第13話 暗黒神vs吸血王!
私が殺した者たちの骸が無造作に転がり、山のように積まれ、溶岩が噴き出し、黒い大地を赤く染めている。
「ようこそ、吸血王。歓迎しよう」
「……相変わらず、趣味のわりぃ異空間だぜ」
「クックック……」
少々遠く離れた場所に立つ客に、仰々しく語りかけた。だが、その反応はあまりよろしくない。いちいち模様替えするのも面倒だし、私の異空間など、これでいいのだよ。
「さぁ、早速始めようじゃないか」
「ああ、行くぜ」
「来い。この空間を破壊する勢いでな」
「へっ」
娘の命がかかっているからか、ヤツの表情は真剣そのものだ。子を持つのは良いことだが、こうして弱点になってしまうのは難点だな。
おっと。リミットを全て外しておかねば。
「ッ!! な、なんつープレッシャーだ……! チビっちまいそうだぜ……」
「臆するなよ。すぐに殺してしまうぞ?」
「……!」
凄まじい勢いで噴き出す暗黒を見て、少し怖じ気づいたようだが、すぐに持ち直した。
そうだ、そうこなくてはな。戦いとは、魂と魂のぶつかり合いだ。
「オラァアアァッ!!」
「ふっ」
凄まじい量の霊力を一瞬で練り上げ、双剣に宿し、斬撃を放つ。Xの字型に光るそれは、一直線に私の元へと飛んできた。
しかし、難なく素手で握り潰した。
「こんなものか」
あまりにも呆気ない攻撃に、ため息を吐く。やはり、これでは“お願い”を聞く事などできないな。
「おや」
しかし、奴がいた方向に向き直ると、その姿が消えていた。なるほどな、今のは囮か。
「《クロスエングレイブ》!」
「惜しいな」
頭上から現れ、双剣の一撃を叩き込んでくる、リンド。しかし、やはりそれも片手で防いだ。狙いは良かったのだが。
「まだまだァ! 《ヘルバースト》!」
「お……」
私の手と触れている双剣が輝き、大爆発が起きた。骸骨の山が吹き飛び、溶岩が消え去る。そして、天高く、キノコ雲が立ち上った。
ふむふむ、ゼロ距離での超高温爆破霊術か。オーバーデッドならではの戦法だな。他の生物が真似をしたら、ただの自殺行為でしかない。
まぁ、私には効かないがね。
鬱陶しいので、急激に上昇した温度を元に戻しておく。溶岩が噴き出しているのだから、空間内は元々暑いのではないか? と思うかも知れないが、実は霊術による気温調整がなされていて、とても快適に過ごせるのだ。それを無理矢理蒸し風呂にされてはたまらん。
「……無傷かよ、デタラメ野郎め……」
「私を誰だと思っているのだ」
「暗黒神様でしたねェ。マジで、勝てる気がしねえわ」
「なんだ、もう諦めるのか」
「まさか。俺にも、絶対に譲れねェもんがあらぁ」
「ふん」
まったく、ミリーナじゃあるまいし。無闇矢鱈と破壊してくれるなよ。こういう激しい戦闘に備えて作った異空間とはいえ、ボロボロになっていく様子を見るのは、好きではない。
犯人がミリーナならば話は別だが、生憎彼女以外の者相手には、そんな慈悲など持ち合わせておらん。
「まったく、あんたに弱点ってもんはねぇのか、よッ!」
「おっと」
地を蹴り、消えるように移動する姿が見えた。奴を迎撃すべく、大剣を振るう。
双剣と大剣が衝突し、激しい鍔迫り合いを繰り広げる結果になった。
「ああああァッ!」
「力で私に敵うものか」
「うわっ!?」
だが、本気を出している今の私に、鍔迫り合いを挑んでも全くの無意味だ。呆気なく競り勝ち、奴の身体を蹴り飛ばしてやった。
そして、更に追撃する。
「《カラミティ・アフェイタル》」
「うぐっ!」
暗黒が巨大なアギトの形をとり、リンドの右足を食いちぎった。続いて左足を。続いて右腕を。続いて左腕を。胃を。腸を。心臓を。
「ぐ、ぐぅぅぅ……いってぇ……」
「ふん。やはりこの程度では死なんか」
「オーバーデッドだからなァ。でも、すっげぇ痛いんだぜ?」
「知るか。貴様がアシュリーに呪いをかけた罪は、まだまだ消えんぞ」
「お優しいこって」
頭を残してあるだけありがたく思うんだな。それに、まだまだ“お願い”を聞き届けるには程遠いぞ。もっと足掻け。
「さぁ、足を再生して立ち上がれ。腕を再生して足掻いて見せろ。これで終わりではないだろう?」
「わかってらァ! 意地でも、娘を助けてもらうからなッ!!」
「それは、貴様次第だ」
「おうよ!」
先ほどよりも更に濃い霊力が、再生した奴の右腕に宿っていくのが見える。一点に圧縮し、威力を高めようということだな。
「小細工を……」
「やれることは全てやってやるさ! 行くぜオラァアァ! 《ブラッドバスター》!!」
血のように真っ赤な霊力の塊が、光の矢となって顕現した。それが無数に生み出され、次々に私へと襲いかかってくる。
ククク。いいだろう、受けてやるとも。
貴様の足掻きを。
「まだまだまだまだァ!! 届けッ! 届きやがれェェェ!!」
「……柔いな。柔すぎる」
「……!」
効かぬ。まるで効かぬな。必死なのは伝わってくるが、それだけだ。
くだらん。そろそろ終わりにするか。
「失せろ、吸血王」
「……! ま、待ってくれ! 娘は!? 俺の娘は、どうなる!?」
「私の知ったことではない。あの世で仲良く暮らすと良いさ」
真紅の矢を全て吹き飛ばし、大剣を構えて告げた。
そして、ようやく、吸血王が吠える。
「そんなわけに、いくかよォッ!! あいつには、何の罪もねぇんだ! 俺はどうなったっていい! だが、娘は! 娘だけは! 絶対に、死なせねえッ!!」
「…………」
「そうだ。後なんてねェんだ。何を躊躇してやがる、俺。この石頭野郎に、教えてやろうじゃねェか……!!」
これまでとは比べものにならない、莫大な霊力が集まっていく。この異空間全てを、覆い尽くすほどだ。これは期待できるな。
「受けてみやがれ、暗黒神!! これが、この一撃がッ! 俺の、全てだァ!!」
奴の双剣が輝き、真紅のオーラを身体から放ちながら、極大の斬撃が放たれた。
私は、笑ってそれを受け止める。これを防ぐなど、とんでもない。奴の想いを乗せた全身全霊の一撃なのだ。身体で受け止めず、なんとする。
斬撃の威力は凄まじく、衝撃波が異空間中を駆け抜けた……。
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