第46話 放課後になっても気は休まらない

 昨日からずっと狼男の襲撃に警戒していた護だったが、結局、その日は狼男からの襲撃はなかった。

 とはいえ。


――襲撃がなかったのはいいけど、まだ油断はできないな


 いつ襲撃してくるかわからない以上、警戒を解くことはできない。

 そのため、放課後も護は使鬼を使いながら、周辺を見張っていたのだが、結局何も起こらず、二人とも無事に神社に到着する。


――わからん。なぜ襲ってこなかった?


 自室で月美と一緒に宿題をしながら、護はそのことを考えていた。

 周辺を式に見張らせていたからといって、付け入る隙がまったくなかったわけではない。

 まして、わざと人のいない場所へ向かってみたり、人通りが少ない場所を選んで通ったりしていたのだ。

 いくらでも襲撃する機会はあったはず。

 むろん、増援や伏兵を警戒して襲撃してこなかったという可能性もなくはない。

 だが、使鬼たちに見張らせた限り、怪しい動きを見せた人間はまったくいなかった。


――俺と月美が一人になる機会をうかがっていた? いや、だとしたら休み時間に俺を襲撃していたもおかしくないはずだ。ならいったい……


 眉間にしわを寄せて物思いにふけっていると、目の前で聞きなれた声が聞こえてきた。


「護? 大丈夫??」

「……ん? あ、あぁ。大丈夫だよ?」


 考え事をしていることを悟られたくなかったため、護はそう答える。

 だが、月美はその言葉を信じず、真顔で即答した。


「嘘。今朝からずっと考え事してる」


 相変わらずの鋭い勘働きに護は目を丸くして、どう切り返したものか考え始める。

 その様子に、月美は思い当たることを口に出してきた。


「もしかして、昨日の狼男のこと?」

「ほんとにいい勘してるよ」


 月美の口から出てきた答えに、護は頭を抱えながら返すと、これ以上、隠しておくことはできないと判断したのか。

 それとも、月美も巻き込まれた側であることに違いはないため、隠しておく必要もないと考えたのか。

 いずれにしても、護は自分が考えていたことについて打ち明けることにした。

 護から話をすべて聞いた月美は、頬を膨らませた。


「どうしてわたしにも手伝わせてくれないの?!」

「いや、だってこれ土御門家にまわってきた仕事……」

「だからって、護一人で全部やる必要はないんじゃないの?! というか、わたしも巻き込まれたんだよ? その時点で当事者と同じじゃないかな?!」

「いや待て、その論理は無理がある!」


 要するに、自分も当事者なのだから関わらせろ、ということなのだろう。

 だが、巻き込まれたからといって一緒に仕事をするわけにはいかない。

 いくら自分の恋人で将来的に土御門家の人間になるのだとしても、今の彼女の身分は土御門家の客人。

 客人に家の事に関して協力してもらうわけにはいかない。

 暗黙の了解がわからないほど、護も愚かではないのだが、惚れた女に勝てるほど、強く出れるわけでもなく。


「はぁ……わかりました。ぜひ、協力してください」

「わかればよろしい!」


 月美とも協力して今回の事件にあたることにした。


「なら、さっさと宿題終わらせて、調査を始めよう?」

「そこは忘れてなかったのか」

「当たり前でしょ?」


 だが、自分たちが宿題をしていたことは忘れていなかったらしい。

 むろん、護も忘れてはいなかったし、忘れたら忘れたでこの後のスケジュールに支障が出てしまう。

 それを避けるため、護と月美はやるべきことを先に終わらせてから、二人はそれぞれの部屋で占いを行い、そこで見えたものをすり合わせることにした。

 占いというものは、未来予測だけでなく、現在進行形で起きていることを読み解くもの。

 非常に繊細なものであり、そこに加えてかなりの集中力を必要とする。

 そのため、一人だけの空間で行うことが都合がいいのだ。

 月美が自室に戻った後、護は六壬式盤を引き出しながら占う内容について考えをまとめる。


――情報が少なすぎるからどこまで出てくるかわからないな……けど、最初に占う内容としては、やっぱり襲撃してきた狼男についてが妥当かな


 現時点では情報が少なすぎるため、事件の全貌を把握することは難しい。

 だが、襲撃してきた存在について何か掴むことができれば、事件解決の足掛かりになるだけではない。


――賀茂光調査局のじゃじゃ馬娘に丸投げできる。そうすりゃ妖どもの依頼も芋づる式に解決できるだろ


 事件と妖の依頼。

 最初はどちらも関連がないと思っていたのだが、どちらも狼男が関与しているという共通点でつながっていた。

 ならば、調査局の事件が解決すれば、自然と妖からの依頼も完了できるはず、と踏んでいるようだ。

 最初こそ、調査局の事件に協力するつもりはなく、妖からの依頼を解決することに注力するつもりだった。

 だが。


――俺一人だけだったらまだしも、月美まで狙ってきた。それに、今後も襲撃があるとも限らねぇ


 先日の襲撃で気が変わったらしい。

 なんとか撃退はできたが、これから先、月美が一人でいるところを狙ってくる可能性もある。

 自分一人を狙うのならまだいいが、家族や月美、しょっちゅう声をかけてくる妖たち。明美月美の友達や、ついでに自称親友が危険にさらされる。

 その可能性が出てきたというのに、穏やかでいられるほど護は人間ができていない。

 自分の周囲にも手を出そうものなら、徹底的に敵対し倒す。

 占いを始める前に、護はそう決意していた。

 そうこうしているうちに、式盤が占の結果をはじき出し、護は式盤を覗き込む。


「なんじゃこら……?」


 そこに出てきていた占いの結果は、「人の業」と「因果応報」という二つを示していたが、この言葉が織りなす意味を、この時はまだわかるはずもない。

 これは一体、どういうことなのか。

 護は少しの間、一人でうなりながら考え込むこととなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る