第5話 敷地内の案内

「皆様にあらかじめ渡しておいた地図――伊南殿と葦金殿には後にきちんとお渡しいたしますが、その地図を見ていただければお判りいただけると思いますが、この本館から各コテージに向かう道は一本道で、一つ道を間違えると迷ってしまう恐れがあります。故に、全員で廻ろうと考えております。それのついでと言っては何ですが、皆様のコテージも、そこで決めようと考えておりますので、お手数ですがお荷物をお持ちになって下さい」


 そう言って笑美は先導して玄関を出た。皆も指示に従ってそれに付いて行く。因みにほとんどが手下げの旅行鞄のような簡易的な持ち物だったが、一人だけ、森だけは他のモノよりも一回り大きい荷物だった。重苦しい金属音がしていたから、トレーニンググッズでも入っているのであろう。

 玄関を出て左の方へと笑美の後を付いて歩いていると、すぐに二つの別れ道と鉢合った。


「ここから右へ行っても左に行っても、先で繋がっているのであまり関係ありませんが、ここは左に行きます」


 その通りに進むと、またもや二つの別れ道。


「ここは先程とは違い、右に進んだ場合はコテージに辿り着きます。故にここでどなたか宿泊していただきます」

「はいはーい。じゃあ、俺でいいっすか?」

「轟殿ですか。了解しました」

「んじゃ、荷物置きに行ってきまーす」


 韋宇がすぐさま挙手し、走って右奥に行ってしまった。

 僕達はその場でしばらく待機。


「……あれ? 遅くない? 迷っているんじゃないの?」


 待ちきれなくなったのか、日土の訊ねに、笑美は「うむ」と返す。


「こちらの先の道にはコテージしかありませんから大丈夫です。それに、ここからコテージまでは往復で一五分以上掛かりますので、もうしばらくお待ちを……」

「お待たせしやしたー」

「なっ……」


 突然の韋宇の登場に笑美は絶句した。その横で韋宇はどうしたのと呑気な表情。


「ん? どうしたんだい?」

「貴殿は……コテージまで行かれたのか?」

「うん? そうだけど」

「信じられぬ……体感だが、未だ一〇分くらいしか経っていぬのに……」

「……なあ美玖。どうして笑美さんはこんなにも驚いているんだ?」

「お前が、一五分以上掛かる道を一〇分で戻って来たからだそうだ」

「ああ。走ったからな。ほら、汗掻いているだろ? いやー疲れた」

「うぬ……そ、それなら仕方なし、か……」


 そういう問題ではなさそうだが、笑美は二つ頷いて無理矢理納得させたようで、「それでは次に向かいましょう」と歩みを再開させた。


 その後は道なりに進んで行き、その途中の左への分かれ道――コテージへと繋がる道の度にそこに泊まる人達を選定するということを繰り返して、本館の前まで戻ってきた。因みに順番に、美玖、僕、天野さん、森さん、日土であり、左韻だけは本館を挟んで逆の方向のコテージらしい。本館を中心として正門を下と考えて具体的に時計のように見立てると、左韻のコテージは十時の方向であり、洲那さんのコテージは七時、笑美のコテージは十二時、真上の方向にあるという。この表現だと僕達のコテージは大体二時か五時くらいの間に散在しているということになる。


 その左韻のコテージに向かう道への別れ道に差し掛かる直前で、僕は気になったことがあったので笑美に訊ねる。


「あの……さっき左手に何か細い道があったのですが、そこにもコテージがあるのですか?」


 時計で差すと九時の方向に道があったのだが、そこには誰が泊まるなどの問い掛けは無かった。


「いいえ。コテージは偶然にもちょうど今日来ている人物と同数しかありません。あの道の先にはコテージはありません。あるのは、ただの水車小屋です」

「水車小屋?」

「ええ。一応このコテージ群――私の父の所有物であって、一般開放はしていないのですが、それでも、この場所には電気が通っております。しかし万が一の場合を想定して、微弱ながらも水力発電を行っております。この先には川が流れておりまして、それを利用しているのです」

「そうなんですか」


 停電の時も安心ということか。しかし、水車で賄える電力など微々たるものだろうから、恐らく全コテージにソーラーパネルでも設置してあるのだろう。そのように対策を施しているのに、個人使用だけとはもったいない話である。

 そして、一つだけ気が付いたことがある。

 僕は地図を持っていないし、韋宇の持っていたものもあまり見ていなかったのだが、水車も含めた全ての配置を大体把握した瞬間に唐突に閃いた。


 、《《コテージが横に伸びた形の

円》》――のだ。


 もっとも、本館を除いての話なのだが。

 しかし、意図的とも言える構図なのに、どうして円ではなく楕円で、しかも一つだけその場所を欠いているのだろうか。そして、その欠けている場所が本館で、中心点が韋宇のコテージなのだろうか。それら疑問を美玖に訊ねてみると、


「ちょうどあたし達が泊まるコテージが、後から作られたからじゃないの?」


 あっさりと納得出来る答えを提示してきた。

 確かに、右側の部分で韋宇のコテージ以外を排除して考えると、綺麗な楕円形になりそうだ。となると、どうして追加したのかという新たな疑問が沸くが、きっと利用者が増えたのだろう。一般には開放していないらしいから、身内の利用者、ということになるのだろうけれど。

 そこまで考えた所で左韻が戻ってきた。


 これで全ての建物を廻ったらしく、僕達は本館へと戻る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る