閑話


「少し疲れたか?」


 そう問いかけるカリューに、ロボは満面の笑みを向ける。


「ガーハッハッハ、疲れるどころかルカキスの話に比べりゃあ、全然興味深くて面白ぇ~ぜ。オレは楽しみながら聞かせてもらってる」

「そうか。それは良かった」


 ロボの言葉にカリューが安堵し場が和んだところに、しかしルカキスが水を差す。


「ハッ、ロボは単純だな」


 その見下すような言葉と態度に、ロボは途端に表情を曇らせた。


「なんだよネオ・ルカキス。何が言いてーんだよ?」


 ロボを不快にさせたルカキスの言動は、しかしカリューにも動揺を与えていた。


 俺の話はつまらなかったのだろうか……


 そんな表情を浮かべるカリューを害するつもりは、ルカキスにも毛頭ない。そこにフォローの手を差し伸べながら、ルカキスは感想を口にした。


「い、いや別に文句というほどのこともない。というより、ロボのように世間知らずな者が見聞を広めようと聞く分には、非常に良くできた話だった。ただ、俺には少し物足りない。そう感じただけだ。俺のようにエキセントリックな人生を歩んで来た者には、もう少しなんだ……ドラマティックで、ノスタルジックで、ミックミックな展開を織り交ぜた――」

「いや、ミックミックってなんだよ? ボカロかよ? っていうか、何言ってんだネオ・ルカキス? てめーも、のめり込んで話を聞いてたじゃねーか?」


 そう指摘するロボに、ルカキスは心外そうに眉根を寄せた。


「俺が? フフッ、ロボよ。俺がいつカリューの話にのめり込んでいたと言うんだ?」


 余裕たっぷりにそう告げるルカキスに、ロボはニヤリと口の端に笑みを浮かべながら応じた。


「なんだよネオ・ルカキス。オレが気づかなかったとでも思ってんのか? 死ぬ筈のねーアグアが死んじまったくだりで『ば……バカなっ!?』とか言いながら動揺しまくりだったのは、どこのどいつだよ!」

「なっ!?」


 途端に顔を赤らめたルカキスは、それを取り繕う言葉の歯切れも悪くなる。


「そ、そ、そんなわけがあるか! あ、あれはそんなつもりで口にした言葉じゃない!……断じてないっ!」


 そう言いながらも、どういうつもりだったかを説明しないルカキス。そこを問い詰め、さらし者にすることをロボは考えたが、カリューの話にはまだ先がある。これ以上くだらない言葉の応酬を続けるべきでないと、その後の追及はよすことにした。

 それをいいことに、ルカキスはさらりと話題を変えてカリューに話を振った。


「と、ところでカリュー、お前の話はもうそろそろ終わりそうか?」


 意外にも、話にのめり込んでいた筈なのに、自分の出番がないことの方が不満なのか、そんな言葉がルカキスの口を突く。


「えっ? 終わりどころか、まだ半分にも達していないが……」

「なにっ!?」


 動揺するルカキスに、申し訳なさそうな表情を浮かべたカリューは、何かに思い当たったのか、突然その顔に笑みを浮かべた。


「でも、安心してくれルカキス。これから話す内容にはお前も登場する」

「――!?」

「ほ~う、そいつは面白そうじゃねーか」


 カリューの言葉に、即座に食いつきを見せるロボと、それとは対照的に黙り込んでしまうルカキス。

 それもそうだろう。その話に出てくるルカキスは、ルカキスであってルカキスではない。アクマイザーと呼び忌避する、自分の中から排除したい存在だったからだ。

 しかし、ルカキス自身、そのアクマイザーの素行について、他人から聞くのは初めてのことでもある。

 果たしてその話に出るルカキスは、いったいどのような人格の持ち主なのか?

 カリューはできるだけその人物像が、自分の主観に寄らないよう意識しながら、続きを話し始めたのだった。

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