3話「入学しました」
翌日、俺達はルーナさんの案内でレンシア魔術学院の門前までやってきた。
城と言われても納得する程の大きさの建物が聳え立っているのがこの位置からでも確認できる。
ニーナとフィーはその大きさに呆気にとられている。
「うわー、すごいなぁ・・・。」
「わぁ・・・。」
そんな二人にルーナさんが声をかけて進んでいく。
「ほらほら、見惚れてないで行きますよ?」
「「は、はい!」」
ルーナさんは門兵のところへ行き、入学者だと伝えた。
通用門から中へ通され、そのままルーナさんについていく。
お城のような校舎の脇にある事務所と書かれた建物に入り、ルーナさんが受付に挨拶した。
「こんにちは、あの子達の入学の受付をお願いします。」
「承りました。」
そう言って受付の人は同じ用紙を四枚用意し、ヒノカに手渡す。
「こちらの用紙に必要事項を記入し、あちらの入学受付へ提出して金貨五枚を納めてください。」
「ふむ、分かりました。」
ヒノカから用紙を受け取る。
こちらの異世界では見た事ないほど綺麗な紙だ。
ぶっちゃけコピー用紙と言った方が早い。
記入用の机にはボールペンが備え付けてあった。
こんなものまで作られているのかと、感心する。
記入を終えて他の三人の様子を窺うと、慣れない紙とペンに悪戦苦闘していた。
フィーの分は読めない程ではないが、綺麗に書けないようだ。
「お姉ちゃん、私が書こうか?」
「・・・うん、おねがい。」
フィーの分を書き上げると後ろにニーナが並んでいた。
「たのんだ!」
そう言ってニーナの分を渡される。
「これじゃ別人だよ・・・、ナーデリアさん。」
ニーナはもっと字の勉強をしたほうがいいと思います。
彼女の分の書類を書き直し、ヒノカの様子を見る。
ペンを真っ直ぐに立て、ペン先を震わせながら書いていた。
きっと故郷では筆を使っていたに違いない。
ヒノカにペンの使い方を教えると、なんとか自分で書き上げた。
それぞれの書類を持って入学受付へと向かい、書類を提出し、金貨を納めた。
「はい、確かにお預かり致しました。・・・冒険者の方がおられるようですね。ギルド証の提出もお願いできますか?」
ギルド証を首から外して渡す。
「はい、私です。どうぞ。」
「お預かり致します。少々お待ち下さい。」
そう言って受付の人が奥の扉へ入っていった。
五分ほど待つと先程の受付の人が戻ってくる。
「お待たせ致しました。こちらが学生証になります。冒険者の方の分はギルド証との兼用になっております。」
受け取ったギルド証は見た目には何も変わっていないようだ。
他の三人の学生証とは少し色が違う。
「”
試してみると空中にウィンドウが映し出され、その中に自分の情報が書かれている。
俺のはギルド証に学院生であることが明記されているようだ。
ギルドランクはEとなっている。
・・・ギルドランクって何だ。いや、分かるけども。
冒険者になった時にそんな説明一切聞いてないぞ。グリンドの野郎め。
他にも何か機能は無いかと確認しておく。
「ギルド証を受け取る時にはこんな説明を受けなかったのですが・・・。他に何かありますか?」
受付の人が頭を下げて謝る。
「申し訳ありません、地方や小さい街などにあるギルド員にはきちんと教育が出来ていないのが現状でして・・・。よろしければこちらをお持ち下さい。」
そう言って受付の人に渡されたのは【冒険者の手引き】と書かれたパンフレットだ。
さっと目を通すとギルドランクの事なども書かれている。
後で読んでおくとしよう。
「ありがとうございます、助かります。」
「いえいえ、こちらもお持ち下さい。」
渡されたのは【学院案内】と書かれた小冊子。
中には主な校則や学院の施設の紹介などが書かれているようだ。
「それで、皆様入寮はいつからなされますか?準備が必要ですので、明日から可能です。」
それなら早い方が良いだろう。
後ろの皆も頷いている。
「では明日からお願いします。」
「はい、承りました。皆様は同室で構いませんか?」
俺達は勿論と頷く。
「ではそのように手配致します。お時間がありましたら先にお部屋の説明をさせていただいても構いませんか?」
どうせ聞く必要があるのだから、今の内に聞いておくことにする。
「お願いします。」
では、と受付の人が説明を始めた。
基本的には六人で一部屋、パーティとしての課外活動はその六人で行う。
人数が六人を超えないのであれば部屋(パーティ)間の移動は自由。
ということらしい。
「―――以上ですね。何かご質問はありますか?」
説明を終え、一息つく受付の人に質問をぶつける。
「例えばなんですが、空き部屋があればそちらに数人で移動したりも可能ですか?」
「可能ですよ、実際にそういう方々がいらっしゃいます。ただし、パーティでの課外活動は人数が少ないほど難しくなりますけれど。」
「そうですか、ありがとうございます。」
その質問を聞いていたニーナが首を傾げながら俺に問う。
「何でそんなこと聞いたの?」
「一応自衛のためにね。」
「自衛?」
俺は説明を続ける。
「例えば凄く強い人が他のメンバーを奴隷扱いする部屋に居たいと思う?」
「そんなのイヤに決まってるじゃん!」
「そうだよね、しかも相手は強いから追い出せない。なら追い出されてやればいいんだよ。」
「そういうことかぁ!・・・でも、そんなこと本当にあるのかな?」
「分からない、けど・・・。」
「けど?」
「私達が下に見られる事はあると思うよ。」
そういいながら自分のつるぺたぼでぃを見下ろした。
ヒノカが顎に手を当て、思案顔で自分たちの身体を見る。
「確かに、その可能性は否定出来ないな・・・。私も人の事は言えまい。」
ヒノカの言葉にフィーとニーナが不安そうな顔になった。
ルーナさんの話によれば多く居るのは15歳程度の人達だという。ヒノカでギリギリくらいか。
一桁台も居ない訳ではないが、かなり珍しいらしい。
貴族の子息なんかのお金持ちな人は大体10~18歳で入学するようだが、そんな中に年下の平民グループ、トラブルの臭いしかしない。
ちなみにルーナさんは19歳で入学したと聞いた。
その歳までに冒険者稼業で稼ぐのはかなり凄い事だと、今では分かる。
備えは必要だが、皆を不安な気持ちにさせてしまった事に後悔しながら謝る。
「皆、不安にさせてごめんね。ただの可能性の話だからそんなに気にしないで?」
「いや、そういう心構えが出来ただけでも有り難い。私一人なら対処法も分からぬままだったしな。」
「そうだね。やられたらやり返せばいいんだよ!」
「・・・うん!」
決意した顔でニーナとフィーが頷き合う。
頼むからあまり物騒なことはやめて欲しい。
「というわけで、今日はこれで失礼します。ありがとうございました。」
受付のお姉さんに別れの挨拶をする。
「はい、明日またこの受付にお越し下さい。すぐにお部屋に案内する事になると思いますので、荷物の方もお持ちになって下さいね。」
「分かりました。」
手続きを終えた俺達は学園の敷地を出て、荷物整理のため宿へと戻った。
部屋に置いてあるそれぞれの荷物を確認する。
と言っても旅用の道具に衣類が少々ぐらいのものだが。
これ以外は必要になれば店で買えばいい。
そう考えてふと思い出す。
ここは【レンシアスーパーマーケット】の本店がある街でもある。
場所だけでも知っておきたいと思い、ルーナさんに声を掛けた。
「ルーナさん、スーパーマーケットの場所を確認しておきたいのですが。」
ルーナさんは頬に手を当て、数瞬考え――
「それなら皆で行きましょうか。」
*****
デカイ。超デカイ。
流石本店というだけはある。
セイランの街にある店舗の3倍くらいはありそうだ。
「ぉぉ~!でっかーい!」
ニーナははじめて見るスーパーに感動している。
「これが・・・店なのか?」
ヒノカも面食らっているようだ。
フィーは声も出ない。
そんな彼女らにルーナさんが買い物の仕方などを教える。
「面妖な、こんな店は初めてだ。」
まぁレジなんてあるのはこの系列店だけだろう。
この店のレジは商品を入れた籠を読み取り機の上に乗せるだけで金額を計算するようになっている。
どうやっているのかは不明だが、魔力を感じられるので魔法を使っている事は確かだ。
説明を終えたルーナさんは全員に銀貨を一枚ずつ配る。
俺とヒノカは断ったのだが、いいからと無理矢理持たされてしまった。
「それじゃあ皆好きなように買い物しましょう。終わったらここに集合よ。」
元気よく返事すると同時に、ニーナは籠を持って走り去って行った。
ヒノカも籠を持ち中へと入っていく。
一見落ち着いて見えるが、背筋が強張っているのが分かる。
フィーは勇気が出ないのか、入り口付近でオロオロとしている。
「行こう、お姉ちゃん。」
俺はフィーの手を引き、逆の手で籠を持って中へ入る。
内装も綺麗でちょっと高級なスーパーという感じだ。日本人感覚でだが。
ここでは少量だが生鮮食品も扱っているようで、冷えたケースの中に野菜や果物が並んでいる。
魔力が感じられるので、これも魔道具だろう。
更に散策を進めるとある物を発見した。
仰々しく飾られた小さくて透明なガラスで出来たケースを手に取る。
その中には歯ブラシが入っていた。
蓋を開けて中身をを取り出し、手触りを確認してみる。
日本で使っていたようなプラスチックで出来た歯ブラシだ。
素材は別のものを代用しているのかもしれないが、手触りは間違いない。
横からそれを見てフィーが目を輝かせる。
「わぁ、きれいだね。」
値段を確認すると銀貨10枚。高ぇ。
まぁいいや、買っちゃえ。金ならある。フハハ。
歯ブラシをケースに戻し、籠の中に入れる。
「そ、それ・・・買うの?」
値段を見たフィーが恐る恐る聞いてくる。
「うん、お姉ちゃんはどの色がいい?」
「で、でも・・・お金。」
俺は懐から金貨を1枚取り出し、フィーにこっそり見せる。
「大丈夫、ちゃんと持ってきてるから。」
「そ、そうじゃなくて・・・高いよ?」
まぁ、確かに高い。
それでも―――
それでも、だ。
「高いけど、私には必要だから。お姉ちゃんも気に入ってるみたいだし、好きなのを選びなよ。」
「で、でも・・・。」
「うーん、じゃあお姉ちゃんのはこれでいいか。」
そう言ってピンク色の歯ブラシを籠に入れる。
多分、この色を選ぶだろうしな。
「あ・・・。」
「他の色が良かった?」
「・・・・・・それでいい。」
歯ブラシの横の棚には【歯磨き粉】とラベルの貼られた瓶が置かれている。
チューブタイプじゃないのはコストパフォーマンスを重視したからだろうか。
こちらはお値段なんと銀貨1枚。高ぇよ。
その瓶を掴み、籠の中へ入れる。
「これ・・・なに?」
フィーが歯磨き粉の瓶を眺めながら聞いてくる。
「この歯ブラシを使うときに一緒に使うものだよ。」
「ふーん・・・?」
よく分かってなさそうだが、使い方は後で教えればいいか。
歯磨きの概念は無い事も無いが、木の皮を齧ったりする程度だ。
それよりももっと便利な”
歯磨きくらいなら、少ない魔力量で殆どの人が出来るだろう。
俺はその”魔法”を使えないわけだが。
その原因が学院でわかるのだろうかと考えながら、店の散策を続けるのだった。
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