第2話 私暗黒神さん、今あなたの頭上にいるの
どこぞの赤ツインテールというイレギュラーこそ在ったものの、無事にフィリルと合流し、ついでにグリモワールとかいう若造も倒したわけだが、何とまぁ困ったことが起きた。
ウーズの奴が普通に私の事を「暗黒神」と呼んでくれたため、クリスに私の正体がバレたのだ。いや、別に隠していたわけでもないし、いいっちゃいいのだが。
問題は……。
「…………」
「見てみてぇ、クリスちゃん。景色がすっごい速度で流れていくわよぉ? 面白いわねぇ」
「…………」
「この分だと、目的地までそう時間はかからなそうねぇ」
「…………」
「…………」
これだ。
今もまさにニクスが一生懸命クリスに話しかけているのだが、余程私が暗黒神だったという事が衝撃的だったのか、クリスの奴が無口キャラになってしまったのだ。
あ、そうそう。
ちなみに今は私が巨大な竜に変身して、プルミエディアが囚われているという
正体がバレたとなれば、遠慮なく力をふるわせてもらうさ。ただでさえ急いでいるのだし。
「…………」
「全く、鬱陶しい。いつまでだんまりを決め込んでいるつもりですか。そんな風に固まっていたら、邪魔なのですが」
「レ、レラちゃん! クリスさんは結構な間、ご主人さまと一緒に行動していたわけですし、その分ショックだったんですよ! きっと」
「……うーむ。黙っていた事は謝るが、別に私が何をしたわけでもあるまい? 急に態度を変えられると、若干傷付くのだがな、クリスよ」
「…………! フィ、フィオグリフ……様……」
「やめんか。いつも通り呼び捨てで構わん」
「は、はい……いや、えっと、うん……」
むむぅ。なんだか調子が狂うな。ちょっと前までなら、流れ行く景色を眺めて、わーきゃー騒いでいただろうに。そんなセンチメンタルな姿など似合わんぞ、クリス。
「うーん、申し訳ないことをしたな……」
「何言ってんのさ。一緒に行動し続けていれば、遠からずフィオグリフ様の正体を知ることになるのは不変の事実でしょー。隠し通せるわけないし、そもそも肝心のフィオグリフ様が隠そうとしてないし」
「しかし、メビウス嬢……」
「しかしもおかしもありませーん。だから、ウーズのボーヤが気にすること無いって。大体、そんなにフィオグリフ様と居たくないならさっさと消えればいいじゃん」
クリスが私の正体を知る原因を作ったウーズも、ユグドラの大森林を出てからずっとこんな調子で悩み続けている。それに延々と付き合わされてきたメビウスは、流石に飽きたのだろう、かなり辛辣だ。
しかし、そんなメビウスに対し、だんまりを決め込んでいたクリスが反応する。
「い、嫌! わたし、フィオグリフが嫌いになったわけじゃないもん!」
「……ふーん?」
「クリスちゃん……」
ふむ、そうなのか。
世間での私の評判は最悪だからな。無論、ハンターとしてではなく、暗黒神としての評判だぞ。
クリスも当然、私の事を嫌いになったのだとばかり思っていたが、そういうわけでもないのか。意外だな。
「ご、ごめんなさい。ただ、ちょっとビックリすぎたというか、衝撃の真実というか……まさか、あの暗黒神と一緒に居ただなんて、微塵も思っていなかったから……」
「耳元で急に騒ぐな。結構うるさいぞ」
「ご、ごめんなさい……」
どうやら少し混乱していただけらしい。要するに、頭の中を整理する事に集中しすぎて、会話に参加する余裕が無かったという事だろうか。
しかしまぁ、フィリルも当初はエラく混乱していたし、一度は私達と別れた程だからな。そのまま私の元に留まり続けたレラが異常なだけで、普通の人間ならば大なり小なり混乱はするか。
うむ。我々の方が少々考え足らずだったな。
「そっか。そうだった、そうだった。そう言えばクリスはフツーの人間なんだもんね。強さは全然フツーじゃないけど。そりゃ、フィオグリフ様の正体を知れば動揺はするかー。こりゃ、アタシ達が短気すぎたな」
「言われてみれば、確かにね。レラちゃんやフィリルちゃんは前から暗黒神様……いや、フィオグリフ様の従者をやっているわけだし、僕とメビウス嬢は魔王だ。ニクス嬢に至っては別世界の神ときてる。ごくごく普通の、まともな人間はクリスちゃんしかいないんだったね、このパーティーって」
「失礼な。フィリルはともかく、私は至って普通の健常なエルフ。変人扱いされては困る」
「いやぁ、レラちゃんは充分変人だと思いますよ~? むしろ、私が変人扱いされた事に対して猛烈に抗議したいです~」
「いい度胸ね、フィリル」
「……あはっ」
このままクリスが離れていくかと思ったが、そんな事は無かったな。クリスの仲間が見つかればどうなるかわからんが、とりあえずしばらくは共に旅をする日々が続きそうだ。
考えてみれば、全世界を見ても、これほど異様なパーティーはあるまいな。レラとフィリルが変人かどうかはさておき、ここまで人外が揃った面子など、そうそう居てたまるか。
そうこうしている内に、ようやく目的地が見えてきた。
間違いなくあの奇妙な街の辺りから、プルミエディアの霊力が漂ってきている。
あれが、
……だが、どういう事だ?
「メビウス」
「はいよー。随分と随分な霊力が揃ってますねー」
「ジョーカーのクソ野郎にアーキ翁、ニャルラトゥス嬢にヴィシャス嬢、リンドにアスガルテ……。死んだグリモワールを除き、魔王が勢揃いしているようですね」
「魔王って言うとぉ、メビウスちゃんやウーズちゃんみたいな、魔物の頂点なのよねぇ? それが一国家に集結するなんて事、有り得るのぉ?」
「いいや、有り得ないな。つまり、
メビウスとウーズも感じているということは、私の勘違いなどではないな。
訳が分からんぞ? 何故、国ごときに魔王どもが集まっている? ついでに言うと、リンドとアシュリーの奴まで、私との合流を差し置いてまで……。
むむむ……。
やはり、プルミエディアを後回しにしたのは失敗だったか? だが、リンドとアシュリーが居るのならば、彼女を手荒に扱う愚行は犯さない、か。
さて、どうするか……。
と、その時。
「ご主人様」
「何だ、レラよ」
「プルミエディアさんの霊力が、すぐ下に現れました。脱走してきたのでしょうか?」
「何? ……ふむ、確かに」
……いや、待て。
おかしくはないか?
つい先程、確かにプルミエディアの霊力はあの街の中に感じられた。
だが、今はレラが気付いた通り、飛行している私のちょうど真下に感じる事が出来る。
プルミエディアが、あのプルミエディアが、果たして空間転移に類する業を扱えるだろうか? いや、無理だ。
罠か? 一応、警戒しておく必要がある。もしもプルミエディアを騙る不届き者であるならば、塵も残さず滅してやろう。
「総員、戦闘準備をしておけ。考えてみれば、あのプルミエディアが突然真下に出現するなど、有り得ない。何者かが手引きしているはずだからな」
「……成程、確かに。申し訳ありません、ご主人様の仰る通りです」
「聞いた限りでは、プルミエディアちゃんはただの人間なんだもんねー。それが、急に空間転移なんて高度な真似できるわけないか。あのミリーナ・ラヴクロイツでさえ、時空聖剣無しじゃ下手くそなのに」
「罠の可能性がある。そういう事ですね、フィオグリフ様」
「なるほどなるほどぉ? なんだか盛り上がってきたじゃなぁい」
「……この霊力、もしかして……? ううん、でもまさか……」
空間転移とは、実はかなりの高等霊術なのだ。それを無制限に使える、ミリーナの時空聖剣ラグナロクは、本来人間が扱いきれる代物ではない。
実際、凄まじい才能を持つミリーナでさえ、使いこなせてはいなかったからな。ミルフィリアは……まぁアレは人間の域を超えているからノーカウントだ。
背に乗る仲間達がそれぞれの武器を構えた事を確認し、私はゆっくりと地上に降りていく。
ちなみに、メビウスは素手で、ウーズは槍を、ニクスは剣を、それぞれ得物としている。
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