第11話 初代勇者、レッツパーリィ
山の中を黙々と歩く、二人。私とミリーナだ。向かう先は、リンドの軍勢。プルミエディアたちと合流するより、とっとと敵を倒してしまった方が早いだろう、という結論に達したのだ。
「近いな」
「うん」
接近を気取られぬように、力を抑える。ミリーナはフードを深くかぶり、私は全てのリミットをかけている。まぁ、こうしていてもバレそうな気はするがな。気分だ、気分。
更に歩き続け、奴らの気配が漂う場所へとたどり着いた。
「ふむ」
「オーバーデッドが、十人もいる。なんか、このままこの国ごと滅ぼせそうな勢いだね」
「ああ。リンドの奴、本気なのか……」
「そんなに信じられないの?」
「正直なところな。あれほど私と気の合う男は珍しいよ」
「へぇ~……」
岩肌が剥き出しになった山中に、簡易的な陣を敷いて駐留している、リンドの軍勢。吸血鬼たちが並ぶその奥には、明らかに周りより強い霊力を持つ者が十人。全て、リアやミリーナと同じ、オーバーデッドだ。
そして、最奥部に座る男こそが、私の、かつての弟子。
吸血王リンド。
「どうするの?」
「リンドとサシで話がしたい。無論、アシュリーを苦しめた礼はたっぷりとさせてもらうが、その前に、奴の言い分を聞きたいのだ」
「わかった。じゃあ、吸血王以外のヤツは全部わたしが倒しておくね」
「ああ、頼んだ。無理だと思ったら私の傍に避難してこい」
「大丈夫だよ~。まったく、心配性なんだから。フィオはここで待ってて! ちょいとひとっ走り行ってくる~」
「……う、うむ」
やぁやぁ、我こそは初代勇者、ミリーナ・ラヴクロイツである! 腕に覚えがあるのならば、かかってこ~い! と叫びながら、友人は突っ込んでいく。あいつの脳内には、突撃の二文字しか無いのだろうか?
少なくない不安を抱きながら、その様子をじっと見つめることにした。勝手に助太刀したら怒りそうだしな。
奴らの数は……3000ほどか? アシュリーが相当数殲滅したはずだし、これで全員か。もしも別働隊がいたら、少々厄介だな……。
◆
「へいへいへ~い! ウォーリアビビってるぅ~!」
「ぐ、ぐぬぬ……! 誰か! さっさとあの女を止めろ! たった一人なのだぞ!」
「来いよ小隊長! 武器を構えてかかってこい! どうした、怖いのかぁ~?」
「ちょ、調子に乗りおって……!」
……ミリーナの奴、馬鹿丸出しだな。いや、敵を圧倒しているからいいのだが。やたらとノリノリなのは、久しぶりにまともな敵を相手にできるという事に喜んでいるからだろう。私と戦った時は、ただの模擬戦だったしな。
しかし、挑発に乗ったのか、吸血鬼の小隊長が武器を構えて走り出した。あぁ、ちゃんと周りの部下たちも連れているな。さすがに一騎討ちをするほど無謀ではないか。
「神技! 《マクシミリアンの剣・千刃》!」
「ぬ、ぬおぉ!?」
ミリーナの叫びに呼応し、聖なる剣が、空間を切り裂いて現れた。彼女の頭上にふわふわと浮いており、横一線に並ぶ千本の切っ先は、全て敵に向いている。
「グッドラック!」
いい笑顔でサムズアップするミリーナ。悲鳴を上げながら、聖剣に切り裂かれていく吸血鬼たち。哀れ、ただの蹂躙である。
あの馬鹿、本当に楽しそうに戦っているな。見ていて少し引くほどだ。プルミエディアがこの場に居たら、間違いなく怯えていただろう。
「次!」
「ぐ……! お、応戦し……ぎゃああぁ!」
斬る、斬る、斬る。
どこか不気味な雰囲気さえも感じさせるその風貌とは裏腹に、彼女の表情は笑っている。獰猛に。好戦的に。バトルマニア的に。
……ああなった原因である私としては、ものすごく複雑な心境だ。
そして、神気を時空聖剣に纏い、極大の斬撃を放とうとするミリーナの周囲を、漆黒の鎧を纏った騎士たちが囲んだ。
その数、十人。
「……来たか。しっかりやれよ、ミリーナ」
あれこそが、リンドの主戦力。
十人のオーバーデッドだ。
感じる霊力の濃さから推測するに、全員がリアと同等か、それ以上の実力者たちだな。やはり、リアはオーバーデッドとしては若いのだろうか。
さて、ミリーナがせっかく作ってくれた機会だ。私は、私のやるべき事をやろう。
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