第35話 混乱
天野岩。
彼が行方不明になっているという事実は少なからず衝撃を覚えさせられた。
僕の中で婚約者にもっとも近いと思われていた人物だった。
あくまで消去法だが。
韋宇と左韻は辞退、日土は言動から、森は逆に喋らな過ぎて候補とはならないと考えていた。
こんな事態になって一番、損をしている人物だろう。
だから一番狙われないと考えていたのが天野だったのだ。
その彼が行方不明となると色々混乱が生じる。
「え? じゃあ天野さんが次の犠牲者ってことっすか?」
左韻が疑問に対して真っ直ぐな回答をする。
最初に思う所はそうだろう。
だが、それ以外の考えもある。
「そうかもしれないし、もう一つ、左韻を狙う為に潜伏した、とも考えられるのよ」
「ああ、だからウチに来るって言ったんすね」
「護衛も含めて、ね。あたしらがどれだけ護衛になるかは不明だけど」
「あ、だからさっき伊南さんと、誰かいないか、って確認してたんすね」
「誰もついてきていないことを確認済みだよ」
そして今も周囲に怪しい人物は誰もいない。
警戒は左韻の家に着くまで怠るつもりはない。
そのまま幾分か時が過ぎ、駅を通り過ぎ、やがて目的の場所まで辿り着く。人の乗降が少ない路線と車両だったため、周囲への警戒は非常に楽に済んだ。
「さて、じゃあ早速左韻ん家に向かおうじゃないの」
「あ、やっぱり来るっすね」
「迷惑だったか?」
「いや、もうそういうの言っているレベルじゃないっすよ」
僕の質問に苦笑する左韻。まあ、そうだわな。
「とりあえずお茶でも飲みながら、お二人の推理を聞かせてくださいっす。俺も思う所があるっすから、合わせたいっす」
「左韻が?」
驚きの声を美玖が上げる。
「ええ。俺も少し考えてみたっすよ、この事件。だから聡明そうなお二人に聞きたいと思っていたんすよ。あ、なら俺の家まで護衛してもらうお礼に、ってことでどうっすか? お茶も付けるっすよ」
「いいねえ。あたしも気になっていたからな。お邪魔しようか。な、久羽?」
そんなノリで行くのかよ――と言おうと思ったが、止めた。
何故ならば、気が付いたからだ。
告げる美玖の目が、鋭く変化したことに。
「……だな。ここで一回整理するのもありだな」
「つーことでよろしく、左韻」
「了解したっす! ……ということで、早速で申し訳ないんですが」
先導していた左韻が、冷や汗を垂れ流しながら申し訳なさそうに振り向いて、こう言ってきた。
「出口を間違えたんで、ちょっと戻るっすよ」
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