7話「紅い髪の少女」
コンコン。
部屋でのんびりとしているとノックの音が聞こえた。
返事をして扉を開ける。
「はーい。」
立っていたのは受付のお姉さん。
そしてその後ろに隠れるようにウェーブのかかった紅い髪の女の子。
フィーよりも少し年上に見える。
「おはようございます。こちらはフラムベーゼ・イストリアさん。今日からこの部屋に入寮されます。」
「ということは、新しいパーティメンバーですね。」
「ええ、そうなりますね。入学式も近いのであと一人もすぐに決まると思います。」
確かに入学式まではあと一週間もない。
「はい、わかりました。ええと・・・フラムベーゼ・・・さん?私はアリューシャです。よろしくお願いします。」
「ひっ・・・!?よ、よよよろしくおねがいします・・・。」
どうやら極度の人見知りの様だ。
「それでは失礼させて頂きますね。」
役目は終わったとばかりにお姉さんは去っていき、二人取り残される。
「えーと・・・とりあえず中へどうぞ。」
彼女を部屋の中へと促す。
「・・・っ!?」
部屋の中で待っていた他のメンバーの興味津々な視線に晒され固まってしまった。
これは重症だと思いつつ、代わりに俺が紹介する。
「今日からこの部屋に入寮するフラムベーゼ・イストリアさんだよ。」
その声に我に返り、ささっと俺の後ろに隠れる。
「ボクはニーノリア、ニーナって呼んでね!」
「フィーティア、です。」
「ヒノカ・アズマだ。よろしく頼む。」
震える手で俺の腕をぎゅっと掴み―――
「フラム・・・・・・・・・です。」
―――手と同じように震えた声でフラムは答えた。
「しかし、イストリアとは・・・。私の国でも名高い名家だぞ。」
「おお、そうなんだ?フィー、知ってる?」
「ううん、知らない。」
俺も全く聞いた覚えがない。
ヒノカが話を続けようとしたその時。
「――っ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・!!」
突然声を上げてフラムは耳を塞いで丸くなる。
・・・名家の子にも、色々あるんだろうな。
いきなりの出来事に対処できない三人は、互いに顔を見合わせオロオロとするばかりだ。
俺はフラムに近づき、きゅっと手を握った。
「ひっ・・・!?」
驚いて後ずさりしようとしたフラムをぎゅっと抱き寄せる。
「大丈夫、ここにいるのは皆フラムの仲間だよ。誰も虐めたりしないし、何かあれば私が守るから・・・ね?」
頭を撫でながらゆっくりと言い聞かせる。
「あっ・・・・・・・・・うっ・・・ぅぅ・・・ぐすっ。」
フラムの瞳から大粒の涙が溢れ出す。
俺はフラムが泣き疲れて眠るまでそのまま頭を撫でていた。
*****
眠ってしまったフラムを布団に寝かせてやり、一息つく。
「ふぅ・・・疲れた。」
目を覆い隠すまで伸ばされた前髪をそっと払ってやる。
これは前途多難だな・・・。
ぷにぷにと頬を突いてから立ち上がる。
「皆の所に戻るか。」
俺は音を立てないようにその場を離れ、皆の座っているテーブルに着いた。
それを待っていたかのようにヒノカが口火を切る。
「様子はどうだ?」
「今はぐっすり眠ってるよ。」
ヒノカの顔が曇る。
「そうか、彼女にはすまない事をしたな・・・。」
「他国の人でも知っているくらいの家なら、遅かれ早かれ起こっていた事だよ。学校が始まる前に分かって良かった。」
ニーナが首を傾げながら疑問を口にする。
「あの子、急にどうしちゃったんだろう?」
「まぁ・・・、名家って言われるくらいなんだし、家で色々あったんだろうね。」
「どういうこと?」
「厳しい躾けがあったりとか、他の兄妹から虐められたりとか。詳しい事は分からないけど。」
再びヒノカが口を開く。
「ふむ、でも何故あんな状態で学院に・・・。」
「厄介払いか荒療治か・・・多分その辺りじゃないかな。」
「まぁ、ただの想像だよ。」
「確かに、直接聞かなければ分からないか。」
ニーナがフラムの寝ている方を心配そうに見つめる。
「それよりあの子、これから大丈夫かな?」
「うーん、正直何とも。でもまぁ、何かあれば私達で何とかすればいいんじゃない?」
「うむ、そうだな。」
「あはは、たしかにその通りだね。」
「うん、賛成。」
その時、ちょうど夕方を告げる鐘が鳴った。
夕食時が近いが、あの状態では食堂は無理だろう。
「今日はこの部屋で晩御飯にしよう。とりあえず買い物に行ってくるから皆は部屋で待ってて。」
「私達も手伝うぞ?」
「いや、皆は部屋に居てあげて。目が覚めて誰も居なかったら寂しいでしょ?」
「・・・分かった。手が必要になら呼んでくれ。」
「うん、フラムの事は頼んだよ。」
こうして俺は部屋を後にし、スーパーへと向かった。
*****
窓の外はすっかり暗くなり、テーブルには既に夕食が並べられている。
俺はフラムを起こすために肩を揺すって声をかけた。
「フラム、起きて・・・ご飯だよ。」
「ぅ・・・ん・・・。」
フラムはゆっくりと目を開けて覚醒する。
「おはよう、フラム。」
「ぁ・・・ぅ・・・・・・ぉはよう。」
「もう晩御飯できてるから皆で一緒に食べよう。」
俺はフラムの手を取って立ち上がらせ、居間へと誘導する。
「ぇ・・・ぇ・・・?」
フラムを席に着かせ、自分もその隣へ座る。
「じゃあ食べようか。」
「ああ、そうだな。」
「やっと食べられるー。」
「いただきまふ。」
献立はおにぎりに玉子焼き、味噌汁、サラダだ。今日は全て俺作。
数日前と全く同じだが、決してこれだけしか作れないわけではない。
炒飯ぐらいは作れる。それ以外は無理だが。
席に座ってしゅんと縮こまったフラムは俺よりも小さく見える。
「ぁ・・・の・・・、ごめん・・・なさい。」
「私の方こそすまなかったな、話す切っ掛けになればと思ったのだ。」
「もー、そんな気にしちゃダメだってば。ちょっとフィー、たべすぎー!」
「何があったのかは聞かないけど、もっと気楽にね。それよりご飯食べてみて、今日は私が作ったんだ。」
とは言ったものの、もの凄い勢いで用意したご飯が減っている。
「・・・お姉ちゃん、足りなかったらまた作るから、もっとゆっくり食べようよ。」
「
最近フィーの食事量が大幅に増えている。
というのも冒険者の試験で何か感じるところがあったのか、訓練として常時強化魔法を使っているのだ。
その分エネルギーの消耗も増えるわけで。
どこの戦闘民族だよと言いたくなる食べっぷりだ。
金色のオーラを纏いはじめるのも案外近いかもしれない。
まぁ、そんな修行方法を教えたのは俺なんだが・・・・・・てへぺろっ☆
皆を見渡してフラムが尋ねる。
「手で・・・食べるの・・・?」
「うん、この海苔を巻いて食べるんだよ。」
フラムに手本を見せる。
おにぎりを頬張りながらフィーがフラムの手に”
「”
雑過ぎィ!
それでもちゃんと綺麗になっているのは流石だ。
「ぁ・・・りがとう・・・。」
「あ、フィー、わたしもー。」
「”
・・・呪文いらなくね?
フラムは教えられた通りに海苔を巻き、まじまじとおにぎりを見つめている。
薄く笑みを作ったかと思うと、その小さな口で頬張る。
一瞬固まるフラムだったが。
「・・・ぉぃ・・・しい・・・です。」
こちらを向いたフラムの顔には儚いながらも確かに笑顔が咲いている。
その頬に伝う涙も宝石のようだ。
「・・・・・・そか、良かった。沢山あるからいっぱい食べてね。」
この分なら皆と仲良くなるのもそう遠くないだろう。
俺は心の中でホッと胸を撫で下ろした。
*****
窓から差し込む日の光で目が覚めた。
伸びをして欠伸を一つ。
「ふぁ~~~っ・・・。」
日の高さから昼は過ぎていないようだ。
そろそろ学院も始まるので目覚まし時計でも欲しいところだが・・・、探せばきっと見つかるだろう。
寝ぼけ眼の耳元にフラムの声。
「ぉ・・・はよう、ございます・・・アリューシャ・・・さま。」
「ふぁっ!?」
俺の布団の横にちょこんとフラムが座っていた。
「お、おはよう・・・?」
俺の声を聞いたヒノカが顔を覗かせる。
「起きたか、アリス。朝食は準備してあるぞ、フラムの分もな。フィーとニーナは先に食べてすぐに外に出て行ったぞ。」
「ありがと・・・ぅ・・・ございます・・・ヒノカ・・・さま。」
「あれ、フラムは食べてないの?」
「お前と一緒に食べると聞かなくてな。」
「独りで・・・食べるのは・・・、寂しい・・・ですか・・・ら。」
「そっか、ありがとう。じゃあ一緒に食べよう。」
「はい、ご一緒・・・します。アリューシャ・・・さま。」
「えっと・・・・・・なんで”様”付け?」
「・・・っ!し、失礼・・・しました、ぶ、不作法を・・・お許し・・・下さい・・・!」
きっと貴族の作法というものがあるのだろう。
あら、アリス様では御座いませんの。ごきげんよう。オーッホッホッホ。
みたいな。
フラムは不慣れなせいか、全く貴族感が出ていないが。
ともあれ、涙目になったフラムに慌てて説明する。
「い、いや、逆だよ!作法とかはよく分からないけど、私達は同級生で同じパーティメンバーなんだから、そんなに畏まらなくても良いんだよ。」
「・・・ぁ・・・ぅ・・・・・・で、でも・・・。」
俺はフラムの手を取って呼びかける。
「フラム。」
「ぁ・・・は、ひゃい!?」
「私の事はアリスって呼んでくれると嬉しいな。」
「・・・ア、アリス・・・さま・・・。」
「あ、あはは、”様”は要らないよ。」
「・・・・・・ァ・・・リス・・・?」
「うん、そうそう。皆の事も”様”付けは無しだからね。あと敬語も。でも急には無理だと思うからゆっくり・・・ね?」
「・・・ぁ、ぅ・・・・・・は、はい、・・・。」
何とか落ち着かせることができたようだ。
ヒステリックな相手よりもかなり疲れる気がする。
まぁ可愛いからいいけど。
「あれは・・・”たらし”だね・・・。」
「うむ、末恐ろしいな、アリスは・・・。」
「・・・・・・からし?」
いつの間に戻って来ていたのか、ニーナはヒノカとこちらを見て失礼な事をのたまっている。
そんな能力を持ってればこの異世界には来ていない。
フィーはよく分かっていないようだった。
「ちょっ・・・二人ともー!」
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