第6話 終焉
公太郎は暴れ狂った。廊下を走り回り、思う存分に剣を振るう。逆らう者は容赦なく切り捨てる。
病院はすぐにがれきの山となった。
炎を背にそこから歩み出て、公太郎は正面の道路を進んでいく。
「いい気分だ。今の僕には神すらも逆らえまい!」
歩きながら周囲を破壊して進んでいくと、そこにちっこい少女の姿をした神様が現れた。
「何をしているんですか! 世界を荒らすのを止めなさい!」
「神め、よくも僕の人生を弄んでくれたな!」
「逆恨みですか。ならば力づくで言うことを聞かせるしかありませんね! あうっ」
何かをしようとした神様の腕を、公太郎の背後から飛んできた白く輝く光線が貫いた。
「腐った神が。お前達の支配する世界では誰も幸せにはなれないんだよ」
厳しさを感じるその声に公太郎は振り返る。
そこにいたのは何か怒ったような顔をした妖精さんだった。そんな彼女に公太郎は穏やかに話しかけた。
「妖精さん、邪魔をしないでください。こいつは僕の獲物です」
妖精さんは少し渋るような顔をしていたが、すぐに納得して譲ってくれた。
「分かったわ。この世界はもうあなたの物。あなたの剣で自由にしなさい」
妖精さんは白い輝きに包まれて天に昇っていく。神様は悔しそうに公太郎を睨みつけた。
「こんなことがあなたの望みなのですか?」
「ああ、そうさ。僕は転生でチートの双剣の勇者公太郎だ。そうなれない世界なんてもう僕には必要ないんだ!」
「神の世界を拒むとは。後悔しますよ」
「しないさ。これからは僕が神として世界を動かしていくんだからな!」
公太郎は神を斬った。神は叫びもせずにその姿を消滅させていった。
「これからは僕が神だ!!」
天へと向かって勝利のおたけびを上げる。
その時、不意に世界が揺らぎ始めた。まるで電気を消したように一瞬にして活気が消え失せ、その色彩も色あせていく。
「何だ? ……これは何なんですか? 妖精さん!」
突然の異変に、公太郎は戸惑いとあせりを覚えながら周囲を見回し、そして天へと昇った妖精さんへ向かって叫んだ。
「神という支柱を失い、この世界の崩壊が始まったのよ」
白い光に包まれて高い空にありながら、妖精さんの声はすぐ近くで囁くように公太郎の耳に届いてきた。
「普通なら神が死んだ程度では世界は揺らがないものなんだけど、この世界はよほど深く神に依存していたのね。おかげでわたしは思ったよりも遥かに早く、わたしの目的を果たすことが出来る」
妖精さんを包む白い光から巨大な蝶のような羽が伸びていく。世界の全てを覆うように空一面に広がっていく。色合いを無くした世界がそこへ向かって吸い込まれていく。
舞い上がる風に耐えながら、公太郎は空へ向かって叫んだ。
「僕の世界はどうなるんですか!? 僕にこの世界を任せてくれるんじゃなかったんですか!?」
「この世界を吸収するわ。わたしが頼んだのはその足がかりのための世界の破壊だけのはずだけど」
「僕を騙したな! この……妖精さんがあ!!」
公太郎は空の白い光に向かって双剣を投げ上げた。しかし、それは彼女に届く前に砕け散り、世界の欠片とともに蝶の羽へと吸い込まれていった。
公太郎はさらに拳を握り飛び上がろうとする。だが、それは妖精さんの優しい声で押しとどめられた。
「あせらないで。わたしはあなたの夢も叶えてあげるから」
「僕の夢を?」
「わたしはこの世界のデータをもとに新たな世界を構築する。そこであなたを異世界でチートの転生した双剣の勇者にしてあげる。約束する」
「本当ですか?」
「ええ、わたしは神とは違う。わたしの世界は誰も不幸になんてしない。みんなが笑い合える世界を創造する、それがわたしの夢だから」
「妖精さん……」
安らかな優しさに満ちたその声に、公太郎は両手を広げて白い光を受け入れた。妖精さんの暖かさがその胸を満たしていくようだった。
公太郎の体が大地を離れ、天へと昇っていく。そして、公太郎は自らが破壊した世界とともに妖精さんの世界の一部となった。
全てが平和に包まれたその世界で、公太郎は望み通りの双剣の勇者として転生した。
そして、みんなが幸せに笑い合うその世界で、誰にも不幸に悲しまれることなくその生涯を終えた。
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