第7話 円卓の騎士


「ミルフィリア様。勝手に飛び出して行ったベルカーンの馬鹿ですが、例の地にて暗黒神と交戦し、敗北。完全に死亡したようです」

「……完全に? 魂でもやられたの?」

「はい。あまりにも桁外れすぎるエネルギーが放出されたため、しっかりと確認が取れたわけではありませんが……。暗黒神と噂のアナザーとかいう神が合体し、その余波で魂ごと崩れて消え去った、と」

「合体……そう。わかったわ」


 世界各地の秘境という秘境に私の分身を飛ばし、十三魔神将を全員復活させたまでは良かったのだけど……。

 魔神将の一角であるベルカーンが、突然私の前に現れて、唐突に忠誠を誓われて、そしてそのまま慌ただしくフィオグリフの元へと飛んでいった。で、見事返り討ちにされた挙げ句、魂ごと消されて死んじゃいましたと。そういうわけか。ふざけてるわね、くそったれめ。


 それより問題は、フィオグリフとアナザーが合体したっていう事ね。しかも直接攻撃したわけでもなく、顕現しただけでベルカーンを消したとなると……。


『あの化け物はいったいどこまで強ぅなる気なんじゃ。敵対しているこちらの身にもなってほしいわい』


 まったくもってあなたの言う通りね、ヴァニティアリス。

 これじゃあ、他の魔神将を直接ぶつけても意味が無いか。それだけではなくて、私自身も更にパワーアップしないとお話にもならなそう。さて、どうしたものかしら。


 まぁ……焦ることもないか。


「フォンデルバル」

「はっ!」

「あなたを含めた、その身に十三魔神将たちを宿した“円卓の騎士”全員に通達します。現段階で暗黒神との直接対決は無謀極まりないと判断。件の闇王国ダークキングダムに接近する事は避け、外堀から攻略していきなさい。当然、万が一暗黒神と遭遇した場合は迷わず逃走する事。いいわね」

「は……はっ! 承知しました!」

「それじゃ、さっさと任務に戻りなさい。私は私で少し考え事をしなくちゃいけないから」

「畏まりました。それでは、失礼いたします」

「ええ」


 丁寧に一礼して去っていくフォンデルバルの背中を眺め、一人になった事を確認してふっとため息を吐く。

 ここまではトントン拍子にこちらの計画通り進んでこれたけれど、魔神将の一角があっさりと消された以上は慎重にならざるを得ないわね。


 できればフィオグリフかグローリアのどちらかを早々に始末して、片方に集中したかったのだけど、この分では無理そうかしら? 神域への道もまだ閉じたままだし、私に逆らう国々やハンターズオフィスの連中も放っておくわけにはいかないし。


『円卓の騎士を使ってどこかの国でも滅ぼせば大人しくなるんじゃないか?』

「そう上手くはいかないわよ。逆に一致団結されて、保護するべきヒューマンたちを間違って殺しちゃったら困るし。どうしても時間はかかるわ」

『むー。そんな悠長な事を言っていたら、暗黒神がどう動いてくるかわかったものではないだろう?』

「その点に関しては大丈夫。別に彼は正義のヒーローでもないし、世界を飛び回って平和のために戦う……なんて事にはならないから。精々縁がある国とか街を助けるぐらいだと思うわよ?」

『……そうかの?』

「そうよ」

『ふーむ』


 どちらかと言うと、アナザーの影響をフィオグリフがどのような形で受けてしまうのかってあたりが問題なのよね。積極的に魔神を滅ぼしていく方針とかになってしまうと、フォンデルバルたちがかなり動きにくくなってしまうし、場合によってはベルカーンの二の舞になる事だって有りうる。


 できる限り戦力の無駄な消耗は避けたいし、駒が少なくなると私がまた馬車馬のごとく働くハメになる。

 やっぱり切り札の一枚や二枚は追加で欲しいわね。フィオグリフを、あるいはアナザーを抑え込めるぐらいの、切り札が。まぁ、合体したらしいけど、どうせ分離して普通に活動できるんでしょうしね。その辺はまだ情報が足りないかしら。


『じゃがまぁ、あちらもフィオグリフとアナザーが突出して強いだけじゃからな。魔王どもも居るとはいえ、戦力の質ではこちらが上じゃろ』

「その質の最大値の差が問題なのよ。こっちの最高戦力は私だけしかいない上に、強さではまだまだフィオグリフには及ばない。アナザーだって、恐らく今の私より強いでしょうし。あなたの身体でも探す?」

『それもいいかもしれんがの。そんじょそこらの肉体ではどうにもならんぞ』

「わかってるわよ。少なくとも現代人ではダメだと思うわ」

『そうじゃなぁ。今の人間どもは揃いも揃って虚弱じゃからの。かといって転生者の身体なんてのもお断りじゃぞ?』

「注文の多いやつね……」

『す、すまぬ』


 ヴァニティアリスの無茶振りを聞いて、私は再び大きなため息を吐いた。

 転生者なんてのは私もお断りだけれど、そうなると途端に見つけるのが困難になる事は間違いない。だって、現代人は弱いもの。


「…………」


 現代人もダメ、転生者もダメ、しかも中途半端な身体じゃ意味が無い。

 適当な勇者でも蘇らせて使うか? いや、それでも戦力になるかどうか……。


 一応、候補がないわけではないけど、ね。


「心当たりがあるわ。間違いなく抵抗されるでしょうけど、あなた用の身体を奪いに行きましょうか」

『ぬ? どこの誰じゃ?』

「それは秘密よ。事前にバラしたら詰まらないじゃない。ただ、人間ではないとだけ言っておくわ。できれば人間の身体の方が良かったのだけど、そうも言っていられないしね」

『ふ、ふむ? まぁ、お主が言うなら間違いはないのじゃろうな。よかろう、付き合ってやる』

「ええ」


 さて。

 それじゃ、行きましょうか。


 忘れられた古の都へ……。

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