283話「光の民の長」
俺のことを拝み倒していたお婆さんをなんとか落ち着かせ、席に座らせてから話を再開する。
「まぁ、神言師の婆さんが言うんなら”光の使者”殿で間違いあらへんやろ。」
ドドガルは納得したように頷く。
あのお婆さんの言葉だけであっさり納得するとは一体何者なのか、ココリラに尋ねてみる。
「あの、神言師というのは?」
「神の言葉を授かる巫女のことや。あの人は当代の神言師トトネラ婆さんやね。光の民にはおらへんのか?」
「そういう人には会ったことありませんね。」
神サマとは会話したこともあるので、俺もある意味神言師と言えるのかもしれないが・・・・・・あの神サマが転生者でもない相手にわざわざそんなことするか?
いや、しないな。
「トトネラさんはどういった言葉を授かったんですか?」
「光の使者さまに導かれ、皆が光差す土地で暮らす景色を夢で見せていただいたんですわ。」
どうやら予知夢的な能力らしい。
その見れる夢というのもかなりおぼろげなものなのだそうだ。
ただ、話がまとまれば”光の使者に導かれて光差す土地で暮らす”という予知だか預言だかは達成されそうだ。
”光差す土地”とは大層な表現だが、要するに陽のあたる場所だろう。
実際はだだっ広い草原があるだけの場所なのだが、この鬱蒼とした森に囲まれた洞窟で暮らす彼女にはそういう風に映ってもおかしくはない。
「ほんで、使者殿は何しにこんなとこまで来たんや?」
どうやらドドガルは俺を”光の使者”と認定したらしい。
否定したいところだが、それはそれで面倒そうだ。
ここは肯定も否定もせずに流していこう。
「一番の目的はノノカナさん達を送り届けることですね。それから・・・・・・他の事は私の上司を呼んでからにしましょう。」
俺が話をするよりも、さっさとレンシアを呼んでそっちで話を纏めてもらった方がいいだろう。
その方が二度手間にならずに済む。
「・・・・・・じょうし、とは?」
「えーっと・・・・・・光の民の長みたいな人です。」
間違ってはいない・・・・・・と思う。
実質ほとんどの国を裏から牛耳ってるわけだしな。
「ひ、光の民の長さまやて!?」
お婆さんが椅子ごとひっくり返りそうな勢いで驚き声を上げた。
驚きのあまり心臓が止まってポックリ、なんて止めてくれよ・・・・・・。
「せやったら郷のもん総出で歓迎の準備をせんと! 何をボーッとしとるんやドドガル!」
やばい、このままだと更に大事になりそうだ。
走りだしそうなお婆さんを慌てて引き留める。
「ちょ、ちょっと待ってくださいトトネラさん! そういうのは当人もあまり喜ばないと思うので、代わりに大きめの部屋を少しの間お借りできませんか?」
俺の言葉にココリラが首を捻る。
「ん~、ここより大きいとこ言うたら・・・・・・倉庫くらいしかあらへんのちゃうかな。それでも構へんのか、アリスちゃん?」
「はい、ある程度の広さが確保できればどこでも良いので。」
「せやったら空いとる倉庫があるさかい、使者殿にはそこを使うてもらおか。」
「ありがとうございます。では早速案内していただけますか?」
「ええけど、何に使うんや?」
「言ったじゃないですか、上司を呼ぶって。」
*****
案内してもらった倉庫は丁度良い大きさで、中も空っぽ。
これなら準備にさほど時間は掛からない。
インベントリから大きな巻物を取り出し、ココリラとノノカナに手伝ってもらいながら床に広げていく。
「これは何なんや、アリスちゃん?」
興味津々な顔で聞いてくるノノカナに軽く答える。
「私の住んでたところから一瞬でこの場所へ移動するための魔道具だよ。使い捨てだけどね。」
「そないな事できるんかいな!? 光の民は凄いんやな! ・・・・・・せやったら何でウチら歩いて来たん?」
「これを設置した場所にしか行けないからだよ・・・・・・っと、こんなもんかな。」
魔法陣が床にきっちりと広げられたのを確認し、レンシアにメッセージを送る。
郷に入ってからは平行して彼女と連絡を取っていたので、程なくすれば転移してくるだろう。
「お、何や光りだしたで。」
「おぉ・・・・・・これが光の民の御業。」
魔法陣が淡く光を放ち始め、魔法陣の上の空間が揺らめきながら歪みはじめる。
そしてその歪みの中からレンシアが姿を現した。
普段のラフな服装ではなく、余所行きの恰好だ。
「使者殿・・・・・・光の民には小さい人しかおらんのでっか?」
俺への問いに、レンシアが変わって答える。
「子供の姿をしているのは私やそこの”使者”も含めて一部だけですよ。ちゃんと大人も居ますのでご安心を。」
少々トゲのある言葉。
どうやら勝手に”光の民の長”にしたことにお怒りのようだ。
仕方ないだろ。”光の使者”なんて大層な役、道連れがいないとやっていられない。
「では、場所を変えて」
応接室まで戻り、レンシアがここまでの経緯を掻い摘んで説明しはじめる。
「魔力が切れたら石になるって・・・・・・そんなわけあるかいな!」
「ホンマやねんって父ちゃん! 姉ちゃんかて見てるねんで!」
ドドガルが怪訝な顔をココリラの方へ向ける。
「・・・・・・ホンマなんか、ココリラ?」
「ホンマやで。ウチが見たのは”黒い石”がボボンガになるところやけどな。」
「ココリラがそう言うならホンマなんやろな・・・・・・。」
「ちょっと! 何でウチの言う事は信じひんのに姉ちゃんの事は信じるねんな!」
「そら普段の行いが悪いからやろ、アホ妹。」
「なんやねんな! アホって言う方がアホやねんで、アホ姉!」
「まぁまぁ、ドドガルさんも見てもらった方が早いですよ。」
レンシアの目配せを受け、インベントリの中から”黒い石”を一つ取り出して見せる。
「これがその石なんか? ただの石にしか見えんけどなぁ・・・・・・。」
「アリス、頼む。」
レンシアの言葉に頷き、”黒い石”に魔力を注ぎ始めた。
次第に”黒い石”が変化していき、人の姿を取っていく。
「おおっ、タタナバ! どうやら石になるってのはホンマみたいやな。・・・・・・その石が迷惑掛けたって話も。」
「いえ、知らなかったことですから仕方ありませんよ。それに、こちらも犠牲者を出してしまったわけですし。」
割れた石の数は把握していないが、大半は割れてしまったはずだ。
その数はこれから判明していくだろう。
ドドガルが重い溜め息を吐いて答える。
「気にせんでかまへん。アイツらも魔物にええように使われるよりは本望やろ。」
「そう言っていただけると有難いです。」
「他の残った石はどないなっとるんや?」
「アリスに預けてあります。今からでも戻させましょうか。」
「よろしゅう頼むわ、使者殿。タタナバのこともあるし、別の部屋用意させるわ。」
「アリスちゃんにはウチらが付いてるから、お父ちゃんたちは話進めといて。」
「あぁ、そっちは任せたで。」
「ほな行こか、アリスちゃん。」
ココリラたちと一緒に席を立つ。
まぁ、俺がここに残っていても話すことは無いか。
あまりこっちに振られても困るしな。
レンシアに任せておけばうまく話を纏めてくれるだろう。
「それじゃあ、貴方たちの言う”約束の地”について――」
扉が閉められ、レンシアたちの声が聞こえなくなる。
「はぁ~、息が詰まるわ。」
「コラ、しゃんとしい、ノノカナ。」
「はぁ~い。」
「全く、アホ妹ときたら・・・・・・。また迷惑かけてまうけどお願いね、アリスちゃん。」
二人に医療所のような場所に案内され、そこで石の復活作業を行うことになった。
そしてレンシアたちの話は夜まで続き、夜にはささやかな宴が開かれた。
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