第18話 幕間 1


    ◆


「……これって」


 韋宇が声を詰まらせて僕を見る。


「ああ。もしかすると、な」

「ねえ、君達はこの女の人を知っているか?」


 美玖が急いで懐を探り、少年達に雪乃の写真を見せた。

 少年達は、首を縦に振った。


「やっぱり、この日記……かな。それは雪乃の――」

「いや、そう断定するのはまだ早い」


 僕の呟いた言葉を、美玖は否定する。どうして、と訊く前に彼女は、少年達にもう一つ問い掛けた。


「君達はこの女の人を――『知らないよね』?」


 得心がいった。

 今までの彼らの返答から、僕はてっきり、彼らは僕達が普段使用している言語が判っているものだと思い込んでいた。だが、日記に書いてある通りだとしたら、彼らは独自の言語を持っている、ということになる。それならば、僕達の言語を理解出来ないでただ頷いたという可能性もあるだろう。

 しかし、少年達は、首を『横』に振っていた。


「……そうか」


 美玖は額を押さえて眉間に皺を寄せる。


「これで、間違いはなくなったな」

「ああ。この子達、僕達の言葉が判るみたいだからね」

「……少しだけ」


 突然、僕が最初に話し掛けた、本を持っていた少年が、そう言葉を返した。


「オネエチャン……くれた、デス」


 少年は必死に身振り手振りで、雪乃が自分に言葉を教えてくれたということを僕達に伝える。


「オネエチャン――デス」

「そうなの。判ったよ。ありがとう」

「……エヘヘ」


 その少年の笑顔は、とても眩しかった。どうやら、感謝の言葉は判るらしい。それは判って『住んでいる』が判らないというのは、恐らく雪乃が教えた、もしくは使った単語が、この子達の聞くことが出来る言葉になっているのだろう。


「…………」


 服の袖を再び引っ張られた。どうやら、掛ける言葉は教わっていないらしい。


「ああ、ごめんね。どうしたの?」

「……アト」

「え?」

「アト」


 僕の持つ本を指差しながら、少年は同じ言葉を繰り返す。それが雪乃がいた『アト』なのだと言っているのだと最初は思ったが、本を捲る動作している所から、どうやらその本の続きを読め、ということらしい。

 僕は頷き、続きを読む。


 ここからは、日付がなかった。

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