第3話 プルミエディア、出会う
名前も知らない街並みを、念のために警戒しながら歩いていく。何があるかわからないし、必ずしも治安が良いとは限らないからね。
「うン。ワガハイの仮面のせいかナ、人目を集めテしまっているみたいダ」
「わかってんなら外しなさいよ」
「恥ずかしいじゃないカ。それニ、キミもその服装がかなり目立っているダロ。どこぞの貴族令嬢じゃあるまいシ」
「嫌よ。ゴスロリファッションはあたしのアイデンティティなの。これを着なくなったら、フィオグリフにも、あたしをあたしと認識されなくなる自信があるわ」
「何故そんなダメな方には前向きなんだイ?」
「……こういう性分なのよ」
「ならワガハイの仮面だって、ワガハイのアイデンティティだ。よっぽどの事態じゃない限りは外さないヨ」
「この話は終わりにしましょうか。あまりにも不毛すぎるわ」
「違いなイ」
そんな会話をしながら、ハンターズオフィスを探しているのだけど……。
「しっかし、無いわねえ」
「そうだネェ。普通、これだけ歩けバ嫌でも目につく場所にあるものだガ……」
見つからない。ハンターズオフィスが、全っ然、見つからないのよっ!! どうなってんのよ、この街はっ!?
どれだけ歩き回っていても見つからないところから考えるに、もしかしたらかなり規模の小さいオフィスなのかもしれない。となると、誰かに聞いた方が手っ取り早いわね。幸い、ハンターっぽい格好の人たちはそこら中を歩いているし、この街。
「すいません」
「はい? なんでしょう」
意を決し、割と人が良さそうな、優しい顔つきをした男の人に声をかけてみた。
尚、シャヴィも同じ事を考えたらしく、あたしからは少し離れた所で、厳つい顔のおじさんに話しかけていた。さすが龍王、度胸あるわねー……。
「ハンターズオフィスを探しているのですが、なかなか見つからなくて。どこにあるかご存知ですか?」
「ああ、なるほど。となるとあなた方はこの国は初めてなのですね」
「え? え、ええ。そうですけど」
「でしたら無理もありませんね。この国のオフィスは異様に見つけにくいというか、コツを掴まないと全くたどり着けませんから」
たはは、と苦笑いをしながら、彼はそう答えた。
見つけにくい、か。なんでそんな事になってるんだろう? そんなの、万に一つもメリットなんてないはず……。
「道化の指先がさす方向とは逆に向かってみてください。そうすれば、道は開けるはずです。ほら、ちょうどあそこにあるでしょう? 人をあざ笑うかのような、ピエロの絵が」
「……本当だ」
男性の指す方に目を遣ると、確かに腹立つ表情を浮かべたピエロの絵があり、それは両手の人差し指で左を指していた。とすると、あそこから右側に行けばいいってわけね。
よし。
「教えてくれてありがとう。あの、お名前は?」
「ああ、そうですね。何かありましたら、私の……〈フィアーカ〉という名を出してみてください。必ず助けになるはずです」
「フィアーカさん、ですね。わかりました、しっかり覚えておきます」
偶然だけど、とても親切な人に出会えた。名前を出すように言ったってことは、もしかしたらかなり偉い人なのかもしれないわね。
そして、フィアーカさんは優しい笑みを浮かべ、こう告げて去っていった。
「ええ。それでは、シャヴィによろしくお伝えください」
「えっ?」
どうして、シャヴィの名前が? だって、彼女は今遠くにいるのに。
おかしい。もしかして、知り合いだった? でも、あたしが彼女と同行しているなんてこと、偶然ここを通りかかっただけのフィアーカさんが、わかるはずが……。
…………。
「プルルン。おい、プルルンってバ!」
「あっ、えっ? な、なに?」
「どしたノ? ぼーっとしテ」
「い、いや。あの、シャヴィ?」
「ン?」
「フィアーカって人に心当たりは? 今、その人にオフィスへの行き方を教わっていたんだけど、彼、最後に“シャヴィによろしくお伝えください”って言っていたのよ」
立って考え込んでいたあたしに気付いて、シャヴィが駆け寄ってきたらしい。ちょうどいいので、フィアーカさんの事を話してみた。
だけど──。
「……知らない名ダ。何故ワガハイの事を? いや、何故ワガハイがキミと一緒にいる事を知っているんダ、そのフィアーカってヤツは」
「知ら、ない、の?」
「うン。こりゃ、着いて早々怪しいヤツに目を付けられたっぽいネ」
「…………」
途端に、あの優しい笑みがこの上なく不気味に思えてきた。
どういうこと? あの人、何者なの?
「……とりあえず、言われタとおりに、道化の指先に逆らってみようじゃないカ。もしオフィスに着いたラ、早速フィアーカってヤツの事を聞いてみよウ」
「う、うん」
ピエロの絵を仮面越しに睨みながら、シャヴィは強い口調でそう言った。
何故か、あの腹が立つピエロの笑い顔が、フィアーカさんの優しい笑顔に重なって見える。
あたしは、いったい誰に目を付けられたというのだろう……?
◆
結論から言うと、確かにオフィスへとたどり着いた。それはもう、思わずため息を吐いてしまうぐらいあっさりと。
「着いたネ」
「ええ、そうね。小さいけど」
「っていうカ、〈冒険者ギルド〉っていう文字がちっさく書いてあるネ。元は別の組織が使っていたのかモ」
「聞いたこと無いわね」
「だネ。ますまス、この国が異世界から来た可能性が高まったヨ」
「そう?」
「冒険者ギルドってのハ、とある異世界に存在する、ハンターみたいな連中……〈冒険者〉を支援する組織なんダ」
「そうなの!?」
「うン。じゃ、とりあえず入ろうカ」
ほ、本当に、異世界から……?
シャヴィの言葉に驚きつつ、あたしは小さな建物……この街のオフィスに足を踏み入れた。
中は、普通だった。特に何の変哲もなく、ごく一般的なハンターズオフィスだ。なんだか、ちょっと拍子抜けしちゃった。
「ようこそ、ハンターズオフィス ズィーゲンブルク支部へ! また、当支部は冒険者ギルドも兼ねております!」
「どうモ。早速聞きたいことがあるんだガ、フィアーカっていう人は何者ナノ? ワガハイたちは、彼に道を教わって来たんダ」
歩きながらオフィスを見回していると、いつの間にかカウンターまで来ていたらしい。明るい挨拶をしてくれた受付嬢に、シャヴィがズバッと質問していた。
そして、フィアーカさんの名を聞いた受付嬢は……。
「……なるほど、彼の目に留まったということは、あなた方、相当の腕利きですね?」
「何者なのかト聞いているんだガ」
「こちらから特別な依頼を斡旋しますので、そちらをクリアしてください。その時には、質問にもお答えしますし、そちらのご要望にもできる限り応対いたします」
「ふム」
明らかに雰囲気が変わった。それに、受付嬢の口振りでは、まるでフィアーカさんがあたしたちを選んだかのように受け取れる。
やっぱり、何かある。あの人はただものじゃないってわけね……。
こっちの要望は、フィオグリフが今どこにいるのか。それに、レラちゃんたちの行方も気になる。オフィスからの依頼、受けるしかないわね。
「プルルン、どうすル?」
「まずは依頼の内容を説明してもらおうじゃない。どう考えても無理だっていうのなら、受けるわけにもいかないし」
「アハハ、そう来なくちゃネ。ま、大概の依頼はこなせるはずサ」
「心強いわね。頼りにしてるわよ」
「ワガハイこそ、キミを頼りにしているヨ。もう充分強くなったしネ」
「えへへ、ありがと」
シャヴィからの期待にちょっと感激しつつ、あたしは依頼の詳細を聞くことにした。
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