第43話 オータム、魔草師になる⑥
やってしまった……アナン公国騎士団を壊滅させてしまった。まあ、やってしまったものは仕方がない。何とかばれなければいいのだが。
反省しながらも先ほどの小屋に到着し、シオンと言う女の子の縄を解いた。
もともと、強く縛られていたわけじゃなく彼女も怯えてはいなかった。どうやら、カップルもティンバーも強制的に人質を強いた訳じゃなくシオンの提案を聞いてそうしたらしい。
「でも、オータムさん強いのね。あっちにはゴードンも超気持ち悪くて強いベスパもいたから、このままじゃ絶対にカップルとティンバーが殺されちゃうって思ったけど」
シオンの言動に思わず感心した。かなり頭のよい子だ。
「まあ、あの不気味な騎士はいたぶるの大好きそうだったからシオンのやったことは賢かったかもね。でも、なんで家出なんてしたの?」
そう聞くと、シオンは哀しそうに下を向いた。
「だって……お父様もお母様もいつも忙しそうで、追ってきて欲しくて。でも、お父様もお母様もあたしのことなんて全然心配じゃないの」
子どもっぽい理由でホッと胸を撫で下ろした。まあ、それに付き合わされ、壊滅させられたアナン公国騎士団とシオンの父親と母親には悪いのだが。
「そんなことないわよ」
「だって、追ってきてくれないじゃない! 私の事が心配だったら、ゴードンたちに頼らなくったって――」
「きっとお父様もお母様も泣いてるわよ? シオンの事が心配で心配で。シオンは2人を泣かせてもいいの?」
そういうと、シオンは首を大きく振った。
「偉い子、じゃあ行こうか」
そう優しく頭を撫でた。
それから、小屋を出て最寄りの町へ行って衛兵所の傍に隠れた。
「ここからまっすぐあの衛兵所まで行くのよ。そうすればきっとお父様とお母様はシオンを泣きながら抱きしめてくれるはずよ」
「……オータムさんは来てくれないの?」
「私は……少し用事があるから」
すぐに逃げないと捕まっちゃうから。
「わかった……じゃあね、オータムさん」
寂しそうにシオンは答え、衛兵たちの下へ走って行った。
さて、逃げるか!
・・・
その後、カップルとティンバーの治療を行った。幸い命に別状は無く、私の応急処置も的確だったので事なきを得た。そして、大分脱線してしまったらマギ先生はどうやらゼノ族の集落に来ることになっているとのことだった。
そういうわけで、今、ゼノ族の集落へ向かっている。
「オータムさーん……もう歩けませーん」
そう言ってまたしても弱音を吐きながら座り込むサシャ。そう言えば、診療所を離れてもう一週間が経っている。
「……誰も心配してないんですかね?」
サシャが座り込んでいじけている。
「一週間じゃ心配もなにもないでしょう?」
「でも、私ほどの美人がいなくなったら普通心配しません? 男どもなんていてもたってもいられませんよ。そうですよ、すぐに追ってくるはずですよね」
はは。
「まあ期待しないで待ってたら?」
そう言ってサシャの手を強引に引き上げて歩き始める。
心配か……シオンが前に言っていた言葉がその時、妙に頭に響いた。『だって、追ってきてくれないじゃない! 私の事が心配だったら――』か。
「オータムさん……なんで笑ってるんですか?」
「ん……ちょっとね」
これじゃあシオンのような子どもと変わらないじゃないか。結局、私は……追いかけてきて欲しくて、診療所を出たんじゃないだろうか。魔草師になりたいというのは、ただの言い訳で、本当は――
顔をあげると、すっかり夜になっていて三日月が揺れていた。
ジーク先生……私、今無性にあなたに会いたいです。
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