第17話 犯人は韋宇

    ◆



 数分後に警察が到着し、検分が行われた。

その間に笑美は両親に電話をしたりなどと忙しい様子であったが、それ以外の人物はただ茫然と立っているだけだった。

 僕と美玖は死体を見た後に屋根の上に登る程に慣れてはいたけど、それでも今は呆然自失としていた。

 韋宇の姿が見えない。

 この意味を僕はまだ捉えきれていなかった。

 言葉を失っていた僕がハッと意識を戻したのは、とある人物に声を掛けられたからだった。


「あの……大丈夫かい?」

「あ、はい……って、あ」


 それは見知った顔だった。


「あの時の刑事さん。えっと……」

「茶毛だよ。久しぶりだね」


 茶毛飛鳥警部補。

 僕が以前に遭遇してしまった事件の際に知り合った人物だ。名前は非常に目立つがこの人自身に特徴はあまりない。だが、少し特殊な警部の下で働いているので印象に残っていた。


「お久しぶりです。刑事さんがいらっしゃるということは……」

「当然、並茎警部もいるよ」


 並茎紗枝警部。

 この人は見た目が特殊だ。

 何故ならば――


「飛鳥。あんた何を……って、ああ、またあなたたちなのですね」


 僕は視線を若干下へと向ける。

 並茎警部の容姿は小学生のように若い。だが当然立派な成人である。


「あたし達だって巻き込まれたくはないですよ、事件になんか」


 美玖が苦虫を噛み潰したような表情で答えると、並茎警部が申し訳なさそうな表情になる。


「そういう意味合いではなかったのですが……申し訳ありませんでした」

「ああ、いいですいいです。すみません。こっちもちょっと動揺してて言葉が足りませんでした」


 お互いに頭を下げて、気まずい空気が流れる。


「そ、そういえばあの少年はいないのですか? あの金髪の」


 話題を強引に逸らそうと飛鳥警部補がそう口にする。

 だがそれは愚策だ。

 話題が良くない方向にピンポイントだ。


「――飛鳥」


 すぐさま空気を悟ったであろう並茎警部は、鋭い声で彼の名を呼ぶ。


「現場に行って状況確認してきなさい。今すぐに」

「は、ハッ!」


 敬礼をして現場に急行する飛鳥警部補。その後ろ姿が見えなくなったあたりで、彼女は僕達に確認の意味を込めてだろう、問いを掛けてくる。


「私も少ししか話を聞いておりませんが……あの金髪の少年が行方不明だそうですね」

「……ええ」


 僕が答える。


「韋宇の奴は昨日の夜九時過ぎにはいたのですが、夜から朝にかけて行方が分からなくなっています。携帯も通じなくて……」

「それは……心配ですね」


 と、そこで並茎警部は他の刑事に呼ばれ、「では」とその場を後にする。


「……大人げないぞ、美玖」


 並茎警部が声が届かない範囲に行った所で、僕は美玖に苦言を呈す。


「さっきの言葉か? あれはすまん」

「そうじゃない。今だ」


 無表情を張り付けている彼女に告げる。


「状況だけ見れば、ああ思われてもしょうがないだろ」

「……久羽もそう思っているのか?」

「そう思っていると思っている?」


 美玖に問う。



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