第4話 暗黒神様、イシュディア兄妹と顔を合わせる
「…………」
「…………」
訓練所に到着し、アレクサンドル卿と共に、兵たちの様子を見守る私たち。あの中の誰かが、レンという小僧なのだろうが……。全員白塗りの鎧を身に纏っているため、どれが“レン”なのか、皆目見当が付かない。身分によって装備を分けたりはしていないようだ。
「……フィオグリフ、と申したな」
「なん……でしょう」
「無理に堅くなる必要はない。素の口調で構わんよ。君から見て、あの中で、見込みのある者はいるかね?」
「…………」
不意に、アレクサンドル卿から声をかけられた。一応敬語を使ってみたが、無理をしているということがバレたらしいな。
訓練所に来るまでの間、全員が軽く自己紹介を済ませたので、名前は既に認知されている。
さて、見込みのある者、か……。
「伯爵さん。フィオにそう言うことを聞いちゃダメですよ~。この人は基準がおかしいから」
「失礼な。そのぐらいはできるぞ」
「……ほんとかなぁ?」
ミリーナめ。いちいち人をバカにしおって。まあ、私に対し、全く物怖じしない所も好ましいと思っているんだがな。
「アレクサンドル卿。あの赤髪の青年だ。まだまだ荒削りではあるが、他の者とは一線を画する戦闘センスを持っているな」
「ほう」
「だが……」
「だが?」
「あの、青髪の少女の方が、それよりも更に上だな。少なくとも、私にはそう見える」
「ふむ……」
統一された白塗りの鎧に身を包み、一般的な鉄の長剣を構える、赤髪の青年。背はそこそこで、人間形態の私と同じぐらいだろうか。他の者たちと比べて、一回りレベルの違う動きをしており、整った顔立ちと併せて、なかなかに絵になる男だ。
だが、そんな彼を明らかに上回る、いい動きをしている少女が一人。前髪を伸ばした青いポニーテールに、これまた整った顔立ち。それが、舞うように二つの長剣を振るっている。もしかしたら、うちのレラでも勝てないかもしれん程だと思う。
それにしてもこの二人、何か顔が似ているような気がするな……。
「やはり、お主もそう思うか……」
ふぅ、とため息を吐くアレクサンドル卿。この反応からすると、もしや?
「アレクサンドル卿、もしかして、あの二人が?」
並んで様子を見ていたプルミエディアが、そんな彼に問う。やはり、お前もそう思うか。
「少し、待っていてくれ」
コクリと頷き、三歩後ろに下がる我々。
そして、アレクサンドル卿が、前に進んでいき、両手を二回、強く叩いた。
その音に反応し、訓練をしていた者たちが、一斉に整列する。なかなか見事な連携だ。
「レン! シイナ! 前へ出るのじゃ」
「「はいっ!」」
ああ、やはりな。
前へ出てきたのは、あの赤髪の青年と、青髪の少女だった。この二人が、アレクサンドル卿の孫らしい。
「この度特別に、腕の立つ教官を複数名、用意した。一週間という短い期間ではあるが、かなりの腕利きじゃ。よく学び、少しでも多くの物を吸収するように」
「「はいっ!」」
……本当に孫と祖父かコイツら……。まるで、軍隊のようではないか。いや、そういう教育方針なのだろう。他の兵たちと同じ鎧を着せているのだしな。
ちらりとこちらを見る、アレクサンドル卿。前へ出てこい、と言いたいのだろう。プルミエディアたちと頷き合い、皆で前へ出た。
「フィオグリフ殿、代表して挨拶を頼む」
えっ、なぜ私なのだ? 一応、リーダーはプルミエディアなのだが。先ほど握手したのだって、彼女ではないか。
まあ、依頼主の要望とあらば、従うが。
「アレクサンドル卿から紹介された、フィオグリフだ。短い期間ではあるが、よろしく頼む。
特に、レン。それに、シイナと言ったか。お前たちは見込みがある故、私自らが鍛え上げてやろう。光栄に思え」
「「……はいっ! ありがとうございます!」」
一瞬の間があったが、私、というか我々が何者なのかわからないからだろう。アレクサンドル卿から教官として紹介された以上は、きちんと従うつもりのようではあるが。
「それでは、儂はこれで失礼する。後は頼むぞ」
「わかった……いや、わかりました」
「……だから無理して堅くなる必要は無いと……まぁ、いいがのう……。ではな」
我々の紹介を軽く済ませると、アレクサンドル卿はさっさと去っていってしまった。多忙なのだろうが、任せっきりでいいのか? いや、一応依頼なのだし、当たり前なのか?
まぁ、それはさておき……。
「引き続き、訓練を再開しろ。ああ、お前たちは私についてこい」
はいっ! と、威勢のいい声が返ってきた。早速、レンとシイナを呼び出し、改めてご挨拶しようと思う。
どこか適当な部屋でも借りるか……。
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