37話 魔性のいざない
「説得して言うことを聞く相手だとは思えねーがな」
廊下を歩きながらそう語るロボに、カリューは確信を持って答えた。
「そんなことはない。相手はそれが悪いことだという感覚がマヒしてしまっているだけだ。そこを指摘し現実を再認識させれば、罪の意識に目覚めて絶対に改心に至る」
「……だといいがな」
あの強欲そうなじじいが、何の見返りもなくこっちの言い分を飲むかね。
ロボは内心そう感じながら、とりあえずはカリューの好きにさせてやろうと思っていた。
2人は今、ミラバ・ゲッソのもとに向かっていた。その理由は、不当に捕えられているエルフを解放するためである。
カリューを案内したハーネスという名の侍女。彼女がエルフだということは、会ってすぐにカリューの知るところとなった。人間とエルフが身に纏うオーラには種族差があり、それが見えるカリューとハーネスは、互いにエルフだと気づいたのである。
エルフが人の世界に紛れて働くことはほとんどないが、人からの要請に例外的に応じることはゼロではない。ただ、それは過去の話であり、現状この国に於いてそれはあり得なかった。国は兵を挙げて、エタリナに住むすべてのエルフを駆逐、追放してしまったからである。
国とエルフの取り決めでエルフや獣人を捕らえたり、奴隷のような身分で扱うのは禁じられていた。ただ、条約で禁じられていてもエタリナの獣人が密猟されることは少なくなかったし、異国から連れて来られるケースもあって、それは暗黙の了解としてこの国に根付いていた。
そこに来て、エルフという監督役を失った今の状況は、それを助長するだけに留まらず、ほとんど見ることのなかったエルフまで奴隷として不当な扱いを受けたり、強制労働を課せられる事態に発展していた。
国が公に条約を撤回したわけではなかったが、エルフの人望が地に落ちた今、それは様々なところで黙認されていた。美形揃いのエルフは潜在的に多くの需要を抱えており、この国からエルフが排除された時に最後まで抗ったシンラの森のエルフは、それが仇となってそんな存在を多数生むことになった。
情報としてカリューはその事実を知っていたが、それらのエルフたちを今すぐ救い出すのは難しい。歯がゆい思いを抱くに留めていたが、実際目にした状況を放置できる筈もなかった。
ハーネスに加え、共にここで働かされている獣人たちを解放するため、ロボとカリューの2人はミラバ・ゲッソのもとに向かっていたのだ。
因みに、思考を暴走させてハミ
しかし、そこでも重要なイベントが起きていたので、先ずはそちらからご覧いただくことにしよう。
ふて寝から本寝りに至ったルカキスの部屋を、外からノックするものがあった。
コンコン
しかし、熟睡中のルカキスはそれに気づかない。屋内の防音が完璧だったこともあり、寝室までノックの音は届かなかったのだ。
代わりに部屋には、来訪者を告げる呼び鈴の音が届くようになっていた。相手もそれに気づいたのだろう。今度は呼び鈴が鳴らされる。
リンリン……リリン……
その音がルカキスの枕元から響いてくる。しかし、ルカキスはまだ目覚めない。
しばしの沈黙のあと、もう1度呼び鈴の音が響いた。
リンリンリリンリン……
それでもルカキスは目覚めない。どうやらルカキスは、相当深い眠りに陥っているようだった。
しかし、相手も諦めない。呼び鈴を押す回数を増やして対応した。
リンリンリリン……リンリリリリン……
何かのリズムを感じさせる呼び鈴の音の響き。しかし、それでも寝覚めの良くないルカキスを起こすには至らない。業を煮やした相手は腕まくりすると、本気モードに切り替えた。
俄かに独特の間合いで長々と呼び鈴が連打された。それはどこか聞き覚えのある、こぎみ良い音色を奏でた。
リンリンリリン、リンリンリリンリン、リンリンリリン、リンリリリリン~♪
リンリンリリン、リンリンリリンリン、リンリンリリン、リンリリリリン~♪
「ワオッ!」
まるで合いの手のようにそう叫んだルカキスは、勢い余ってベッドから飛び起きた。音楽好きのルカキスを起こすには、上手い方法だったようである。
ただ、その表情は不機嫌そのものといった感じである。大好物の睡眠を妨げられたルカキスは、頭の中で不満の声を上げていた。
くっそ~、いったい誰だ! なぜ、俺の安眠はいつも誰かの妨害を受けるんだ!?
いや、俺の眠りを妨げる奴など1人しかいない。
……ロボめ。戻るのを待たずに俺が先に寝ていたことへの腹いせか?
見回りをかって出たお前の態度に売却を迷った俺の思いも知らず、よくもそんな行動に出られたもんだ。
カリューといいお前といい、人の心遣いの分からないような奴らと、もうこれ以上一緒にはいられない! ロケット団プラスは今をもって解散とする!
そして、ロボ! お前は売却決定だ!
カリューの裏切りを受け迷いもあったが、やはり俺には彼女しかいない!
腐れ縁とはおさらばし、今後俺は彼女のためだけに生きるんだ!
……そ~だ、いいことを考えついた。見せしめにカリューご執心のあの女も俺が貰い受けてやる! そして、カリューにこう告げるんだ!
『このおなごは、まろのものである。今後二度と半径5メートル以内に近づくことも、話しかけることも許さぬ。下がれ。え~い下がらぬかこのうつけが!』
言いながら俺は扇子でピシャリと、奴のデコを張ってやるのだ。
フフッ、悔しさのあまり奴が怒りにうち震える姿が目に浮かぶ。だが、それは自業自得だ。女にだらしないカリューが背負わねばならない、果てなく深い業。身から出たサビだ。
そして、あの女にはたっぷりと見せつけてやる! 俺とアントリッネが2人で織りなす狂おしいまでにドロドロの愛欲に満ちた日々を。
だが、俺はあの女には一切手をつけない。あの女にも自分の尻の軽さが招いたものを、自覚させねばならないからだ。
かわりにお家の仕事は徹底的に言いつけてやる!
小姑のように『なんざますのこれは?』と指についた埃を見せて、家の隅々が綺麗になるまで――
ピ~ンポ~ン~♪
その時、ルカキスの思考を遮るように再び呼び鈴が鳴った。
その音色が先ほどと違っていたことについては、誰もまったく気にならなかった。
お楽しみの妄想を邪魔されたルカキスは、入り口の方に向かって怒気を含んだ言葉を投げつけた。
「しつこいぞ、ロボ! 鍵はかけていないから、勝手に入ってくればいいだろう!」
大声でそう叫んだが、この部屋の防音は完璧である。外までは届かなかった。
ピ~ンポ~ン~♪ ピポ、ピ~ンポ~ン~♪
「たくっ!」
鳴り止まない音に、声が届いていないと気づいたルカキスは、勢いよくベッドから飛び出して、ドカドカ足を踏み鳴らしながら入り口に向かう。その間も呼び鈴は鳴り続けていた。
ピ~ンポ~ン~♪ ピポ、ピ~ンポ~ン~♪
ピポピポピポピポピポピポピポビポビポビポ……
「やかましいっ! いい加減にしない……か!?」
ドアを開けそう怒鳴りつけたルカキスは、そこで思わず言葉を飲み込んだ。
てっきりロボと思い込んでいた相手が、愛しのアントリッネだったからだ。
な……なぜ、アントリッネがここに!?
俄かに浮かんだそんな疑問も、たちどころに消え失せる。なぜなら、そこに立つアントリッネの装いは、ルカキスの疑問がどうでもよくなるくらい、とても艶めかしいものだったからだ。
シースルーの夜着を羽織るその内側は、大事な部分を僅かに覆う黒の下着以外、何も身に付けられていない。ほとんど裸といっていいその悩ましい姿は、アントリッネの丸みを帯びた柔らかそうな肢体と相まって、瞬時にルカキスを虜にした。
だが、当のアントリッネは、そんな格好をさらしながらも半ベソをかいている。そこに気づいたルカキスは、美乳に釘づけになっていた視線を何とか引き剥がすと、急いで取り繕うのだった。
「ア、アントリッネじゃないか。どうしたんだ、こんな夜遅くに……っていうか、どうして泣いてるんだ?」
そう問いかけるルカキスに、アントリッネが鼻声で訴えた。
「どうして……」
「いや、どうしてって、それは俺が聞いて――」
「どうして、すぐに出て来てくれなかったの?」
「えっ!?……と、それはつまり……ハハ。実はよもや君が来てるとは――」
「私が来てるって、分かってたよね?」
「えっ!?」
「気づいてたよね?」
「…………」
アントリッネの咎めるような口調に固まってしまうルカキス。その時、何かを思い返すようにアントリッネが語り始めた。
「貴方と別れてから、私はずっと後ろ髪引かれる思いだった。食事の時に貴方と交わした会話、その時見せてくれた笑顔が、繰り返し何度も私の中で思い出された……」
「…………」
「そんな思いで、部屋で過ごしていた私はすぐに気づいた。貴方に惹かれてしまっていることに。恋してしまっている自分に。だって私の身体はとても火照っていて、その熱が簡単にさめそうにはなかったんですもの……」
言いながら扇情的に身をもだえ、熱っぽい視線を向けてくる態度に、ルカキスはゴクリと大きな音を立てて生唾を飲み下した。
「そんな状態で眠れるわけがない。明日になればこの身体は……心は……貴方のものになるのは分かっていたけれど……」
そこまで口にすると、突如ルカキスに超接近したアントリッネは、もはや唇が触れていると言って過言ではない至近距離で続けた。
「待てない……」
「――!?」
「私の中に待つという選択肢なんてなかった。だって、私は今すぐ貴方が……欲しくて欲しくて堪らなかったんですもの……」
言い終え、ペロリと舌を出したアントリッネは、これ以上ないほど淫らに、ゆっくりと舌なめずりした。
それを見たルカキスは、たったそれだけで陥落していた。
いや、も~ダメだろう。
も~抑えきれんだろう。
も~食べちゃう! そして、食べられちゃう~!
そんな思考を展開しながら、ルカキスは欲望剥き出しにアントリッネに抱きつこうと飛び掛かる。しかし、それを避けるように急に踵を返したアントリッネは、背中越しに言葉を続けた。
必然、空振ったルカキスは、自らの身体を抱く虚しいポーズをとることになった。
「でも、こんな夜遅くに貴方のもとを訪ねるなんて、非常識な女だと思われてしまう。貴方に嫌われてしまう。そんな不安で私は動けなかったの……」
悲しげにそう告げるアントリッネの発言を、すぐにもルカキスが否定する。
「そんなわけない! 君がどんな行動に出ようと、俺は君のことを嫌ったりなんてしない!」
その言葉を待っていたように振り返ったアントリッネは、口元に妖しい笑みを浮かべていた。
「私もそう思ったの。私がこんなにも悶々とした夜を過ごしているのに、貴方だけが涼しい顔で眠っていられるわけがない……」
ギクッ!
「きっと貴方も私と同じように、眠れぬ夜を過ごしているに違いない……」
ギクギクッ!
「その答えに行き着いた私は、迷わず部屋を飛び出した。そして、貴方へと思いを馳せながら貴方の部屋に向かっていた。そんな私の頭の中では俄かに訪れる光景が鮮明に思い描かれていた。貴方の部屋に辿り着いた私は、呼び鈴へと手を伸ばす。でも、私が呼び鈴を押すことはなかった。だって、私が呼び鈴を押すより先にドアは開いて、貴方は私を出迎えてくれるんですもの」
ギクギクギクッ!
「私は無言で貴方の胸に飛び込み、そして2人は熱い口づけを交わす。そんな確かな予感とシンパシーに導かれながら、私は本当に貴方の部屋の前までやって来た。そして、震える指でそっと呼び鈴に手を伸ばした……」
「…………」
「でもね。でも、私は呼び鈴を押していたの」
「…………」
「私は何に遮られることもなく、簡単に呼び鈴を押すことができた。その時、貴方が扉から出て来て私に笑顔を見せてくれる。それは私だけが思い描いていた、単なる妄想に過ぎなかったの……」
言い終え、悲しみの表情を浮かべるアントリッネ。
ルカキスはその話を聞きながら、かなり早い段階で自分の犯した失態に気づいていた。
アントリッネの言い分には少し身勝手で強引な部分もあったが、ルカキスはそれに応えなければならった。なぜなら、ルカキスはロボを売っ払うのもやぶさかでないほどアントリッネに首ったけだったからだ。実際その程度の情熱を持ち合わせていなければならない立場にあったのだ。
だが、ルカキスは起きていなかった。
カリューの部屋から戻って来て寝るまでの間に、ルカキスがアントリッネに想いを馳せた事実すらなく、代わりにルカキスの心の中は、他の何かが入り込む余地のないくらい激しい怒りで満たされていた。
そして、その時間はただ怒りの発散のみに費やされ、カリュー相手に折檻の限りが尽くされていたのだ。
◆◆◆
「――オラオラ、どうしたカリュー? まだ寝るには早過ぎるぜ」
言いながら、倒れてしまったカリューをルカキスは立て直す。そして、そのまま拳を振るうと見せかけ、一旦その手を止めた。
「フッ、また顔に来ると思ったのか? ガードの上がったその姿勢は……スキだらけなんだよっ!」
ドスッ
言葉と共に、ルカキスの放ったボディブローが深々とめり込む。たが、傍から見ているだけでは、その情景は今ひとつ要領が掴めない。なぜなら、ベッドの上に立てかけられたカリューに手はなく、その身体はふかふかの真っ白い生地でできていたからだ。
しかし、ルカキスの頭の中にあるルカキス劇場では、まごうことなきリアルが展開されていた。足りないものは、すべて想像で補完されるからだ。
その口振りから、どうやカリューは顔を殴られるのを警戒し、ガードを上げてしまっていたようである。そのせいでガラ空きになったボディにルカキスの右手が突き刺さり、そのまま3連撃が叩き込まれた。
「ボディが、お留守、だぜ!」
その威力に、思わずカリューが
だが、ルカキスの猛攻は止まらない。軽やかに先ほどの決め台詞を口にしながら、執拗なまでにボディを攻め立てた。
「ボディが、お留守、だぜ? ボディが、お留守、だぜ?」
言葉が疑問形で終わっているのは『強烈パンチ、モロ決まっちゃってますけど、大丈夫なの?』と言わんばかりの憎たらしい顔を、ルカキスが言葉尻に浮かべているからである。
そんな感じで程よく汗をかき、ようやくフラストレーションの解消ができたルカキスは、満足そうな笑みを浮かべた。
そこにアントリッネへの想いがあった筈もなく、そのままルカキスはまどろみの中へと旅立ってしまったのだ。
◆◆◆
そんな事実をアントリッネに告げて、事がおさまる筈もない。
それどころか、ルカキスにはその場をおさめつつ、なお相手の心を掴む最適な切り返しが要求されていたのだ。
アントリッネの咎めるような視線が、ルカキスの胸に突き刺さる。この窮地を乗り切るため、ルカキスは猛烈な速度で思考を続けていた。
「それってやっぱり、私の独りよがり……だったんだよね。悲しいな……」
伏し目がちにそう呟くアントリッネ。それをルカキスが放っておける筈もなく、見切り発車で即座に言葉を返した。
「何を言ってるんだ、アントリッネ! そんなわけないだろう! 俺は……俺はお前が俺を想う以上にお前のことを想っている! そして、愛している! お前の想いは独りよがりなんかじゃない!
そう言ってはみたものの、頭の中のプランはまだ完全に固まっていない。
ただ、あそこで言葉を返さなければ、アントリッネの言葉を肯定することになってしまう。それは、致し方のない選択といえた。
しかし、そんな言葉の誤魔化しでアントリッネが納得するわけがない。当然のように反論の言葉がアントリッネの口を突く。
「じゃあ、どうして? どうして直ぐに出て来てくれなかったの?」
「そ、そ、それは、ア、ア、アレだ……」
どもりにどもるルカキスに、その時閃きが訪れる。それはルカキスにとって万全ともいえる言い訳に感じられた。それがルカキスに笑みと余裕を取り戻させていた。
「フッ、アントリッネ。君には本当に悪いことをしたと思っている。でも、あの時俺は知りたかったんだ。君の愛が果たして本物なのか、俺はどうしても確かめたかったんだ」
「……えっ?」
「そして、俺自身の愛も偽りでないという証拠が、俺はどうしても欲しかった」
「……どういうこと?」
今アントリッネを見つめるルカキスは、男前である。
取り繕った男前……エセ男前である。
そして、勿体ぶった言い回しをした男前は、その真意を語り始めた。
「俺はね、アントリッネ。本当は扉のすぐ内側で立ってたんだ」
「ウソ……じゃあ、どうして直ぐに出て来てくれなかったの?」
「そりゃ、俺だって出たかったさ! 即座に扉を開けて君の豊満な胸に飛び込み、思う存分感触を楽しみたかったさ!」
「…………」
「でもね、アントリッネ。俺はその時思ったんだ。この俺の想いは、君の情熱は、果たして本物なのだろうか?……と。俺はそこに疑問を抱いてしまった。だから俺は君を試したくなったんだ」
アントリッネに真剣な眼差しを向けながら、男前は続けた。
「もし、呼び鈴に出ない俺を諦めて君が立ち去ったなら、君の想いはそこまでのもの。その時俺は君のことをきっぱり諦めるつもりだった。でも違った。君は諦めなかった。その事実が、君の愛が本物……トゥルーラブであると俺に教えてくれた」
「…………」
「そして、呼び鈴の音を聞き続けた俺の愛もまた、消えることはない。そんな2人の愛はまさにミラクル。
決まった。
このトークで完全に相手のハートを掴んだと確信する男前は、男前にさらなる磨きをかけるように、勝ち誇った視線をアントリッネに向ける。
だが、その言葉に微塵も揺さ振られた様子のないアントリッネは、俄かにこう切り返した。
「それが本当なら、どうして扉を開けた瞬間に私を怒鳴りつけたの?」
すべてを台無しにしてしまうあり得ない事実。途端に男前は崩壊した。
そんな致命的ミスを犯していたことを、エセ男前はすっかり忘れていたのだ。
取り繕った顔と言葉が瓦解してゆく中、ルカキスは扉を開けた時の状況を完全に思い出していた。
そ、そうか。てっきり扉の外に立っているのがロボと思っていた俺は、ドアを開けると同時に怒鳴りつけてしまったんだ。
……何てことだ。ロボのせいで、アントリッネのハートを射止める、俺の完璧なストーリーが破綻してしまってるじゃないか!?
くそうっ、ロボめ! 売却の恨みをこんな形で晴らしてくるとは!
だが、どうする!? この窮地をどう乗り切る!?
こんな時……こんな時、俺はどんな顔をすればいいのか分からない……
思い悩むルカキスに、その時またしても閃きが訪れた。
『笑えばいいと思うよ……』
シンジくん!?
その天啓に従うべく、ルカキスはこれ以上ないくらいだらしなく頬を緩めて笑った。
バカみたいに笑った。
その顔を見たアントリッネが、許してくれる筈などなかったのに……
一瞬呆気に取られたものの、そのままルカキスに歩み寄ったアントリッネは、耳元で優しく言葉を囁いた。
「来て……」
そして、ルカキスの手を取ると、誰もいない廊下を無言で歩き出す。それに促されるまま歩くルカキスは、俄かにその意図を悟っていた。
そうか、あのまま俺の部屋にアントリッネを招き入れてしまっては、邪魔が入ってしまう。ロボというお邪魔ムシが帰って来てしまう。
仮にロックしたとしても、ロボなら諦めてカリューの部屋に行くのではなく、無理やりこじ開けてでも中に入ってくるだろう。それを見越してアントリッネは、自室に俺を招くつもりなんだ……
そこに気づいたルカキスは、急に足取りも軽くなる。
そして、アントリッネの真横に並んでこう語りかけた。
「アントリッネ。素敵な夜を君にプレゼントするよ……」
またもや男前を取り繕ったルカキスは、キザったらしくそんな言葉を口にする。
アントリッネは、優しくそれに微笑で応じた。
「貴方との最初の夜をどう過ごそうか色々悩んだんだけど、さっきの貴方の顔を見て私決めたの」
「……えっ?」
「今夜はきっと、ハードな夜になると思うわ……」
妖艶な笑みを浮かべてそう告げてきたアントリッネに、ルカキスは思わず興奮する。
ほどもなく2人は、アントリッネの部屋に辿り着いた。
「入って……」
アントリッネに促され、鼻の穴を限界まで膨らませながら興奮気味に扉を潜ったルカキスは、しかし途端に声を上げて飛び上がった。
「のわっちっ!」
扉脇の壁を背にして、そこにもたれかかっている存在を発見したからだ。
だ、誰だっ!?
警戒の視線を向けるルカキスを無視して、その者がアントリッネに語りかける。
その姿を見つめながら、ルカキスはそれがロボを案内した侍女ベレッタであることに気づいていた。
「こちらから部屋に入って来たところをみると、そういうことでいいのか、アントリッネ?」
「ええ、そのつもりです」
愉しげな表情でそう言い切るアントリッネを見て、ベレッタも薄い笑みを浮かべる。
その視線がルカキスに向けられた。
「……だそうだ。ずいぶんと気に入られたようだな?」
事情が飲み込めずやりとりを傍観していたルカキスは、かけられた言葉の意味も分からず、疑問の表情をアントリッネに向ける。
「安心して。お姉さまには少しお手伝いをしてもらうだけだから……」
言いながらアントリッネは、既に夜着をはだけ始めている。それを見たルカキスもようやく状況を理解した。そして、頭の中で妄想が爆発する。
お手伝いって……もしかして、この女も参加するということか!?
初体験からいきなり3Pの、ロケットスタートなのかっ!?
その事実に驚愕するルカキス。だが、それを拒む心などなかった。
ルカキスの欲望の炎は既に抑えきれないほど燃え上がっており、初心者だからとノーマルプレイを所望する謙虚さなど、ルカキスは持ち合わせていなかった。
多少目つきが鋭い印象はあったが、ベレッタもまた十分過ぎるくらいの美女である。アントリッネより年上であることを考えれば、そこには磨き抜かれた熟練の技が備えられている可能性もある。
瞬時にそんな思いを巡らせたルカキスは、歩み寄ってきたベレッタを見ながら期待に胸躍らせる。そして、身体のある一部分への血流を急激に加速させるのだった。
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