攻略編

第1話 絶好調

 暁闇の塔に繋がる扉を通ると、強い光に照らされ目が眩みました。

 視界がはっきりしないまま足を前に出すと次第に光は薄れ、じんわりと見えてきたのは……いや、何も見えません。

 真っ暗です。


「わ! 暗いね」

「ほら、遺跡でのことを思い出せ」


 姿は見えないのですが、すぐ後ろにオリオンがいたようです。


「あ、そっか。光隠の印を使ったらいいんだよね。そういえば遺跡と色々似てるって言ってたよね」

「もう忘れていたのかよ」


 リンちゃんも近くにいるようです。

 二人して呆れるくらいなら、どちらかが明るくしてくれればいいのでは? と心の中で反抗しつつ周りを照らしました。


「うわあ、広い!」


 光が照らし出したのは何処までも続く何も無い廃墟のような空間。

 見た目も遺跡の中と似ています。


「おかしいだろ! 外から見るより明らかに広いじゃん!」

「あ、本当だ!」


 リンちゃんの驚いた声でハッとしました。

 確かに塔の幅より広い……というか突き当たりが見えないので何処まで広がっているのか分かりません。


「塔の中は空間が歪んでいるらしい。詳しいことは何も分かっていない。女神の力だとしか言いようがないな」

「じゃあ、ここが本当に塔の中かも分からないよな? 窓とかもないし中から顔を出して確認、なんて出来そうになさそうだし。内壁が見えないからぶち破ってみるなんてことも出来ないな」

「ここは入るたびに構造が変わったりしないのですか?」

「基本的には変わらないが、変わることもある。何か変化する条件があるのだろう」

「ん? ん~~?」


 頭が追いつかない私を無視して三人は話を進めています。

 知力を求められていないことは知っていますが、話の仲間には入れて欲しいな!

 

「お、早速来たじゃん」


 確かに何かの羽音が聞こえます。

 それも大量に。

 アルがサポートしてくれているターゲット表示でも視界が的で埋まるほどの敵の大群を捕らえています。

 それは次第に目でも確認できるようになりました。

 あれは……。


「ポイズンバットの赤い奴ばっかり!」


 遺跡でも最初に倒した敵のポイズンバットの大群でした。

 遺跡と違う点は全てが赤いということです。

 赤い奴はリーダーだと聞いています。


「リーダーばかりだとどうなるの?」

「そりゃもちろん、早く全部倒さないとドンドン援軍呼ばれるだろ」

「ええ!? やばくない!?」


 三人はボーッと突っ立っていますが、早くもピンチなのでは!?

 恐らく五十匹くらいはいると思うのですが、それを援軍を呼ばれないうちに倒すとなると大変です。


「全然。ほら、さっさとやれよ」

「え? まさかまた私一人!?」

「ああ、これくらい出来るようになっていなければ先が思いやられる。落ち着いてやってみろ。お前なら出来るはずだ」

「そうですよ、ステラ様。この程度で音を上げるようでしたら明日からのお食事は緊急強化メニューにしなければ……」

「私出来そう! 余裕だな-!」


 オリオンの言葉で素直に頑張ろうと思っていたのに……唐突な脅迫は酷い!

 私その内グレるかも!


「『翼がある魔物は、雷系の魔法に弱い』」

「え? う、うん。覚えていますよ、ええ」


 嘘です、すっかり忘れていました。

 リコちゃんが巡礼者戦で使っていた水の魔法を使おうとしていました。

 だってあれ、超格好良かったんだもん!

 でも、ここであれを使うと天井を突き破るか、天井が大丈夫だったとしても自分達が溺れそうです。

 オリオンが私の様子で瞬時に悟り、小姑のように注意してくれて良かったです。

 のんびりしている余裕はないので慌てて雷鳴の印を使いました。

 沢山居るので全力で、でも急いだからちょっと失敗かも……と思ったら。


「ひええええ!? あれ!?」


 雷の魔法を使ったのですが、遺跡の時とは様子が違いました。


「「「……」」」


 三人が顔を顰め、黙って私を見ています。

 私だって分からないからね!?


 依然と違ったこと。

 それは『威力』です。

 このだだっ広い空間の見渡す限りにバチバチと雷鳴が轟きました。

 私達の周りにも雷が充満して危険な香りがしました。


 そしてパラパラと雨のように落ちてくるポイズンバット。


「怖い……すっごいビリビリした!」


 ああ、吃驚した……怖い。

 大きな自然災害に襲われたような恐怖を感じました。


「お前、強くなってるな……ってかなりすぎだろ。巡礼者を倒したからその分強くなったんじゃない?」

「なんと!」


 レベルが低いときに後半のボスを倒して一気にレベルアップみたいな感じでしょうか。

 ここから私の伝説が始まるのですね! ふふふ……。


「馬鹿。自分の力に振り回されてるぞ。ほらみろ」

「え?」


 オリオンに言われて目を向けると、ポイズンバットが少し残っていました。

 あれ?


「あれだけの威力の魔法を使ってこれだけ残っているということは使いこなせていない証拠だ。ちゃんとコントロールしろ。制御で出来ない大きな力なんて災害と同じようなもんだ。迷惑だぞ」

「はい……」


 私は天狗になりそうだった鼻をへし折られた上に、その折れた鼻を投げつけられました。

 甘やかしてくれないこのチーム、大好きですよ、ええ。


 すっかり意気消沈しながら残りを始末しようとしていると、見慣れない個体を発見しました。

 形は一緒なのですが、色が真っ白です。

 ちょっと可愛いかも。


「見たこと無い色のがいる」

「あれがこの塔にしかいない変異種だな。ポイズンバット以外の比較的強い魔物を呼び寄せるから早く倒した方がいいぞ」

「早く言ってよ!」

「コントロール」

「分かってるよ!」


 小姑に再びちくりと刺されつつ、もう一度同じ魔法を使いました。

 すると今度はとってもミニマムでコンパクトサイズな雷がビリビリと落ちました。

 落ちるという程でもなかった……。

 テレビでよく見るサイエンス先生が静電気の実験で出していた電気と同じくらいです。

 もちろん敵は全く減りません……あ。


「なんかストーンワームが出てきた!」


 相変わらず悪寒の走る姿をしています、嫌だあ!

 早く駆除しなければ!


「雷は効かないぞ」

「ああああそうだった! もう! 手伝ってよ!」

「では、明日はスペシャル強化メニューを……」

「一人で頑張れそうだな-!」


 本当に誰も助けてくれません!

 誰か、鞭ばかりではなくたまには飴を! 今ください!

 そんな心の叫びは届くはずもなく……。


「どうやって進むんだ?」

「どこかに次の階層に進む扉か魔方陣があるはずだ」

「この辺りにはないようですね」

「皆さーん、私の頑張りに興味くらい持ってくださーい!」


 救いを求めて振り向いても、誰一人こちらを見ていないというこの仕打ち!

 そうか、それだけ私を信用してくれてるってことだよね、私頑張るぞ!

 あ、涙がっ。


「アル、頑張ろうね!」


 ここでアルにまで見放されたら号泣するところでしたが、聞こえてきた声は『ガンバロウ』でした。

 アル、大好き!

 もう突かれても文句は言いません!

 いくらでも頭を差し出します!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る