282話「ラマント」
ココリラたちとの再開をひとしきり喜んだあと、ドドガルの視線が俺の方へ向けられる。
「ほんで、こっちのちっこいのは何や?」
「聞いて驚きなや、父ちゃん。この子は光の民のアリスちゃんや!」
ドヤ顔のノノカナに怪訝な表情を浮かべるドドガル。
「光の民・・・・・・? それホンマなんか、ココリラ?」
表情を変えないままドドガルがココリラへ問いかける。
ノノカナでは話にならないと判断したのだろう。
「ウチに言えるのは、アリスちゃんとウチらは違うって事だけやな。それは見たら分かるやろ?」
「まぁ・・・・・・せやな。」
今度は値踏みするような視線が俺に向けられる。
彼が疑うのも仕方がない。
そもそも自分が”光の民”だという証拠なんてないし、知ったのもつい最近である。
・・・・・・授業で言ってたかもしれないけど。
それでも証拠とするには根拠が無さすぎる。
「私が知っているのは、私の種族がその昔”光の民”と呼ばれていたらしい、ということだけです。私が言えるのはこれくらいですね。」
「せやけど。」
ココリラがドドガルの視線から守るように俺の前に立ちふさがる。
「ウチらがアリスちゃんとこに世話になったんは事実や。ウチの客にこれ以上失礼晒すんは、いくらお父ちゃんでも許さへんで。」
「わかったわかった。ま、こんなとこで立ち話もなんや。中に入りや。」
入り口をくぐり、舗装された通路を進んでいく。
外の光が届かない通路だが、魔力灯で照らされ躓くことはない。
しかし所々魔力灯の光が失われている。入り口の自動ドアと同じく整備がされていないのだろう。
通路を抜けると大きくくり抜かれたような場所に出た。
ここも通路と同じく魔力灯がちりばめられるように配置され、視界が闇に閉ざされることは無い。
その光を使って畑も作っているようだ。
だがやはり、ここでもいくつかの魔力灯が光を失っている。
そのせいで稼働していない畑もあるようだ。
逼迫はしていない様子だが、それもいつまで持つかは分からない。早急に改善策をとる必要がありそうだ。
しかしそれらのものよりも更に目を惹くものが郷の至る所にあった。
――黒、黒、黒、黒、黒。
見える限りの郷に居る全員が、黒い毛皮の外套を羽織っている。
見張りの人やドドガルだけならばそこまで気に留めなかったが、これだけ多いと流石に気になる。
そしてそれはこの郷に至る道中に散々見てきたものによく似ている。
「あの、ココリラさん。皆さんが着ている外套って、もしかして・・・・・・六本脚の毛皮で作ってるんですか?」
「せやで。あれ着とったら寒いときは暖こうなるし、暑いときは涼しゅうなるんや。丈夫やしな。」
それどこかで聞いたことが・・・・・・って、いつだったか森で魔物に追われている人を助けた時に”黒い石”と一緒に手に入れた黒い毛皮か。
あの時は助けた人を見失ってしまったと思っていたけど、ノノカナたちと同じで魔力切れで石になってしまっていたのだ。
外套は機能性を重視しているのだろう。多少の違いはあれど、作りはほぼ同じである。
だがその所為で妙な統一感があり、傍から見れば怪しい集団に見えてしまう。移住してもらうなら少し考えた方が良さそうだ。
「はぁ~、やっと家着いたわ!」
ノノカナの声に顔を上げると、岩盤をくり抜いて作られた家があった。
長の家らしく、周囲の建物よりも一回りほど大きい。
出迎えてくれた家令がドドガルに耳打ちされ、どこかへ駆けていく。
そうしている間に中へ案内され、応接室へ通された。家具は石や木でできたものばかりだが、丁寧に作られている。
「まぁ適当に座ってくれや。茶でも淹れさせるさかい、話はそれからでも構へんやろ。」
「わ、分かりました。」
「ほら、座って座ってアリスちゃん。」
ココリラに手を引かれてソファのような長椅子に座った。
向かいの席にドドガルがドカリと腰を落とす。
「えっ、ちょ・・・・・・っ!?」
目の前に広がった光景が一瞬理解できず、声を上げてしまった。
「なんや、どないしたんや?」
「い、いや、あの・・・・・・何で裸なんですか!?」
ドドガルが腰を下ろした瞬間、外套がはだけ・・・・・・ボロンしたのである。
しかし当の本人どころか、ココリラたちも意に介した様子はない。
「お父ちゃんがどないかしたんか?」
「服とか・・・・・・着ないんですか?」
「服って・・・・・・あぁ、アリスちゃんとこでもろたコレのことか?」
ココリラが今着ている服を指差す。
ちなみに着ているのは学院の制服だ。
「そうです・・・・・・。」
「郷にはこんなんあらへんねぇ。」
「え、じゃあ外にいた人たちも・・・・・・。」
「みんな同じやで。」
つまり・・・・・・全員全裸マントなのか!?
今、何となく感じていた違和感の正体が分かった。
俺が昔毛皮を拾った時、毛皮と石以外なにも無かったのだ。服や下着に類するものは何も。
だからこそ人が石に化けたなんて思い付けなかったのだ。
全裸マント集団なんて怪しいを通り越してるし、移住してもらうならしっかり調整しないとダメなようだ。
「どうぞ、お召し上がりください。」
しばらく待っていると、お茶とお茶菓子がテーブルに準備された。
お茶菓子には果実を切ったものと、クッキーに似た何かが並べられている。
手をつけないのも失礼なので、正面から視線を逸らしつつクッキーっぽいものを口へ運ぶ。しっとりとした食感で、独特の甘さ。
おそらくは素材にした木の実か何かの味がそのまま出ているのだろう。
流石に砂糖なんかをふんだんに使っているレンシアの街で売られているようなお菓子とは比べるべくもないが、これはこれで人気が出そうだ。
ゆっくりお茶を味わっていると、扉の向こうが騒がしくなってきた。
「ワシも歳なんやから、あんまり急かすもんやないて。」
皺枯れた老婆の声が廊下から聞こえてくる。
先程の家令が急いで連れて来たようで、不満がたっぷりと漏れだしている。
扉が開かれると、杖をついた一人の老婆が招き入れられた。
「おぉ、よう来てくれたな婆さん。」
「なんやドドガル。あんま年寄りを呼びつけるもんとちゃうで。」
「すんまへん。せやけど、どうしても婆さんに見て欲しいもんがおってな。」
「なんやねん藪から棒に。いちいちワシが見るもんなんか――」
お婆さんの視線が俺のところでピタリと止まる。
「光色の御髪・・・・・・それに二角・・・・・・ま、間違いあらへん! この御方こそ光の使者さまや!」
ははぁ~っと床に膝をつき頭を垂れるお婆さん。
「なんやて!?」
素っ頓狂な声を上げるドドガル。
それはこっちのセリフなんだが・・・・・・。
もちろんであるが、俺が”光の使者”とやらになった覚えはない。
確かにやろうとしてることは彼らに伝わる”光の使者”と同じことであるが、相手はそれを知る由もないはずだ。
「アリスちゃんが”光の使者”やったん!?」
「違うと思うんですけど・・・・・・。」
「ちゃうわけありません。光色の御髪と二角、言い伝え通りのお姿ですよってに。」
光色の御髪って・・・・・・金髪のことか?
まぁ、言われてみれば光の色と言えないこともないが。
あと二角ってなんだ?
俺には角なんて生えて・・・・・・あ、ツインテのことか!?
そういや遺跡で見つけた土偶みたいな像がそんな感じだった。祀っていたみたいだし、あれが”光の使者”なのかもしれない。
フラムが俺に似ているなんて言っていたけど、あながち間違っていなかったのかもしれない・・・・・・。
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