
佳代に対するいじめそのものは、護と月美が止めたため、もう行われていないし、面倒なことにならないよう、月御門だけでなく、教師の誰にもこのことは話していない。
話していないのだが、なぜか月御門はピンポイントで彼女のほうへ視線を向けていた。
どこかで噂を聞いたのか、それとも一部始終を見て見ぬふりをしていたのか、それはわからないが、見られていることを自覚したリーダーの女子は、小さく震えながら、うつむいていた。
その姿と様子を見て、月御門は満足したのか、視線を彼女から外し、教室全体に向けた。
「それじゃ、二学期の頭もこの教室の椅子がお前らで埋まってることを祈ってる。これで一学期最後のH.Rを終了とする!委員長、号令頼む」
月御門がそう口にすると、委員長が号令をかけた。
その号令に合わせ、クラス中の生徒が一斉に立ち上がり、姿勢を正した。
「礼」
『ありがとうございました』
お決まりの言葉を口にすると、クラス中は再びざわめきだした。
事実上、これで夏休み突入なのだから、そうなるのも必然というものだろう。
「護~」
「月美~、あと土御門も」
「土御門くん、月美さん、お疲れ様」
成績表以外のものをカバンに詰め込み、帰り支度を始めていると、二人の近くにいつもの三人が歩み寄ってきた。
その手には、カバンと配布された成績表があった。
どうやら、成績の見せ合いに来たらしい。
月美も乗り気らしく、成績表を取り出していた。
護も四人の意図を察し、わざとしまわなかった成績表を手に取った。
「んじゃ、スリーでいくぞ!」
「何かっこつけてんのよ……」
「あほらし」
「いいんだよ!こういうのは気分なんだから!!」
なぜかいつもよりテンションがおかしい清に明美の冷静なツッコミが入ったが、それを押しのけて、清はカウントを開始した。
「ワン、ツー、スリー!!」
スリーの掛け声とともに、護たちは一斉に成績表を開いた。
各教科ごとの五段階評価と、日常での態度などが記されている他、学年内とクラス内での成績順位が記されている欄があり、そこに視線を向けるとこのようになっていた。
風森月美。クラス八位、学年十位。
勘解由小路清。クラス三十二位、学年八十位。
桜沢明美。クラス十九位、学年三十位。
土御門護。クラス十位、学年十四位。
吉田佳代。クラス七位。学年八位。
護と佳代はいつもの結果に満足している様子だし、明美は以前より順位が上がったらしい。
月美は東京に引っ越してきて最初の総合成績であったからか、気合が入っていたらしく、その結果に大満足していた。
唯一、その結果を見て、最初にうなだれたのは、言うまでもなく最下位の清だった。
「うごぉぉぉぉ……な、なぜだぁ……」
「知らん」
「普段の態度じゃない?」
「あ、あはははは……」
「え、えっと……どんまい?」
歯に衣着せない、そのままずばりの意見が二つと、どう返したらいいのかわからずに浮かんだ苦笑、そして唯一、疑問形ではあったが慰めの言葉を受けて、清はさらにうなだれるのだった。
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